第50話

 夏休みも中盤へと差し掛かっていた。

 本当なら今頃、塾に通って受験に向けた夏期講習などを受けていたのかもしれない。

 だが、あいにく俺には金がない。一応、各塾の資料などを取り寄せてはみたが、どこも十万円前後。個別指導ともなれば、十五万円するところもあってさすがに無理。給料のいい家庭教師のバイトをしているとはいえ、払えるわけがない。貯金もある程度しなくちゃいけないことを考えると、やはり貧乏の俺は自宅でせかせかと参考書と向き合っているしかないだろう。

 というわけで、今日も朝からみっちりと勉学に励んでいるわけなのだが、


「うはあああああああああああああ! うるせええええええええええええ!」


 思わずテーブルごとひっくり返してしまった。

 スマホからの着信音がさっきからひっきりなし。

 床に落ちたスマホを拾い上げ、画面を確認すると、綾小路から百件にも及ぶメッセージが来ていた。

 もはやヤンデレ? ストーカー?

 ことの発端を簡潔に説明するならば、今日の夕方から近くで花火大会が開催されるのだが、昨晩にそのお誘いがきた。本田さんからも実はきていたのだが、勉強に集中したいという旨を伝えると、すぐに理解を示してくれて、「がんばって」というメッセージも送ってくれた。ほんと天使。

 それなのに綾小路とくれば……「一日くらいいいじゃん!(・∀・)」「行きたい行きたい行きたい行きたーい!。゚ヾ(゚`ω´゚ノシ゚。)ノシ」「新しい浴衣買ったんだよ? ね? 行こう? お願い!(>人<;)」と、さっきからめちゃくちゃしつこい! どれだけ断ってもキリがないため、無視でも決めとこうかと思っていたのだが、着信の嵐。もう着否でもしておこうかと思った矢先、またメッセージが届く。

“一緒に行ってくれるならボーナスを支給するわよ?”

 ……。

 いやー、今月は何かとカツカツなんだよね。夏期講習を受けない代わりに新たに参考書類を何冊か購入した結果、相当な支出になってしまったわけで……。

 俺はすぐさまメッセージを送り返す。

“わかった。今すぐ行く”

 別にボーナスをもらえるから行くのではない。

 これは仕事だ。そもそも俺と綾小路の関係は“偽恋人”だったからな。花火大会という夏の定番イベントに恋人である俺たちが参加しないのは不自然極まりないだろ? 学校でも一番有名なカップルだと思うから、こういう目立つイベントにはなるべく行った方がいい。てか、花火大会というと、恋人の中では必須参加イベントみたいなところがあるし。恋愛ドラマとかアニメでも大概花火大会でイチャイチャしている描写がされているし、仕方がないよな?

 時代がそうさせているのか、それとも世間がそのように結びつけているのか……とにもかくにも午後三時。

 ちょうどキリのいいところだったため、勉強を切り上げると、必要最低限の荷物だけを手にして家を飛び出した。

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