SS級武器【ユグドラシルの枝】の恩恵は規格外 ~侯爵家より追放されし落ちこぼれ、最強への道を歩む~

リスカム

第一部

第1話 追放

 とある侯爵家に生まれた俺──アルク・オルガンはある悩みを抱えていた。


 それは自分がE級武器【木の枝】しか装備できないこと。 


 この世界では扱える武器が生まれながらに決まっている。


 別名〝神による天恵〟とも呼ばれ、生涯決められた武器のランクより上位の物は使えず、無理に使おうとしても武器本体が主君と認めない限り扱うことは絶対に不可能である。


 武器から与えられる力は大きい。

 例え身体を鍛えたところで限度がある。

 俺も努力はした。けど、武器からの恩恵が弱すぎるから勝てるものも勝てない。武器のせいにするなと思うがそれが現実なのだ。


 俺の家系は代々優れた武器を扱うことで有名だった。


 曾祖父は海原を切り裂く雷鳴を纏う斧を──。

 曾祖母は天魔を穿つ鬼神の槍を──。

 

 それ以前の歴史を遡っても必ず文献にはオルガンの名が刻まれている。

 そして現在、父や母、兄は勿論のこと、自分よりも年下の妹ですら最強に至る武器を持っていた。

 

 にもかかわらず、何故俺はE級武器──しかも【木の枝】などその辺に落ちて誰でも使えるような貧弱な武器しか扱えないのか。オルガン家の血が入っている俺にもわからない。


 そんな俺は父親であるルイス・オルガンに呼び出しを受けていた。

 父は幼少の頃から剣の才を持ち合わせており、僅か十八歳にして《剣聖》と呼ばれるまでになった。


 また、母も例外ではない。俺の母、スフィア・オルガンは魔術の知識に長けていた。彼女も《剣聖》に並ぶ称号賢者と呼ばれるようになり夫婦共々憧れの的になっていた。


 二人の背中を追って剣の腕を磨き、魔術の勉強も人一倍やってきた。

 しかし、どれだけ腕を磨こうと知識を得ようと、力を発揮するため必要な武器に全てを左右される。

 性能が高ければ本人の実力以上の力を示し、逆に性能が低ければ実力以下の力しか発揮できないという形で。


「失礼します」


 目の前にある扉。ノックして扉を開けると父のルイス、母のスフィア、兄のマクギリスに妹のアリス。家族総出で俺を待ち構えていた。


 厄介者扱いを受けてきた俺は久し振りに家族の顔を見るが、誰一人として自分のことを良く思っていないことは表情を見てわかる。


「お久しぶりです、父上、母上。兄上にアリス様も。本日はどういったご用件でしょうか」


 俺は機嫌を損ねぬよう丁寧な口調で話しかける。


 自分の妹にですら尊敬の意を込めて様付けで呼ぶのは両親からの命令である。もしこれを破ればどんな手段を用いても良いから罰を与えてよいと言われていた。上下関係をはっきりと身に染み付けるためだろう。


 アリスも俺の事を見下していた。いや、彼女は既に俺を兄とも思っていない。無能な木偶の坊とでも思っているはずだ。


「アルク、お前に大事な話だ。よく聞け」


 重々しく口を開いたのは父だった。俺を見据える瞳は鋭く冷徹でお世辞にも自分の息子に向けるようなものではない。


「お前は先日15歳になった。世間ではお前はもう立派な成人だ。今までは子供だからと仕方なく世話をしてやったが、成人になったのであれば話は別だ」

「それは……どういった意味ですか?」


 これから自分に何を告げられるのか、頭では理解している。しかし、どうしても納得はしたくなかった。


「ここまで言ってもわからないのか。まったく、お前はろくな武器を持てないだけじゃなく理解力も乏しいみたいだな。父さんは出来損ないのお前とは縁を切ってここから出ていけって言ってるんだ」

「そうそう。それに友達からはアルクがいるだけで笑い者にされてたんだからね。私に恥をかかせた罰として空っぽな頭地面につけて謝りなさいよ」


 兄からはっきりと辛辣な言葉を言われ、妹からは理不尽な謝罪の要求。

 何も反論できないまま妹に言われるがまま地に頭を伏して謝罪をした。


「この度は俺が出来損ないだったが故にアリス様に恥をかかせてしまいました。どうかお許しください」


 誠意を見せた俺にアリスは近寄り、頭を強く踏んだ。

 それでも俺が怒らないのはどう転んでも彼らには絶対に勝てないとわかっているからである。


「アリス、そんな頭に足を乗せていたら貴女の足が穢れますよ。早急に退かしなさい」

「ママの言う通りね。アルク、ママに感謝しなさいよ」


 そう言ってアリスは俺の頭部を蹴った。

 衝撃で数メートルほど吹き飛ぶ。頬は腫れ、鼻から流血していた。顔はどうやっても鍛えることが出来ないから仕方がない。


「いつまでそこで寝そべっているつもりだ。早くここから去れ。でなければお前を敷地内への侵入者として排除する」


 ルイスの言葉は本心だった。

 本当に自分は家族に見捨てられた。

 あらゆる感情が心のなかで蠢いていたが、一番強かったのは絶望だった。


 痛みに悶える時間もない。悲しみに浸る時間もない。


 俺はゆらりと立ち上がり一室を後にする。


 必要な荷物をまとめて、今まで過ごしてきた屋敷に一礼して目的もないまま俺は一人虚しく歩き始めた。


 ──本当に、自分の弱さが憎くて嫌いだ。



 ◆ ◆ ◆


 

 数日後、一人の従者がルイスに辞表届を提出した。


 その人物とはオルガン家に仕えるメイドのなかで全てにおいて頭一つ飛び抜けているメイド──リオン・アルスフィーナであった。剣術でもルイスに引けを取らず、魔術に関してもアリスより知識がある。


「どういうつもりかな。君のような人物が何故急にやめるなど言い出すんだ?」

「そのままの意味ですが。それともお渡しした文書ではご理解出来ませんでしたか? ならば口頭で伝えましょう。私はオルガン家に仕える意味を失いました。ですので本日をもちまして退職させていただきます」


 有無を言わせず退出しようとするリオンをルイスは焦って引き留めた。


「一方的に辞めると勝手に言われても困るぞ。君にはマクギリスとアリスの指南役を頼んでいるのだから最後まで職務を全うしろ」

「それでしたら私にはアルク様も指南するという仕事も仰せつかっております。職務を全うするならばアルク様のもとへ向かっても構いませんよね?」


 この言葉を聞いてルイスはようやく理解した。


「そうか。そういうことか。ならば尚更ここから出すわけにはいかない。命が惜しいなら大人しく私に従っているんだ」

「何故ここを辞めた私が貴方の言うことを聞かねばならないのですか。もう私と貴方たちは主従の関係ではない無関係、赤の他人ですよ。頭を下げるなら未だしも脅しをかけて監禁するなど世間に知られたら貴方たちの大事な大事な歴史や名誉に泥を塗ることになりますね。ああ、怖い怖い」

「うるさい! 従わないのであれば貴様など我が剣を以て力ずくで従えさせるわ!!」 


 激昂したルイスは剣を抜きリオンに一閃を喰らわせようとするが、甲高い金属音が響くとは天井に突き刺さっていた。まさに一瞬の出来事。


「この程度とは……《剣聖》が聞いて呆れます……。私はオルガン家に仕えていたわけではなくアルク様に仕えているのです」

「何故……何故そこまであの無能に固執する……」

「黙れ、武器の価値でしか人を判断できないクソ貴族が。二度と剣を振るうことの出来ない身体にしてやろうか?」

「………!?」

「あら失礼、アルク様がいないからと昔からの悪い部分が出てしまいました。忘れてください。先程の言動も、ここにいた私の存在も」


 そう告げると呆気にとられるルイスに向かってスカートを軽くたくし上げ、笑顔でお辞儀をするとリオンはアルクを追いかけるために屋敷を去った。

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