第42話

 気がつけば、空には分厚い雲で覆われていた。

 つい先ほどまでは雲一つない蒼天だったというのに。

 リビングで受験に向けた勉強をしていた俺はふと、手を止める。

 手許にあったスマホで時間の確認をすると、午前十時前。綾小路がこの別荘を出てから三十分経過したというところだ。

 もうそろそろ到着する頃合いだろうか?

 テーブルの脇に置きっぱなしである林田さんが残して行ったメモ用紙に目を配る。

 ――自分で動く、か……。

 先ほどの林田さんの言葉を思い出しながら、天を仰ぐ。

 本当に俺が介入してもいい問題なのだろうか……。

 家族間でのことにはあまり部外者は関わらない方がいいと思っている。

 一応、綾小路には“助言”みたいなことは言ったが、直接というのはやはり気が引けるというか……別に有栖川健の両親や綾小路の両親にビビっているというわけではないんだけどさ。

 けど――このままずっと別荘に居座るっていうのも気分が悪いよなぁ……。

 俺が突撃したところで何かが変わるのか、それは行ってみないことにはわからない。

 かと言って、婚約を破棄させる手立てなんて、最初っから一つも考えてはいないんだが……。

 再び窓の外を見ると、ゴロゴロと地響きがするような雷が唸っていた。

 ――行くなら今のうちか……。

 どうとでもなれだなんて、身投げのような考えは微塵も思っちゃいない。

 なんなら、自分の不利益になりうるようなことはしたくはないが……教師の鑑とでも言うのだろうか? 生徒ではあるけれど、綾小路の前では雇われ教師でもある。

 教師は生徒に勉学を教える他に社会的な知識やマナーなどの模範的な存在としていなければならない。そして、何より教師は生徒をあらゆる脅威から守らなくてはならない立場でもある。例えば、いじめ問題だったり、犯罪などもそうだ。生徒にとって一番幸福で最善な道へと進ませてやるのも仕事の一環だと言える。

 ならば……俺が取らなければいけない行動はもう決まっている。

 ――今からならまだ間に合うか?

 俺に何ができるのかわからない。わからないからこそ、焦りや緊張感なども湧き上がっている。

 でも、俺は教師だ。

 カッコ悪い姿を見せまくってしまうかもしれないけれど、生徒のために一生懸命足掻いて見せるのも案外悪くはないかもしれない……。

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