第13話【改稿済み】

 家庭教師のバイトを終える頃にはすっかり月が登っていた。

 淡い月明かりを浴びながら、俺たちは大きな門前へと歩く。


「本当に夕飯食べなくてよかったの?」

「ああ。そこまで世話になるのはちょっと気が引けるからな」


 ただでさえ、こんな神バイトをやらせてもらってるんだ。それ以上恵まれては、逆に悪い。


「それよりお嬢様が護衛も付けずに夜道を歩いていいのか?」

「夜道って、ここ一応敷地内なんだけど?」

「いーや、そういう油断が危ない。いつ何が起こるかわからないのが人生ってもんだからな」

「たかが十七年生きてるくらいで人生を語るなんてね」


 綾小路はクスリと小さく吹き出す。


「十七年でも長生きしている人から見れば、短いかもしれないが人によっては結構人生経験で差が出てくるぞ?」

「まぁたしかにね」


 綾小路にしては珍しく、俺に対して向けられた表情は優しく見えた。

 年月は誰に対しても忖度なく、等しく流れている。世界の大富豪や逆に貧困で苦しんでいる人たちもそう。誰一人として時には逆らえない。そんな中で人が日々送っている日常とかも環境によっては大きく異なっていく。どこかのラノベ主人公が口にしていたように“人生はクソゲー”。まったくもってその通りだ。生まれる以前から親も家庭環境も選択できないなんて考え方によっては鬼畜だろ。生を受けた家がたまたま金持ちだったり一般的な家だったらまだいい方だが、貧しい家に生まれた子とかはどうなる? 最初っから詰んでると言っても過言ではないだろ。そこから攻略していくにしたって、家に金がなければ高校、大学などにも進学できない。幸い、この日本には奨学金という制度だったり、所得に応じて、学費が全額免除になったりという制度があるからまだ攻略できるチャンスがある方だが、世界で見ると、貧困は貧困のままというところも少なくない。

 人生はクソゲー。

 この考えを改められる日は来るのだろうか……? どこかの陽キャヒロインさまにでもご教授願いたいわ。


「あ、そうだ。綾小路」


 帰る間際、俺はあることを思い出した。


「ん、なに?」

「そのノートパソコンとか、借りれたりできるか?」

「何か使うの?」

「プリント作成に使おうかなぁって思ってたりするんだけど……ダメか?」


 今日の家庭教師を通して、やはり副教材として単元ごとの重要な部分が抜粋された穴埋め的なプリントが必要だ。あれはあれでただ用語などを埋めていくだけではあるが、それでも個人的には頭に重要語句が入りやすい。そのためにもできれば手書きではなく、ノートパソコンを使いたいところだが……ご存知の通り、オラには金がねぇーんだ。よって、必然的に十数万もするノートパソコンも所持していないわけで……


「わかったわ。ちょっと待ってて」


 綾小路は背を向けると、豪邸へと戻っていく。

 それから数分後。


「はい。これ私のお下がりになっちゃうんだけど特別にあげるわ」


 そう言って、差し出してきたのは某リンゴマークのノートパソコンだった。しかも現行モデルの上位機種。


「……は?」

「は、じゃないわよ。ほら、早く受け取りなさいよ」


 綾小路は押し付けるような形で俺に某リンゴマークのノートパソコンを手渡してきた。


「いやいやいやいや、こんな高いものもらえるわけがない……。てか、俺は“貸して欲しい”って言ったんだが?」

「貸して欲しいんでしょ? だから、あげるって言ってるんじゃない」


 もう……何言っちゃってるのこの子? 話通じてなくない?


「別に気にしなくてもいいわ。どうせもうすぐまた新しいモデルが発売されるんだから」

「お前もしかして新モデルが発売されるたびに買い替えてんのか?」

「当たり前よ。信者としては恒例の行いって言ってもいいくらいだわ」


 綾小路は自慢げにも胸を逸らす。


「マジか」


 さすがお金持ち。金銭感覚が庶民とは断然に違う。

 あげると言われている以上、ここはもらっておく方が礼儀というものなのかもしれない。


「じゃあ……気が引けるけど、お言葉に甘えてありがたく使わせてもらうよ」

「壊したりしたら承知しないからね」

「ああ」


 むしろこんな高価なもの、気を使いすぎてどうにかなってしまいそうなまである。

 とにもかくにも実質最初の家庭教師が終わったところで目標と今後の改善、課題を見つけることができた。これらを目印に教師として頑張らないとな……。それから自分の受験勉強も兼ねて。

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