第5話【改稿済み】

 翌日。

 学校では綾小路姫花が告白したという話題で持ちきりになっていた。

 当の本人は女子たちに囲まれながら、俺のどこを好きになったのかを食い気味に聞かれまくっている。まぁ自業自得といえばそうなんだがな。

 一方で俺はというと、もちろん男子たちの格好の的にされていた。学校一の美少女を落とした男がまさかのイケメンでもなければ、高スペックでもない。ただの勉強ができることしか取り柄がないぼっち野郎。ほんと女子、男子問わずみんなからの視線が痛い。

 今更ながら「あれは誤解でしたー」みたいなことを発言すれば、綾小路姫花もきっと黙っていないはず。そんなことをされたら、自分自身のイメージなどに傷がつくからな。また変な小芝居を挟んで俺を不利な状況へと追い込もうとしてくるだろう。てか、嘘つくのは下手なのに芝居だけはまぁまぁ上手いんだよなぁ……摩訶不思議。

 今日に限っては女子たちの質問攻めということもあって、綾小路姫花も俺に迫ってくることはなかった。平穏な一日……とまではいかなかったが、それでも休み時間の勉強は非常に捗ったと言える。

 そんな一日を終えて、やっとの放課後。

 俺はいつも通りホームルームが終わるや否や我先にと教室を出ていく。

 スマホで地図アプリを開きながら、校門を自宅とは反対方向に曲がり、事前に送られてきた住所と比較しながら目的地まで淡々と突き進む。

 そして……


「でっか」


 到着したところには鋼鉄でできた三メートルほどの大きな門が構えていた。

 表札は特に飾られているわけでもないが、とりあえずインターホンを鳴らしてみる。

 すると、すぐに門が軋むような音をたてながらゆっくりと自動的に開く。

 俺はその光景に唖然としながら突っ立っていると、奥の方からタキシードを着た白髪の老翁が近づいてきた。

 いかにも執事といったいでたちをしており、顔には深いシワが刻まれ、穏やかそうにも見えるが、瞳だけは普通とは違う何かを感じる。


「お待ちしておりました。私、執事をしております林田と申します」


 まるでお手本のようなお辞儀。やっぱり執事だったんだなと思いつつ、俺も慌てて頭を下げ返す。


「は、初めまして! 田代悠太です。本日はよろしくお願いします!」

「では、さっそくですが中へどうぞ」

「は、はい!」


 一気に緊張が全身へと駆け巡る。

 俺は林田さんの後を追うように門をくぐり抜けた。

 目の前には舞踏会などの風刺画でよく見るような大きな豪邸が聳え立っている。庭には噴水などもあって、全体的に近代洋風の造りといったところだろうか。

 しばらく豪邸へ続く一本道を歩き、いよいよ玄関へと入る。


「ようこそ、お越しになられました」


 玄関先には本物のメイドさんが立っていた。

 歳は俺より少し上だろうか? 大学生くらいに見えるお姉さんはとても可愛く、美女そのものを具現化させたような容姿だ。


「田代様、お気になさらず中へお上がりください」

「は、はぁ……」


 林田さんに促されるがまま、用意されていたスリッパへと履き替える。

 場違い感が半端ない。

 玄関の奥にはテレビとかで見たことがある内閣発足時に大臣らが記念撮影するような馴染みが高いよく似た階段があり、上を見ると、吹き抜けになっていて、大きなシャンデリアがぶら下がっている。

 そのまま引き続き林田さんの後をついていき、長い廊下を歩いていく。

 少し薄暗いせいか不気味さを感じつつも、林田さんはある一室の前へと立ち止まった。


「“お嬢様”はまだご帰宅されておりませんので、こちらでしばらくおかけになってお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」


 接待室と思しき所に通されると、高そうな革張りのソファーへと腰を沈める。

 ――お嬢様ということは女子か?


「あ、あの! 面接とかは……?」

「その必要はございません。合格です」


 林田さんは「それでは」と最後に言い残すと、部屋から出て行ってしまった。

 室内は実にシンプルな作りになってはいるが、床に敷かれた絨毯や目の前にあるテーブルなどどれも高そうなものに見えて仕方ない。

 そのせいだろうか。先ほどから緊張感が解けない。これほどまでに緊張したのはいつぶりだろうか。最近ではバイトの面接ですらあまり身を固くすることはなくなったしなぁ。一分一秒が長く感じる……。

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