学年1位の成績を誇っている俺が、同じく学年2位の美少女の家庭教師をすることになった

黒猫(ながしょー)

プロローグでありエピローグ

エピローグ【改稿済み】

 高校を卒業した年の四月。

 俺は新たな新生活に向けて、大学近くのアパートへと引っ越しの作業をしていた。

 午後一時過ぎにパンダマークの二トントラックが建物に横付けするなり、段ボールなどの荷物を抱えた業者さんたちが室内へと運び入れる。

 部屋は“二人”暮らしにしては少々狭いかもしれないが、二LDKと個人のプライバシーを最低限配慮した形だ。


「私は別にワンルームでもよかったんだけどなぁ。(その方がずっと一緒に過ごせるし……)」


 業者さんが帰った後、運び込まれた段ボールを一つ一つ開封しながら彼女はボソッと呟く。

 換気のために開けたベランダの窓からは涼しげなそよ風が吹き込んでいた。


「あ? 最後なんか言ったか?」

「え? あ、ううん」


 彼女は少し残念そうな笑みを浮かべながら、首を横に振る。


「そうか? でも、契約した以上、今さら変えられないだろ」


 初期費用の十数万円は既に支払っているし、引っ越し業者にだってそれなりの金額を取られている。その上でやっぱり別の物件にしたいだなんて無理だ。だいたい引っ越し費用は俺がすべて支払ってるんだぞ? 高校生の時にバイトしてある程度貯金があったからよかったけどさ。


「うん、そうだよね。ごめんごめん」


 彼女ははにかみながら立ち上がると、俺の背後へと回り、そっと背中に抱きついてきた。

 いろいろと柔らかいものが押し付けられて、ちょっと気恥ずかしい。

 彼女の温かな体温が俺の中へと溶け込んでいき、なんだか安心感すら覚えてしまう。


「そ、それにお前だってここでいいよって言ってたじゃねーかよ。ったく……」

「うん、あなたさえいればどこでもいいと思ってたから……」


 そう耳元で囁かれ、思わずドキッとしてしまう。

 昼間から変な気持ちにさせやがって……わざとか?


「小っ恥ずかしいことを軽々しく言うんじゃねーよ……」

「いいじゃん。二人っきりなんだし」

「それはそうだけど――」


 と言いかけた瞬間、彼女は俺の言葉をさえぎる。


「なんか今でもこの状況が不思議に思うわ」


 ようやく離れたかと思いきや、ベランダの方へと移動していく。

 彼女はいつの日かを懐かしむような眼差しで蒼天そうてんを眺めていた。


「私とあなたがこうして同棲を始める関係になってるなんて“あの頃”は微塵も思わなかった」

「……だろうな」


 俺も立ち上がると、同じくして彼女の隣へと立つ。

 人生は前途多難ぜんとたなんの繰り返しだ。

 そして、不確実性に溢れている。

 いつどきだって一つの選択肢の違いによってはその先がまったく別の未来へとなっていく可能性もなくはない。

 俺とこいつが恋人と言われる関係になったのもその選択肢のなりの果てなんだろう。


「そう考えると、今は奇跡と言えるかもしれないな……」

「え?」


 彼女は不思議そうな表情をしながらこちらへと振り向く。


「いや、何でもない」

「何でもなくないでしょ? それにこれは必然よ?」

「……わかってたのかよ」

「何となくだけど、あなたの考えることは手にとるようにわかるわ」

「それ、何となくって言わないだろ。確信してるじゃねーか」


 俺は彼女が急激に愛おしくなり、静かに肩を抱き寄せた。

 もうすぐで大学生。

 これからの未来はずっとこいつと歩むことができるのだろうか……。

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