第51話

 綾小路邸に向かうと、玄関先では珍しくも林田さんの隣に浴衣姿をした綾小路が立っていた。

 まるで「見て見て!」と言わんばかりにその場でくるりと一回転してみせる。

 朝顔柄がとても似合っていて、髪型をアップにまとめているせいかうなじが艶かしい。大人の女性を連想させるような落ち着いた雰囲気と色気に多少欲情してしまいそうな自分をぶん殴ってやりたいところだが、ある一点が妙に不自然というか……お前、そんなに大きかったか?

 浴衣といえば、やはり帯を絞めるものだ。

 女性であれば、絞めることによって体のラインが浮き上がり、胸もかなり強調されてくると思うのだが、綾小路の場合は……もはや爆弾?

 鎌倉の由比ヶ浜で見た時はせいぜいCカップくらいだろうと思っていた。

 それなのに今は“パッと”見、Eカップくらい? “パッド”だけに? ガハハハハ。

 ともかくとして、それくらいたゆんたゆんしているということだ。


「どう、かしら?」


 綾小路は少し恥ずかしそうな素振りを見せながらも上目遣いでこっちを見つめてくる。


「あー……うん。おっぱいおっぱい」

「は?」

「あ、すまん。口が滑った。うん、めちゃくちゃ似合っていると思います……」


 我ながらにどんな口の滑らせ方だよ。

 綾小路は一瞬険しい表情を見せたものの、俺の感想を耳にした瞬間、頬を染めながらも嬉しそうに微笑む。

 あの綾小路に限って、胸を盛るだなんて考えにくいが、どう見ても絶対にパッドが仕込まれている。なんの目的で誰のためにそんなことをしているのかはわからないが……周りの誰かから“貧乳”だとでも言われたのだろうか? そうでもなきゃ、この変化に説明がつかない。

 ここはひとまず優しさを見せて「綾小路のおっぱいはちっぱいではないッ!」ということを高らかに言ってやるか?

 ……。

 …………。

 いや、やめておこう。普通に考えてセクハラだし、綾小路の隣には林田さんがいる。口にした瞬間、骨も残らないくらいにボッコボコにされてしまうかもしれない。


「ん? どうかしたの?」


 綾小路が俺の様子に不審にも思ったのだろう。

 ――一旦、この件については忘れよう。

 別にバッド入りでもいいじゃないか。俺には関係ない。

 おっぱいは女の子の胸に付いているからおっぱいなのだ。この自論で基づけば、パッドもおっぱいの一部になる。何言っているのか自分でもわからないんだけど!


「すまん。少しぼーっとしてた」

「大丈夫なの?」

「ああ。それより花火大会に行くんだろ? その前に少しでも勉強するぞ」

「えぇ〜……今日くらいいいじゃ〜ん」

「よくない! 少しの時間でも無駄なくコツコツと積み上げてこそ結果がついてくるもんだからな。ほら、さっさと接待室に行くぞ」

「えぇ〜……チッ」

「舌打ちすることないだろ……」

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