第67話

 高く昇っていた太陽はすでに沈みかけ、山の向こう側へと消えゆこうとしている。

 体育祭は無事に大成功を飾ったのだが、俺たちは見事に完敗。

 別に勝ち負けなんてどうでもいいとすら思っていたが、なんか悔しいのはどうしてだろうか?

 若干、憂鬱な気分になりながらもテントやらの後片付けをして、グラウンドはすっかりこれまでの風景を取り戻しつつあった。

 こうして殺風景となってしまった姿を見てみると、なんだか虚しいものを感じてしまう。

 体育祭はなくなってもいい行事とか思っていたけど、全力で取り組んだ今となってはかけがえのないものだったと気付かされる。


「じゃあ、またね」

「ああ、またな」


 帰りの支度を済ませた後、校門付近で綾小路と別れる。

 普段であれば、この後は家庭教師があるため、一緒に帰宅するのだが、今日に限っては体育祭の後ということもあって休みだ。

 それに俺自身、用事がある。スーパーの夕方限定特売セールという名の。


「ん?」


 久しぶりにボロアパート(嵐で全壊した)があった方向へと足を進めようとした時、ポケットに突っ込んでいたスマホが急に震え出し、着信音が鳴り響く。

 すぐにスマホを取り出し、画面を覗き込むと、そこには『夏葉』の文字。


「……」


 夏葉は二歳年下の妹だ。

 俺とは正反対で容姿端麗、才色兼備、文武両道で周りからは似つかない兄妹として、よく言われていた。まぁ、実際には血の繋がりなんてないんだけどな。夏葉は、たぶんこのことは知らないと思うけど。

 ここ最近、ずっと電話がかかってきている。

 一体なんの用事でかけてきているのか。

 クズな両親の元で暮らしていた時は、ほとんど会話すらしてこなかった。小学生の時は何かと「おにぃ! おにぃ!」と呼んでくれていっつも一緒だったけ。

 そんな可愛かった妹も大きくなるにつれ、俺と会話することもめっきりと減ってしまった。おそらく両親が何かしら吹き込んだんだとは思うけど。

 どのくらいか出ようか出まいか悩んだ後、自然と着信音は消え去ってしまう。

 ――結局、今日も出られなかったか……。

 妹のことは今でも大切に思ってはいる。

 だけど、あのクズの元で暮らしている身と考えると、何を言われてしまうんだろうかと怖くて出られない。

 ――この先もずっと怯えたままでいいのだろうか……。

 無意識にもため息を吐いてしまう。

 今度は俺が家族と向き合う番、か…………。


【あとがき】

新作『大雨の日に、ノラ猫を拾った。』があまりにも伸びなさすぎて、早くも継続して連載しようかどうか悩んでる。


やっぱり大学生ものは伸びないなぁ〜……

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学年1位の成績を誇っている俺が、同じく学年2位の美少女の家庭教師をすることになった 黒猫(ながしょー) @nagashou717

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