第5話 スキル
王都郊外にある人気のない森に訪れた俺たちは早速実戦形式で剣を交えていた。
リオンは〝緋色〟と〝蒼色〟の二刀流スタイル。素早い連擊で相手に攻撃の猶予を与えないのが特徴的。後手に回れば非常に戦いにくい。
その二振りの剣の名は緋色の剣が【緋剣イグニータ】、蒼色の剣が【蒼剣コキューティア】と呼ばれ、どちらもS級に属する武器である。
武器の性能だけで言えば【ユグドラシルの枝】の方が上だと思うが、戦いにおいての経験と俺が未だ発展途上というところか、総合的に見ると俺はリオンより遥かに劣っている。だからリオンの剣戟に押されている。
頭の中には【ユグドラシルの枝】からの的確な指示が送られるがそれに応えられるかはまた別の問題。何故なら頭で理解していても実際にやるのとは難易度が違う。
額から身体へ汗が伝わる。しかし、危ない面は多々あるが焦りはない。リオンがこれでも手を抜いているからでもあるけど。それでもまだまだリオンに勝てる光景が浮かばないな。
そしてリオンが仕掛ける。
「いきますよアルク様。〝緋天龍〟──ッ!」
下段に構えた【緋剣イグニータ】の斬戟が地を走り、生み出された紅蓮の龍が襲いかかる。
〝緋天龍〟──それは【緋剣イグニータ】でのみ発動できる剣技。熱く燃えるように紅い刀身を高速で振り上げた際に生じる熱が怒り狂う龍を模している。
俺も何度か見たことはある。しかし、その時よりも格段に威力と気迫が増していた。これが本来あるべき〝緋天龍〟の姿なのか。はたまた更にその先があるのか。
って考えるのは後。直撃は危険だ。
そう思うと同時に受け止めることを避けようと横へ地を蹴る。後ろにある木々を犠牲にして。
結果、回避することはできたが多くの木々は轟々と燃えている。
「ちょっ、リオン。ここ森なんだから〝緋天龍〟は無いでしょッ!」
「心配せずとも大丈夫ですよ。それよりお喋りできる余裕があるみたいですのでもう少しだけ本気を出しましょう。〝蒼天龍〟──ッ!」
次にリオンは上段から【蒼剣コキューティア】を振り下ろす。
〝蒼天龍〟もまた【蒼剣コキューティア】でのみ発動できる剣技。怒り狂う龍が〝緋天龍〟とするならば〝蒼天龍〟は冷酷無比な龍。所構わず周りを凍結させる龍である。
これは本当にヤバい。当てる気は毛頭無いだろうが、それでも大気を凍らすほどの剣技には恐れを抱く。
正直受け止めるなどとふざけた選択肢は頭のなかに存在しない。回避一択である。
飛翔するように横へ移動すると〝緋天龍〟により燃え上がった木々は氷の木へ変わり果てた。言わなくてもわかるだろう、直撃すれば俺がああなる。
安心するのも束の間、身動きが取れなかった。
理由は右足が氷によって地面とくっついていたからである。〝蒼天龍〟から派生した氷までは回避できなかったのだろう。
リオン相手に一瞬でも動きを止めてしまえば勝敗は決まる。
気付いた時には俺の首に剣が突き立てられていた。
「勝負アリです」
「参ったよ。でも〝緋天龍〟と〝蒼天龍〟を使うのはズルだと思う」
「訓練であろうと本気でやらねばそこに意味はありません。それに戦いにおいて卑怯もズルも関係ないのですよ。戦場に立てば生きるか死ぬしかありません。そのなかで生き残るためにあらゆる手を尽くす者こそが本当の戦士なのです」
結局は自分のために本気を出して相手してくれている。
有り難い話か。だがその信念を持っているからこそ、兄や妹がリオンの指南を嫌がるのだろうとも思った。天才だから故に努力を嫌う二人なのだから。
「少し休憩しましょう。アルク様はここでお休みください。私は魔物でも狩って僅かでも資金を調達できるように頑張ってきますので」
魔物は冒険者ギルドと呼ばれる場所で買い取ってくれる。ただ、この辺の魔物は凶悪なものがいないため本当に僅かしか資金は増えないだろう。
気を付けてと見送るとリオンは森の奥へと姿を消した。
一人になった今、俺は俺でやりたいことがあった。
おーい、【ユグドラシルの枝】さーん。いくつか質問があるんだけど。
《何でしょうか》
可能性の話なんだけどリオンの〝緋天龍〟や〝蒼天龍〟を俺も使えないかなって。ほら、【ユグドラシルの枝】さんって結構何でも出来るじゃないですか。
《リオン=アルスフィーナ氏のあれはスキルではありません。あの剣技はリオン=アルスフィーナ氏の武器だからこそ可能な技であり他の武器では発動に必要な魔素量に耐えきれず崩壊してしまいます》
ということは使えないってことか。残念、【ユグドラシルの枝】にも不可能なことがあったか。まあ、出来たらの話をだったしあまり気にしなくてもいいよ。
《………出来ますよ。お望みであらばなんとでも》
あれ? もしかして怒っていらっしゃる?
《怒ってませんよ。少々やり方は変わりますが再現という形で使えることが可能です。ただし厳密な解析あっての話ですので今すぐにとは出来ませんが》
口調は変わらないように感じるが文脈がなんとなく怒っているように感じる。やっぱり怒ってるよね。
と、それは一時置いといてリオンの技を使えるようになるなら有り難いことこの上ない。早速解析とやらを頼んでおこう。
そうだ、ところで俺ってどのくらいスキルを持っているんだ?
《契約者及び【ユグドラシルの枝】が所持しているスキルは以下の通りです》
突然俺の頭の中にスキルの名称がズラリと流れてきた。
その数凡そ40。スキルというのは誰しも持っているがこの量は異常だ。流石の俺も言葉がでない。
そして【ユグドラシルの枝】が各スキルについて説明をしようとしたが長々説明されても頭がパンクするだけだ。どうにかしてスキルを纏めたりできないのか?
考えているのか声がしばらく途絶え、再び声が聞こえたのは30秒後だった。
《……〝世界樹ユグドラシル〟から〝スキル統合〟の使用を許可されました。これよりスキルの統合を開始しますが構いませんよね》
説明を省かれて機嫌が悪いのか少し高圧的な問い掛けだった。
説明したかったのかな。だったら悪いことをしたな。お詫びと言ってはあれだけどご自由にしてください。
〝スキル統合〟は意外にも10分で終わった。しかし、脳内で鳴り続ける言葉には聞き疲れていた。
《〝スキル統合〟が終了しました。新たに獲得したスキルは以下のようになります──スキル〝身体強化〟スキル〝五感強化〟スキル〝気配遮断〟スキル〝四大属性魔術〟スキル〝自然回復〟スキル〝形状変化〟スキル〝未来予測〟》
新しいスキルが40から7つに減ったのは助かる。
しかしこれが全てではない。
【ユグドラシルの枝】は
ここからスキルの説明が始まるが再び機嫌を損なわれても困るので俺は大人しく聞く選択肢しかなかったのだ。
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