第15話 特別推薦枠、集結
「確かにこちらは特別推薦枠の紹介状ですね。それでは試験会場にご案内しますのでどうぞこちらへ」
受付の案内のもと、俺たちは試験会場に向かった。
どうやら俺たちの試験会場は他の受験生とは離れた場所にあるようだ。気付けば学院の奥に建設されている建物にたどり着いていた。
「こちらが試験会場となります」
受付の人が扉に手をかけて開けようとした時、室内から
回避すれば間違いなく受付の人に直撃する。
透かさず腰に携えている【ユグドラシルの枝】を抜いて飛んできた物体を叩き切る。
ロザリオも反応したようで飛んできた物体はバラバラに飛び散った。
原型をとどめていないがよく見るとこれはゴーレムだ。おそらく訓練用に調整されたものだろう。
けどこれは俺たちがやったものではない。最初から原型が滅茶苦茶になっていた。
このゴーレムが飛んできた方向を見ると驚くべき光景が広がっていた。
なんと破壊されたゴーレムが山積みになっていたのである。その頂上には一人の男がこちらを見ていた。彼がきっと──。
って、それよりも。
「大丈夫ですか? 怪我とかありませんか?」
「は、はい。大丈夫です」
驚いて腰を抜かしたものの怪我はないようで安心した。
「ひとまずここから離れてください。あと誰か先生を呼んでくれると助かります」
「わかりました。すぐに呼んできます」
そう言うと受付の人は駆け足で去っていった。
流石にこれは見過ごせない。
室内に入ったのが俺たちだったから良かったものの間違って他の人が入ったら怪我どころでは済まない。
やれやれ、一悶着あるのは入学してからだと思っていたんけどな。
「なかなかにユニークな挨拶だな。けど少しやり過ぎなんじゃないか? 受付の人に当たってたらどうするつもりだった」
「あ? そんなの知らねぇよ、クソ女。弱い奴が悪い、それだけだろ。っていうかテメェ誰だよ」
「人に名を聞く時はまず自分からだろ? 親に教えられなかったか? それと人と話す時はそこから降りろ。見上げるのも面倒だ」
おい、いきなりバチバチだな。
ロザリオは彼の名前なんて知ってるくせに。けど言う通りにするのも癪だから変に張り合ってるな。
「嫌だね。女の言うことなんて聞くかよ」
「そうか。ならば力ずくで落とすのみ」
ロザリオは剣を片手にガラクタの山を駆け登る。
軽やかな身のこなしで一瞬にして頂上に着いた。
そこから放たれる上段からの一撃。
相当力を込めたのかガラクタの山は真っ二つに両断された。あの細い腕で何であんな馬鹿力が出るか謎だ。
彼──ユリウス・グロムナーガは足場が崩れたことによりガラクタの山から降りざるを得なかった。
ユリウスは言わずもがなロザリオの思惑通りに進んで不服そうな表情を──いや、少し笑っているように見えた。
「へぇ、意外にやるじゃん。その辺の雑魚とは違うようだ」
「どうにもお前は調子に乗りすぎているようだからな。この学院の教師に代わって私が灸を据えてやる」
「ハッ! やれるもんならやってみろ。それと俺はユリウス・グロムナーガだ。名乗ってやったんだからテメェも名乗れよ」
「ロザリオ・アルベルト。ここにいるということはお前も特別推薦枠の受験生なんだろ。なら私たちは入学すれば同級生になるな」
「くだらない学院生活に興味ねぇよ。俺はただここに連れてきたあのクソババァをブッ飛ばしたいだけだからな」
そう言うとユリウスは真っ向から迫ってきた。
ロザリオも負けじと迎え撃つ。加勢しようとも思ったが、行動に移す前に「お前は手は出すな」と釘を刺されてしまったからここは大人しく見守っておこう。
ところでクソババァとは誰のことだろうか──って大体予想がつくか。
多分カナリアさんのことだ。あの性格だと学院に仲の良い人間はいないだろうし、カナリアさんが連れてきたと言ってた。おそらく勝負を挑んでコテンパンに負かされて無理矢理連れてこられたと思う。
それにしてもユリウスの攻撃は大振りというか破壊力があると言うか。
ユリウスの武器は黒い大剣。彼の身長よりも大きい、二メートル近くあるか。大きさに振り回されているようにも見える。
だが決して隙があるわけではない。思った以上に戦い方など色々考えているようだ。
どちらも譲らない戦い。昔の俺なら見ているだけでも怖じ気付いて逃げてた。
突如ユリウスは自身の剣をロザリオに向け投げ飛ばした。
嘘だろ、と俺は思う。
ここで武器を手放して何の利点がある? 確かに動きは軽くなるかもしれないが、それを差し引いても不利になるだけだ。
ロザリオも一瞬驚きはしたがここがチャンスと思ったのか一気に距離を詰める。俺だってそうするな。
だが、すぐに疑問が芽生えた。
あのユリウスが策無しにあんなことするか?
出会って数分しか経っていないが彼の性格を多少は理解している。あれは何かを狙っているからこそ選んだ選択だ。
「──ッ! ロザリオ!」
声をかけた時には既に遅かった。
ニヤリと不気味に笑うユリウスの横に黒い
そこから高速で飛び出したのは二本の黒い槍。
至近距離であの速度を受けるのは常人ならほぼ無理。だがそこはロザリオの経験とセンスがカバーした。
咄嗟に剣を盾にして防いだ。が、威力が高過ぎて壁まで吹き飛ばされて更には怪我を負ってしまいそうなので──
「無事?」
ロザリオが壁に到達する前に受け止め状態を確認する。
「ああ、問題ない。すまないな」
返事が出来るみたいだしロザリオが無事ならそれで良い。
それで、あの黒い靄はいったい何なのか。
発動への予備動作は一切なかった。となるとユリウスの意思で出現した──スキルの類いと考えた方が良いかも。
《先程の現象を分析したところユリウス・グロムナーガ氏が使用したのはスキル〝空間魔術〟です。空間系統は魔術の中でも上位に位置しており使用できる者は数少ないです》
うん。【ユグドラシルの枝】が言うのだから間違いない。
空間魔術──初めて見たけど使い勝手が良さそうだ。
戦闘面は勿論のこと、日常面においても荷物の持ち運びが楽になるのだから俺も欲しいと思ってしまう。
《スキル解析後、習得には時間がかかりますが御要望に答えることは可能です》
えっ、他人の技だけじゃなくスキルも出来ちゃうの?
《一度見たものであれば大体は可能です。しかし、リオン・アルスフィーナ氏の場合と違い、今回は情報が圧倒的に不足しています。もしいち早く空間魔術を習得したいのでしたらユリウス・グロムナーガ氏に空間魔術を使わせることを提案します》
つまりロザリオに代わって俺がユリウスと戦えと。
《決めるのは契約者自身です。ただ私は戦う事を推奨します》
そう言われてしまうとなぁ。これからの事も考えたら空間魔術習得を優先した方がいいよな。俺だけでなくリオンの役にも立つことだし。
よし、やるか。
ロザリオも先程の一撃で相当体力も消耗していたので壁に寄せて休ませよう。
「ああ? そういやさっきからチラチラ視界に入ってたな。なんだテメェは。こっちは久々に張り合いのある奴と戦えて気分が上がってんだ。邪魔すんじゃねえよ」
「まあまあ。彼女、ちょっと具合が悪そうだからさ、代わりに俺が相手するよ」
「テメェがか? ハハハ、笑わせてくれるなぁ。その棒で何が出来るんだよ」
「そう言ってられるのも今のうちだよ」
地面を強く踏み込み、ユリウスの間合いに入った。
そこで透かさず下段に構えた【ユグドラシルの枝】を振り上げる。
けど、これは挨拶であって当てるつもりはない。俺の目測だとユリウスの顔面ギリギリ、髪が少し斬れるぐら──あれ?
何故かユリウスが吹っ飛び、空中で体勢を立て直すと垂れてきた鼻血を拭いながらこちらを睨んでいた。
俺、当てるつもりなんてなかったけどなんで当たってるの? あっ、まさか──
《棒呼ばわりされて腹が立ったのでスキル〝形状変化〟にて一部を延長しまし攻撃を命中させました》
前々から思っていたけど【ユグドラシルの枝】さんって意外に子供っぽいところがあるよね。
もうさ、ああ言われるのも仕方ないと思うよ。見た目が見た目だから。確かに【ユグドラシルの枝】は凄い。けど、もう少し寛大な心を持とう。
《……………………………善処します……》
物凄い溜めの後の返事だったけど本当に大丈夫なのかなぁ。
「ハハッ! 油断してたとはいえ俺が血を流すなんてな。テメェ、名前は? さっき俺の名前聞いてたんだから答えろよ」
「アルク」
「アルクね、覚えた。テメェともいい戦いが出来そうだ」
「それはどうも」
「それじゃあさっきのお返しに──ッ!」
ユリウスの速度が上がった。
今までのが本気じゃなかったのか? 身体能力は俺やロザリオよりも格段に上かもしれない。
あっという間にユリウスは俺の直上。黒い大剣を構え、一直線に俺へ振り下ろしてきている。
回避も考えたがその後の衝撃の余波がどう影響するか。
思考を重ねているうちにもユリウスが迫ってきている。
仕方ない、ここは受け止めるしか──。
そう思った瞬間、ユリウスの大剣は何者かの右手で簡単に受け止められていた。
「いやぁ、アルク君もユリウス君も仲良くなっているようでなにより。でもちょっとはしゃぎすぎかな」
「──!
「アハハ、マジコワ。けどね、私はまだまだ二十代だからババァ呼ばわりされるつもりはないんだよ、っとぉ」
カナリアさんは道端に転がっている小石を投げるが如くユリウスを大剣ごと投げ飛ばした。
「急いで来たんだけど遅れてごめんね。
「えっと、じゃあ試験の方は……」
「元々合格扱いだったし理事長権限で合格で良いかな。そんなわけでほら、行って行って」
適当過ぎでは、と俺は思った。
一応の目的であった空間魔術はあれ以降一度も使わせてないから結局無駄だったな。
けど、俺やロザリオの他にユリウスのような人間が同じ学年にいることがわかっただけでも十分か。
取り敢えず俺は現場をカナリアさんに任せ、ロザリオを連れて試験会場を後にした。
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