第19話【改稿済み】

 よくよく考えてみれば、高校生のうちに女子の家にお泊まりすることなんてあるだろうか?

 大抵は幼なじみだったり、家族ぐるみでの付き合いがない限りは滅多にない。

 これはギャルゲーで言うならば、一種のイベント。脱衣所やトイレでのラッキースケベを期待してしまいそうになるが……まぁ現実世界では絶対にありえないわけであって、虚しくもお風呂は男女きちんと分けられており、トイレも複数箇所存在していた。さすが豪邸。男なら誰もが一度は夢に見るシチュエーションをことごとく破壊していく。

 銭湯かっていうくらいの大浴場で一人のんびりと入浴を済ませた後、用意してもらった部屋着に着替え、リビングへと向かう。

 そこには大きなテーブルが一つ置かれ、その上には美味しそうな匂いを放った料理が並べられていた。


「何ぼーっとしてんのよ。早く座ったら?」

「あ、ああ……」


 すでに着席していた綾小路に促されるがまま、俺も席へと座る。


「いただきます」

「いただきます……」


 それからして、すぐに夕飯を食べ始めたのだが、なんか思っていたのと違う。

 綾小路家はお金持ちだから、てっきり毎日高級食材を使ったフレンチなどを食べているのかと思っていた。しかし、今目の前にあるのはどれも庶民的な料理。肉じゃがとほうれん草のおひたし、金平牛蒡に味噌汁とご飯。どの料理もあまり金額はかからないものばかりだと思うのだが……もしかすると食材が厳選された高いやつとか?


「どうしたの? 食べないの?」


 俺の様子を見かねてか、目の前の席に座っている綾小路が声をかけてきた。


「あ、いや、その想像していたのとなんか違うなと言うか、庶民的と言いますか……」

「別に庶民的な料理でも悪くないじゃない。もしかして私の家がお金持ちだからキャビアとか高級食材を使った料理が出てくるとでも思ってたんでしょ?」

「まぁ……思ってはいたけど」

「そうね。でも、昔はそんな感じだったわ。いかにもお金持ちが食べてそうな料理を朝、昼、晩問わずにね」


 綾小路の表情に影が降りる。


「高級食材を食べても美味しいとは思わないわ」

「綾小路……」


 俺はどう言葉をかけてやるべきかわからなくなった。

 綾小路にもそれなりに事情を抱えているのだろう。この家に両親がいないのもきっと何かしらの理由があるに違いない。

 だが、それを容易に踏み込んでもいいのだろうか?

 人には踏み入れられたくない事情というものも時にはある。

 それなのに無理やり踏み込んでは問題を解決しようだなんていうのは烏滸がましいにも程があるだろう。

 俺のように綾小路もまた同様な“闇”を抱えているのかもしれない。それをどうするべきか、どのように解決するべきかは誰か第三者を通してではなく、きっと自分自身でその判断をしなくちゃいけない。そうでなければ本当に解決したとは言えないから……。


「ごめんなさい。食事中に変な空気にさせてしまったわね。ほら、この肉じゃがとか美味しいから食べてみて? これ全部林田が作ったのよ」

「え、そうなの?」


 俺は勧められた肉じゃがに箸を伸ばす。

 うん。たしかに美味い! というか、小料理屋でも普通に出せるレベルで味がしっかりと染み渡っていてご飯が進む。

 昼以来、何も食べていなかったということもあって、俺は夕飯にがっついた。


「そんなに急がなくてもおかわりはあるのに。あ、一応言っておくけど、食材もすべて地元のスーパーで買ってきたものだからね?」

「え、マジ?」


 味だけを評価するならば、一流料亭よりも上なんじゃないかというくらいにレベルは高い。いや、料亭なんてそもそも行ったことはないんですけどね。


「林田はミシュランガイドで三つ星を獲得したレストランの元総料理長でもあったからね。いくら高級食材を使ったとしても味はその料理人次第でどうとでもなるわ」


 そう言われると、疑いようもなく普通に納得してしまった。

 が、綾小路の最後の一言が妙に心につっかかった。

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