第二部

第14話 ゼムルディア王立学院

 ゼムルディア王立学院の試験まで残り二日。

 なんてものはあっという間に過ぎて試験当日。俺たちは既に学院に向かっていた。

 そう、俺はゼムルディア学院への入学を決めたのだ。

 この判断には悩んだが決め手は『一度きりの人生なんだからやりたい事をやる』という考え。後悔するなら入らないよりも入ってからだ。

 それにあれだけ優遇されているのだから入学した方がお得に思える。


 さて、試験にあたってだが──。

 特別推薦枠の生徒は試験も簡易なものになるんだったよな。だからこの期間に俺がやっていたことと言えば〝いつも通り鍛練を怠らない〟。それだけだった。

 一応筆記試験もやるみたいだが常識問題のようで幼少期からリオンに教養を叩き込まれていたので問題ない。武術の教えよりもこちらの方が厳しい。

 

 泊まっている宿から十五分。学院区画にたどり着いた俺たちが見た光景は想像を大きく超えるものだった。

 前にも言ったようにただでさえ広い王都の二割が学院区画になっている。故に建てられている校舎が多すぎるのだ。これは入学したら迷うこと間違いなし。

 更に周りを見てみると生徒たちが活用する様々な設備が備え付けられている。


「ここだけでもかなりの人数がいるなぁ」


 まだ学院区画に足を踏み入れただけなのにパッと見で60人近くいる。奥に進めば入ればもっといるのだろう。この中からふるいに掛けられて入学できる人材はいくつになることやら。


「アルク様、受験票と特別推薦の紹介状はお持ちですか? お手洗いは済ませましたか? 私が同行しなくても一人で試験会場に行けますか?」

「いやいや、小さな子供じゃないんだから……」

「余計なお節介でしたね。それでは私はカナリアさんのところへ行って参ります」


 俺は手を軽く振って送り出す。

 さてと、まだ時間もあることだし敷地内を見て回ろうか。

 受付に受験票を見せて学院内を散策する。

 散策中にすれ違った受験生たちはかなり緊張している面持ちだった。場の空気に飲まれて萎縮しているのか。

 きっとそうだよな。俺は特別推薦枠だから緊張していないがなんか自分が悪く感じてしまう。

 そして、しばらく歩くと大人数が集まっている場所にたどり着いた。彼らは掲示板に貼り出された各々の試験会場を確認している。

 

 受験者たちの姿を後ろで眺めていた時、不意に誰かの腕が俺の首にかかった。

 筋肉質ではなく柔らかい女の子のような肌質。振り向くとそこには見知った人物がニヤリとした顔で俺を見つめている。


「やあ、アルク。この間ぶりだな。元気にしてたか?」

「ロザリオ!? どうして君がここにいるんだ?」

「それがな、コロッセオで戦ったあの日、別れの挨拶をしようと君を探していたんだが見つからなくてな。だが代わりにここの理事長に会ったんだ。それでこれを貰った」


 ロザリオが懐から出したのは俺が持つものと同じ特別推薦の紹介状だった。


「ど どうしてそれを?」

「だから貰ったんだ」

「誰に?」

「理事長しかいないだろ。学院には興味は無かったがお前が入学するとなると話は別だ。私も負けたままでは気が収まらない。お前とはいいライバルになれると思うし戦える機会が増えるなら学院に縛られるのも悪くない。それにお前の付き添いとも戦ってみたいしな」


 まあ、俺も生徒の中に知り合いがいると助かるかな。ただこのままでは俺の学院生活はロザリオに勝負を挑まれる毎日になるのでは?


「そういえばお前の付き添いは一緒じゃないのか?」

「リオンはここの教員になるんだ。だから今は理事長のところに行ってる」

「そうか。なら私たちも行くとしよう」

「行くってどこに?」

「特別推薦枠は他の受験生とは別の会場で試験を行うらしいぞ。受付でその話をされたんだが、もしかして聞いていないのか?」

「あぁ~、受付には受験票しか見せてないや」


 受付に紹介状を見せるなんてカナリアさんから聞いていないし。こういう大事なことは前もって──いや、気付けなかった俺も悪いか。


「普通は見せるだろ。まったく、意外に抜けているというか何と言うか……」

「なんか、ごめんなさい……」


 やれやれと呆れているロザリオに取り敢えず謝っておいた。


「まあ、特別推薦枠の生徒は試験日ならいつでも試験を受けられるから今から行くぞ、ってまずは受付でお前の紹介状を出しに行かなくてはな」


 というわけで俺たちは──主に俺のせいだけど──二人揃って受付に戻ることにした。

 その間は大会後どうしていたとか毎日どんな訓練をしているのかなどの世間話。


 と俺はここで一つ思い出した。


「特別推薦枠って三枠あるけど俺とロザリオ。あと一人は誰なんだろうな」

「さあな。でも最後の一人──というか最初に理事長が選んだ奴か。そいつは既に学院に来ているみたいだぞ。受付の人が言ってたからな」

「へぇ、どんな人なんだろう」

「話を聞く分には目付きが悪くて素行も悪そうな奴みたいだぞ。受付する時も高圧的な態度だったと聞いている」


 それはそれは。同じクラスになったら苦労するかもしれない案件かもな。


「その人の名前は?」

「ユリウス・グロムナーガだったか。噂では他国のスラム街出身らしい。そんな奴が理事長に認められて特別推薦枠を貰えるなんてな。貴族の生徒からしたら面白くないと思うだろう」


 俺の予想だとユリウス・グロムナーガという人物とは一悶着ありそうな予感がする。

 けど、それもこれも入学してから考えることにしよう。それからでも遅くはないはずだ。

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