第58話

 それから約一時間。

 室内は意外にも静寂に包まれていた。

 ただシャーペンが紙の上を走る音のみが響きわたり、昼下がりののんびりとした空気が張り詰めている。

 陽気な光がベランダ側の窓から差し込んでくる中で俺はもちろん一刻も早く自分の勉強へと取り掛かるため、本田さんの宿題をやっているわけなのだが、


「……」


 気になる。気になって仕方がない。

 何がって? そりゃあ、男からしてみれば秘境みたいな神秘的なところだよ。

 見えそうでギリギリ見えない。だけど、角度次第ではどうにか見えそうな……男のロマンをくすぐる空間。

 そう。“胸ちら”だ!

 本田さんは今、薄手のノースリーブを着ているということもあって、胸元がぽっかりと開いてしまっている。前傾姿勢特有の自然現象なのだが、日焼けも合間って正直……ヤバい。無意識に性癖を刺激されているようなぽっかりと開いた空間には健康的な白い肌が見え、その奥には微かではあるが、V字谷が覗いている。

 ――って、まさかのノーブラ?!

 今更ながら気づいたと言いますか、本来であればV字谷付近にはブラのような造物が見えるはず。なのに……なのに、確認できないと言うことは……!


「えっち」

「?!」


 俺はすぐさま条件反射のごとく視線を逸らす。

 ば、バレた?!


「今、ボクのおっぱい見てたでしょ?」


 本田さんの方に視線を移動させると、にんまりとした嫌な笑みを浮かべていた。


「み、見てないし!」

「ウソ。なんなら今ノーブラであることも知ってるでしょ?」


 本田さんは手に握っていたシャーペンを置くと、四つん這いになって俺のもとに迫ってくる。

 ぽっかりと開いてしまった胸元からはより奥地が見え、へその辺りまで目視ができるほどだ。

 角度さえ変えれば、完全にチッパイの全貌を明らかにすることができるだろう。

 男として生まれた以上、抗えない本能。女子のおっぱいを見たい!

 だが……静まれ煩悩。奮い立て勉学!

 我にとって勉強こそが嗜好。煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散……。


「か、からかってるんだったら今すぐ追い出すぞ!?」

「……チッ」


 本田さんは小さく舌打ちをすると、先ほどの勉強体制へと戻る。

 ふぅ……。危ない危ない……。

 油断も隙もないということはこのことを言うのだろうか?

 なんか最近……積極的じゃありゃせんか?

 もったいないことをしてしまったと思ってる。うん、ほんと。女子のおっぱいを見る機会なんてほぼないに等しいからな。ネット以外では。


【あとがき】

 ちっぱいこそ嗜好であり、至高だと思ってる。

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