第3話【改稿済み】
さて、学校の中で二人っきりになれる場所と言えばどこだろうか?
だいたいが校舎屋上や体育館裏、空き教室などの定番なところばかりが浮かんでくると思う。しかし、そこってよくよく考えてみれば告白スポットでもあるよね? 全国の高校がそうなのかは知らないが、少なくとも俺が通っている学校ではそう認知されている。従って、この美少女とそんなところに行ってしまえば、仮に生徒と出会した際にまた誤解されてしまうという悪循環のことも考えられるわけであって……
「あなたバカなの?」
開口一番に綾小路姫花が放った言葉には甘々とは裏腹にトゲが籠っていた。
「バカってなんだよ? あっ、こんにちはー」
すれ違う先生たちに俺は挨拶をして、頭を下げる。
特待生枠を狙っている以上、生活態度も重要だ。先生たち相手に猫を被るというわけではないにせよ、極力悪い印象を与えないよう気をつけている。
綾小路姫花は呆れたと言わんばかりにため息を吐く。
「よりによって職員室前の廊下ってなんなの? 教室でもよかったじゃない」
「アホか。それこそお前の思う壺だろうが」
絶対に拒否することができない環境を作り上げる事が今回の目的だったのだろう。綾小路姫花という美少女から告白じみたことを言われてしまえば、例え拒否したとしても俺がホモなんじゃないかっていうレッテルをクラスメイト全員から貼られてしまうしな。綾小路姫花はそのことを見越してあんな行動を起こした。まったく……油断も隙もない策士だぜ。
だが……
「一体何を企んでるんだ?」
あの行動にはもう一つ何か目的が隠されている。わざわざみんなの前でやらなくちゃいけないような何かが……。
「ベンキョウヲオシエテホシカッタダケヨ」
「……」
壊滅的に嘘をつくのが下手すぎる!
いきなりのカタコトに何も返す言葉を見失ってしまった。
「……ま、まぁ隠してても仕方ないわね。私って世間一般的に見たら美少女でしょ?」
誤魔化すかのようにあっさりと自供し始めたのだが……何言ってんだコイツ? 俺がブサイクとでも言いたいのかアァン?
「私が可愛いっていうのは当たり前なんだけど、可愛いが故に告白を毎日のようにされてて困ってたのよね〜。毎回振るって結構大変よ? あ、非モテぼっちくんにはわからないかぁ〜(笑)。そこで思いついちゃったの」
心底から怒りが込み上げてきたのはいつぶりだろうか。
とりあえずここが職員室前っていうこともあって、どうにか怒りを押し殺す。もし人気のない場所だったら速攻で殴ってただろうな。うん。女だろうと容赦はしないスタンスなんで。
「俺のことが好きっという風に誤解させる作戦か」
「そう。そうすれば少なからずとも過半数の男子たちは諦めてくれるでしょ? 脈なしかぁってね!」
綾小路姫花は「我ながらに名案!」みたいな顔をしているが、利用された俺からしてみればいい迷惑だ。「愚案」にも程がある。
「お前身勝手すぎるだろ……」
「いいじゃん。どうせぼっちなんだし、女子からも相手にされてないでしょ?」
グサッ。
目に見えない透明なナイフで胸をひと突きされたみたいな痛みが全身へと走る。
たしかに綾小路姫花の言う通りではあるが、それを本人の前で堂々と口にするのはやめてくれませんかねぇ? 俺だって人! 人間なんだから普通に傷付くよ?
「と、ともかく理解はしたが、お前はそんなことをして本当によかったのか? 好きな人とかいないのかよ……?」
「いるわよ? 当たり前じゃん」
「いんのかい!」
思わず関西風にツッコんでしまった。ちなみに俺は九州地方出身である。
「けど……この学校には“おそらく“いないわ」
綾小路姫花の表情が少し曇る。
「どういう意味だ?」
すると、綾小路姫花は一瞬どこか懐かしむような眼差しを窓の外へと向ける。
「……いえ、あなたに話すことでもないわ。端的に言うなら私にはもうすでに将来を共に過ごす殿方がいるということよ」
「それってつまり……“許嫁“っていうやつか?」
「そう。十年前に誓い合ったのよ。結婚しようねって……」
そんなロマンチックな約束がリアルでも実際にあるとは……ドラマや漫画の世界だけかと思っていた。
十年前となると、まだ小学一年生くらいの歳になる。そんな時の約束事といえば、大抵その場の流れみたいな感じで無効になったり、あるいは忘れていてもおかしくはないけど、今でも守り続けているということは案外、綾小路姫花という人間は純粋なのかもしれない。
「だから、ごめんなさい。あなたが入る余地なんてないわ。私を狙おうだなんておこがましいにも恥を知りなさい」
「狙ってねーし、なんで俺がフラれてんだよ!? つーか、それが人に乞う態度か!」
クッソ! ついさっきまで十年前の約束を守っている姿に可愛いなって思った自分を殴ってやりたい。綾小路姫花という人間はやっぱり可愛くねぇ!
「じゃあ、態度を改めたら勉強を教えてくれるの?」
「いや、教えん」
「え、そこは教えてあげる流れだったでしょ?」
「知るか。とにかく人に教えてやれるほど俺には時間がないんだ。もう諦めろ」
俺は最後にそれだけを言い残すと、綾小路姫花に背を向ける。
廊下を歩きながら、ポケットの奥に突っ込んでいたスマホを取り出すとすでに午後四時を回ろうとしていた。
靴箱に近づくにつれ、グラウンドから聞こえてくる野球のカキーンというバッドの打撃音が大きくなっていく。
いつもならあまり聞かないような放課後の音に新鮮さを感じながら大きく息を吐いた。
バイト……完全に遅刻確定だ。
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