第26話
「このバカっ!」
「いててててて」
その日の家庭教師のバイトにて。
いつもの接待室で俺は綾小路からぽかぽか殴られていた。
「あなたが本田さんを堕とさなければ、私の計画は順調に進んでたのにっ! このっ!」
「いて、本当に悪いって思ってるから。てか、さっきは自分が撒いた種って言ってたじゃねーか」
ひとしきり殴ったところで綾小路は一旦落ち着きを見せる。
「あれはそうだけど、結局のところあなたが変に本田さんに近づかなければ、こういう事態にもならなかったじゃない!」
「それを言うんだったら、お前が俺に対して偽恋人役を押し付けなかったらこんなことにもならなかっただろ!」
「つべこべ言うんじゃないっ!」
「いてッ!」
思いっきり頭を叩かれてしまった。
綾小路はソファーの方へと戻ると、深く腰を沈める。
「とにかくこうなってしまった以上仕方ないわ」
「これからどうするつもりだ?」
「どうもこうも今の関係を続けていくしかないでしょ? 本田さんには田代くんをかけた勝負と題してどうにか口外しないよう食い止めることはできたと思うけど、私自身それに関してはどうでもいいのよね。田代くんのこと好きじゃないし」
「面と向かって言われると傷つくんだけど?」
俺だって綾小路のことは一ミクロンとも恋愛対象として見ちゃいない。たしかに顔は超絶可愛いが、結局のところ綾小路のいいところと言えば、顔しかないんだよな。今のところ。顔だけの奴って本当にいるんだな。
告白もしていないのに何故かフラれた感が漂う中で俺は例の解答用紙を返却する。
「そういや、はい。奇跡的に全部八十点だったぞ」
「へーそう」
「なんでそこは無関心なんだよ。もっと喜ぶべき場面だろ……」
やはり採点して思っていたのだが、わざと八十点になるよう調節していたのだろうか?
そう考えると、今の反応にも納得いくような気はするが、肝心なメリットというものがない。全教科同じ点数に揃えたところで綾小路に何か利点でもあったのか? わからん。
「ともかく目標点には達していたから、これまで通りのスピードで進めるからな? 覚悟しておけよ?」
「はいはい、ギャルゲー主人公さん」
「誰がギャルゲー主人公だ!」
幸いと言うべきか、俺が本田さんの家に居候していることはバレずに済んだ。
だが、これからの学校生活を考えると……男子からしてみれば羨ましいに尽きるかもしれないが、その当人である俺からしてみれば、地獄そのものだ。平穏なぼっち生活で学校を満喫していたあの頃がなんだか懐かしい。つい一ヶ月ちょっと前までは教室の隅っこで黙々と勉強ばかりしていた野郎だというのにさ。
何はともあれ、気持ちを切り替えなければならない。期末考査まで残りわずか。このテストでどれだけ結果を残せるか。俺は決まり切っているものだからいいとして、問題は綾小路。せめて全教科五十点以上は言ってほしいものだ。
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