第16話【改稿済み】

 ジャイアントコロッケ焼きそばパン騒動以降、ハム助……もとい本田さんとは話す仲にはなった。

 まだ友だちと呼べるような親しい感じではなく、むしろ知り合ったばかりみたいなぎこちなさはあるが、少なくとも目を合わせたら必ず何かしらの反応をしたりする。

 それがまた俺にとっては新鮮というか、どこかくすぐったさを覚えつつあった。今までに体験したことがないような高揚感とはまた違う何か……。ぼっちの俺では理解できないような感情だが、対等な関係を得られたような気がして、ちょっぴり嬉しく思っていた。

 本田さんとの関係はこれからも発展していくのだろうかと密かに考えながら、俺は綾小路からもらった高性能ノートパソコンのキーボードを淡々と打ち込んでいる。

 綾小路の中間試験は明日。

 家庭教師というバイトを引き受けてからこの一週間、自分で言うのもなんだがめちゃくちゃ頑張った。なにせ遅くとも夏休み中には一年で習った範囲を全て網羅しなくちゃならないからな。来年の受験のことを考えた上でのハードな方法ではあるが、間違いなく綾小路の学力も身についてはいる。あの策士のことだから、あまり気負いはしなくともいいはずなのだが、それでも不安でいっぱいだ。もし、目標点である最低五十点を取れなければ、正直夏休み中に網羅することは不可能だろう。いくらT大を目指しているとはいえ、三年からの受験勉強じゃとてもじゃないが無理。早い人なんて高校入学時から意識しているからな? ただでさえ、二年の二学期からでも少し出遅れている感があるというのに……。

 もしも今回のテストで最低ラインを超えることができなかった場合は、綾小路にちゃんと説明しよう。その上で志望校をどうするか考える。少しレベルを落とせばK大にも間に合わなくはない。その辺りを目指してもらう他ないだろう。

 一人暮らしをしているということもあって、部屋の中ではキーボードの打刻音しか聞こえない。黙々と各教科の問題を作成しながら、最後にエンターキーをターンッと叩く。


「終わった……」


 ようやく問題用紙は完成した。

 あとは明日、綾小路に解いてもらうだけだ。難易度的にはそこまで難しくはしておらず、基礎ができていれば容易に解けるようにはなっているはず。応用的な問題に関しては、まだ早いため、そこら辺は本格的な受験勉強の時にでも教えればいいだろう。

 スマホで時間を確認すると、もうすぐで午後十一時。以前であれば、まだお風呂やらなんやらで布団に入るのが日付を跨いでいることが多かったけど、今ではそんなこともなくなっている。今日はたまたま問題作成で午後十一時までかかってしまったが、普段は午後十時には就寝しているくらいに生活環境は大幅に改善された。

 ――これもお嬢様のおかげ、か……。

 その恩返しのためにも綾小路には是非とも最低ラインを超えてもらいたいところだ。



 ……というのは建前であって、本当のところを言うと俺の生活がかかっている!

 家庭教師というバイトがなくなってしまえば、また前のような生活に戻りかねないし……なんとしてでも点数をしっかりと取ってもらわなければ……!

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