第31話

 バスみたいに車体が長いリムジンに乗車することができるなんて夢にも思わなかった。大抵リムジンと言えば、高級車な故に一般ではほとんど見かけることがない。テレビやネットでしかその存在を知ることができず、俺の中では幻にすら近い車種だったというのに初拝見は愚か、移動車両として乗ることができるなんて滅多にない体験なのではないだろうか?

 かと言って、俺は別に車好きでもない。だからいくら高級車であろうと、一般車とどこが違くて、性能がいいとかはまったくもって無知に近い。ただ、内装はリムジンの場合、全シート皮張りでちょっとした個室に近いような気がする。あと、走行時も案外滑らかでエンジン音もわりかし小さいし……それくらいか?

 ともかくとして、林田さんが運転する高級車に揺られながら俺たちは市内を走っていた。


「そう言えば、どこに行くんだ?」


 よくよく考えてみれば、まだ行き先すら教えてもらっていない。二日前の中央駅付近にあるルナバで一緒に旅行へ同席してほしいと頼まれた以来、日程と待ち合わせ時刻しか連絡をもらっていなかった。

 ちなみにランジェリーショップでの例の件については綾小路の寛大な対応によって、不問となった。


「まだ言ってなかった?」

「こっちは何も大まかなことくらいしか聞いてねーぞ」

「あら、そう? なら、到着してからのお楽しみってことでいいじゃないかしら? そっちの方がわくわく感が増すでしょ?」


 そうは言われてもねぇ〜?

 こちとら遊びに行っているつもりではないから、そもそもがわくわく感とかないんですけどね!

 まぁ、寝泊まりする場所と勉強できるスペースがあれば、どこでもいい。今回の旅行に関してはこっちとしてはあまり楽しむつもりはないし、一緒に来ている奴が奴だ。到底、楽しめる間柄じゃねえ。

 それにしても二日前に買い物した時は水着も購入してたからそのことを鑑みると、単純的に海岸周辺付近となるが……どこがあるだろうか? 現状を織り交ぜながら、考察してみると、北方向へと進んでいるあたり、南の方でないことは確かだ。市内には一件だけ海水浴場があった気がするが、その周辺には宿泊施設などなかったはず。となると、必然的に市内ではないことが明らかになるわけだが……うーん。車内で勉強するのもいいのだが、車酔いしそうだから時間潰しがてら到着まで推理してみようかな?

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