第54話 護衛依頼
昨日は迷宮区画から脱出した後に冒険者ギルドへ寄った。
そこで報告に必要な討伐証明の素材やら他にも適当に集めた素材を提出。かなりの大金を手にしたのだが、その半分近くがユリウスの手柄でもあったので案の定分け前は四割から五割になった。それ以上持っていかれなかっただけマシだろう。
報酬金はギルドカードにチャージされて飲食店などで支払いに使えるようだ。
常に大金を持ち運ぶのは面倒だからありがたい。仮に紛失しても登録した者以外は使えない仕様になっているとのことで心配はいらないようだ。まあ、最初から失くすなって話だけど。
ついでだからユリウスも冒険者登録させておいた。
ユリウスは終始乗り気では無くカナリアさんのところに直行しようとするから説得に苦労したな。
中でもユリウスの実力を知った冒険者ギルド側としては有能な人材を見す見す逃がしたくないという強い思いは俺からもよく伝わった。
結果、ユリウスも半ば諦めギルドからのスカウトということもあり俺同様試験無しで冒険者登録をすることになったのだ。
ちなみにその後のユリウスのことは知らない。そういえば今朝はいつもよりも激しい戦闘音が修練場から響いていたな。
そうそう、昨日のことと言えばリオンに会ったな。
久し振り──と言っても三日ほど会っていなかったのに俺のことをかなり心配していた。
けどその心配はすぐに消え、安心したのか手合わせすることになったのだ。
いや何で、と当時の俺は思った。
正直迷宮区画に行って疲れていたし、野宿だったのでやっとベッドで寝れると喜んでいるところで手合わせの申し出。
リオン曰く、『男子、三日会わざれば刮目せよ』、と迷宮区画でどれほど強くなったのか見てみたいとのこと。
俺も成長はしたと自分で実感していたので申し出を受けたわけだが、言う迄もなく惨敗したのであった。
あれは何なのか俺にはわからない。相変わらず勝てるビジョンが見えない。
それでも手加減は以前より緩めているのだから俺も強くはなっているのだろう。
◆ ◆ ◆
そして翌日。
俺は任された依頼の中で一番楽な商人の護衛に就くことになっている。そういえばこの依頼だけ日にちが決まってたから間に合って良かったな。
護衛といっても俺以外にも雇われている冒険者はいる。
それに俺は隣街に行くついでに護衛の依頼を受けたようなものだ。
話を聞くには隣街は温泉街らしい。カナリアさんも今回はリフレッシュ休暇も兼ねていると言っていた。この依頼を終えても俺に残された時間は三日もある。
強化週間で頑張っているみんなには悪いが羽を伸ばしすぎない程度にゆっくりすることにしよう。温泉も今から楽しみだ。
護衛依頼の集合場所に行くと既に商人と四人組のパーティーが話をしているのが見えた。おそらくあれが今回護衛する商人と共に依頼を受ける人たちなのだろう。
俺が最後か、なんだか待たせて申し訳ないな。時間はちょっとだけ過ぎてるしまずは謝ろう。
「すみません、遅れました。冒険者ギルドから依頼を受けたアルク・アルスフィーナです」
「あっ、最後の護衛の方ですね。私はクロム・セシルスと言います。本日は依頼を受けてくださってありがとうございます。遅れたといっても五分程度ですし、荷物の再確認をしていたので問題ないですよ」
この優しい顔をしたクロム・セシルスさんという方は自分では謙遜しているが巷では有名な大商人なのだという。
商人のイメージは迷宮区画で色々あったせいかどうしても悪い方に見えてしまうが、この人は迷宮区画にいた商人とは真逆のイメージだ。
けど大商人の名に恥じない実績があるようで大手企業の会長も担っているとか。やはり人は見かけによらぬものと思い知ったのだった。
クロムさんには一通り挨拶を済ませ、今度は俺以外の護衛に挨拶をしようと思ったがあまりよく思われていないようだ。
「護衛依頼なのに遅刻って………私たちは三十分前には着いていたのにね。クロムさんはああ言ったけど本当はもっと注意すべきなんじゃないかしら」
「冒険者としての自覚が足りてないんだよ。俺たちの足を引っ張らなければいいけどな」
「僕たち沢山依頼を受けてきたけど失敗したことないんです。もし魔物の襲撃があっても僕たちの連携を邪魔されたら困るので大人しくしていてください」
「そうそう、私たちは全員Cランクなんだから。この依頼もDランクだけど油断しなきゃ全然問題ない。それに君、そんな武器で戦えるの? 今時そんな武器で冒険者やってる人なんていないよ」
おぉ……思った以上に酷い言われよう。
遅刻した俺が悪いけどここまで言われるとは思わなかった。
それと久し振りに聞いた【ユグドラシルの枝】への侮辱。それは絶対に許されないことなのだ。
《………………………………》
ほら見ろ、この無言の圧力!!
前にした約束を守って手を出さないように我慢しているがこれは怖い。彼らに不幸が訪れないことを祈ろう。
「あ、あの皆さん、アルクさんは──」
「クロムさん。俺は邪魔になるようなのでここは
多分クロムさんは俺がBランク冒険者だと知っている。商人だから昨日持ってきた魔物の素材関連で情報を得たのかもしれないな。
だからこそ、ここで真実を言ってしまっては面白くない。
彼らは俺のことを冒険者成り立ての新人だと思っているみたいだし馬鹿にもしている。どうせならもっと別の方法で明かした方がいいだろう。
そして俺と四人組のパーティーの空気が悪い中、目的地までの護衛が始まるのだった。
王都を出発してからというものやはり俺だけ除け者にされている。
まあこういう扱いには慣れているからどうってことない。こういうのは気にしたら負けなのだ。
そういえば馬車の中には荷物が少ないな。普通商人であれば商品が入った荷物の一つや二つはあるだろう。
聞けばクロムさんは〝空間魔術〟を所持しているとのこと。
俺で言えば亜空間領域に荷物を入れているようなものか。
確かに商人からしたら〝空間魔術〟はこれ以上に無い便利な魔術だ。でも〝空間魔術〟って使用者が少ないはず。俺も【ユグドラシルの枝】がユリウスから解析して習得したものだし。
ああ、そうか。他の人にはないその優位性を生かしてクロムさんは大商人の地位を築いてきたのか。まったく、その顔とは裏腹に抜け目がなく侮れない人である。
さて、順調に進んでいる俺たちだがちょっとだけハプニングが起こりそうな予感がする。
というのもここから三キロほど先に大きな魔物の気配を感じる。種類まではわからないが軽く見積もってCランク、場合によればBランクにも届き得るな。
ちなみに何故遠方の魔物の気配がわかったのかは、元々持っていた〝魔力感知〟というスキルを【ユグドラシルの枝】が改良したからである。
迷宮区画では魔物の襲撃が多かったので倒しても安心できない状況が多々あった。そこで不安の芽を潰すためにもだんだんと範囲を広げていって今に至るのである。
魔物がいるから進路を変更した方が良いとクロムさん伝えたのだが、
「はぁ!? そんな先に魔物がいるなんてわかるわけないだろ。でたらめ言うな!」
「それとも何? 私たちに迷惑かけようって魂胆なの?」
「クロムさん、このまま真っ直ぐ行きましょう。仮にそれが事実だとしても僕たちで倒せばいい話ですから」
まあそうなるよな、わかってた。
俺だって彼らと同じ立場だったら三キロ先に強い魔物がいるなんて信じない。
信じないならそれでいいさ。クロムさんには悪いが彼らも余裕の口振りだったからお手並み拝見といこうじゃないか。
そして、現れたのは六メートル級のドラゴンだった。
名前は『レッサードラゴン』というBランクの魔物。
ドラゴンは基本的に強い魔物に分類されるから
さてと、忠告を聞かずに進んだ結果がこれだが今まで依頼を失敗したこと無いと豪語するパーティーはどうするのか。
「ちょっと……こんなのがいるなんて聞いてないわよ……」
いや、俺はちゃんと言ったよ。俺がなんと言われようと聞かなかった君たちが悪い。
「む、向こうも気付いていないようだし今からでも引き返せばどうにか……」
だがしかし、彼らの甘い期待を打ち砕くが如くレッサードラゴンは完全にこちらに気付いた。これはもう逃げるのは不可能。背を向けた瞬間に全員殺られる。
「無理……ここでやらないと殺られる」
「仕方ありません、僕たちでやりましょう。皆さんに一つ作戦があります」
四人組のパーティーは集まってヒソヒソと喋っている。
一応スキルのおかげで何を企んでいるのか聞こえているが魔物から目を離すなんて言語道断だ。俺が今レッサードラゴンだけに圧をかけて動きを封じているんだぞ。その気になれば向こうは一気に襲ってくる。
そして、作戦が纏まったのか四人は覚悟を決めた表情をしていた。
それじゃあお手並み拝見といこうと思ったのだが、四人組の中で作戦を提案したであろう一番知的な男が俺に話し掛けてきた。
「事態は急を要します。あなたも手伝ってください。このままでは全滅しますよ」
そうだな、このままだと間違いなく全滅する。俺とクロムさんを除いた四人がね。
手伝う──というかここで俺がBランク冒険者だと公表して一人で倒してもいい。
迷宮区画の魔物に比べたらレッサードラゴンなど小物なのだ。というか俺はレッサードラゴンよりも恐ろしい人間と毎日のように戦っているのだから今更恐怖など感じていない。
仕方ないから俺が出よう──とでも言うと思ったか?
「丁重にお断りしますよ」
「なっ!? 状況をわかって言ってるんですか!?」
「だって連携の邪魔されたら困るんですよね。只でさえ
そう言うと知的な男は俺に対して別人のように思えるほど怒りを露にした。
「ふざけるな! 僕たちは冒険者として更なる高みへ登るためにこんなところで死ぬわけにはいかないんだ」
「じゃあ更なる高みというのに登るため、
「───ッ!」
そんなに驚かなくても……。最初から最後までどんな作戦か聞こえてたし。
囮にされたとしても不慮の事故と言えばどうにでもなる。
だから彼らの問題はその現場を間近で見てるクロムさんだったが俺が喋ってしまった以上作戦を実行することも出来なくなった。
作戦が潰れて困っているようだがここで俺は更に畳み掛ける。
「そもそも、冒険者として更なる高みへ登るって言うならレッサードラゴンの一匹や二匹は倒せないと無理な話です。それを俺を囮にして逃げる? そんなことする人間に冒険者としての高みへ登る資格はないでしょ」
「こちらが黙っていれば……役に立たないくせに好き勝手言うな!」
知的な男は激昂し俺に殴りかかろうとする。しかし、その軽い拳を俺は簡単に受け止めた。
「もし気に障ったなら謝るけどこれは事実だ。それと、今その拳を向けるのは俺ではなくレッサードラゴンの方だ。今が成長の時です。早く倒してくださいよ」
既に知的な男に反論する意思はない。そして俺に何を言わずに馬車から出た。
「だ、大丈夫なんですか? もしあの方たちが死んだりでもしたら……」
「いざとなれば俺が助けに入りますよ。まあ、すぐにそうなると思いますけどね」
クロムさんは彼らが俺を囮にする作戦を企てていたことを聞いても心配していた。
あれを聞いても尚この様子。お人好しにも程があると思う。だがそういうところに好感を持てるな。
レッサードラゴンとの戦いは予想通り四人が圧されている。
確かに連携は優れている。洗練された連携だからこそ俺が入れば崩れるのもわかる気がする。
けどそれだけだ。レッサードラゴンの肉を断ち切るには力が足りない。魔術も火力不足で話にならない。もう少し善戦すると思ったんだけどな。
これ以上は見ていられないのでレッサードラゴンを倒すことにする。
四人の前に俺が立つ。レッサードラゴンは少し後退ったようだが戦力差は本能でわかるものなのか。
四人は疲弊して何も言えないようだがごちゃごちゃ言われても鬱陶しいだけのでそのままでお願いしたい。
レッサードラゴンの攻撃は俺には通用しない。
高火力のブレスも放ったが魔力による障壁で届くことはない。ん? この障壁、【ユグドラシルの枝】がアルトワールの結界を参考に強化してるな。
「それ、おしまいっと」
その後【ユグドラシルの枝】に魔力を纏わせレッサードラゴンの首を簡単に斬り飛ばし、あれだけ四人が必死に奮闘していた戦闘は呆気なく終了したのである。
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