第32話

 高速道路を経て、約一時間。

 俺は空港へとやってきていた。

 てっきり近場の方だとばかり思い込んでいただけあって、呆然としてしまう。

 空港は今、夏休みということもあって利用者がかなり多く感じるのだが、そもそもここに来ること自体が初めてだ。普段がどれくらいなのかがわからない以上、混雑しているのかすら見当がつかない。

 ひとまず林田さんの指示に従いながら、ラウンジの方へと移動する。

 テレビとかでよく見るような搭乗待合室とは違い、おそらく有料なのだろう。ソファーはしっかりとした皮張りになっていて、高級感漂う空間となっている。


「あ、綾小路? 一応の確認なんだが、国内だよな?」


 適当なところに腰掛けたところで隣でスマホをいじっている綾小路に訊ねてみる。

 もし国外なら俺、パスポート持ってないから無理なんだけど?

 ただでさえ旅行とは無縁の人生。飛行機だって今回が初めてになるというのにパスポートなんて当然所持しているわけがない。しかも発行するにしてもたしか一万円程度はかかったような気がするし、お金がない貧乏学生には無理だ。


「当たり前でしょ? 海外だったらもっと早めに連絡するわよ」

「そ、そうか」


 とりあえずはひと安心。国内だったらパスポートも必要なかったと思うし。

 それにしても一体どこにいくつもりなんだ?

 目の前にはガラス張りの壁を通して、滑走路の風景が映し出されている。

 今にも飛び立つのだろう。人生初の生飛行機にどこか子どものようなわくわく感が込み上げ、ついつい見入ってしまう。

 記念に写真でも撮っておこ。

 今年十二月にまた修学旅行と題して、飛行機に乗る機会があると思うが、夏の景色を背後とした画はなかなかに美しい。

 大きな入道雲と青い空に眩しい太陽。

 そして優雅に飛び立つ飛行機。

 それらをスマホに収めたところで林田さんが手続きを終えて戻ってくる。


「お嬢様、準備が整いましたのでさっそく」

「それじゃあ田代くん。行きましょ?」

「ああ……」


 初めての飛行機に謎の緊張感と高揚感を覚えつつ、俺は綾小路たちの後を追ってラウンジを出た。


【あとがき】

 これからが本格的に面白くなってくるところ???

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