SS級武器【ユグドラシルの枝】の恩恵は規格外 ～侯爵家より追放されし落ちこぼれ、最強への道を歩む～

第60話 暴風の塔、最上階へ

「痛ッ！　ちょっと、拳骨しなくてもいいじゃん」

「本気でやらなかっただけいいでしょ。それにウィンディならこの程度の威力が全然痛くないはずだ」

「まあね、私石頭だから。アルクお兄さんも痛くないのに反射的に痛いって言う時あるでしょ、それと一緒だよ」

　など言うウィンディ。

　確かにそういった経験はあるが、今は関係ない話だ。

　それよりもこの先どうするかを話し合わなければ。

「ウィンディたちはこの塔について知ってるのか？　フロアボスがどうとか言ってたよね」

「もちろん！　私たちは『暴風の塔』のことを事前に調べてるからね。アルクお兄さんは調べてないの？」

　調べるも何も俺はここに来る予定などなかった。気になったら見るだけ見て帰ろうと思っていたかもしれないが。

　しかし、カーティス姉妹の脅迫で急遽同伴することになったのだ。当然『暴風の塔』のことを調べる暇もないから詳しく知るわけない。

「どこかの誰かさんのおかげでそんな余裕は無かったよ」

「へぇ、アルクお兄さんも大変だったんだね」

　皮肉を込めて言ったわけだがウィンディはあまりピンときていない感じだった。自分のことだって理解してないな。

　ちなみにエクレールはなんとなく申し訳ないような表情をしている。人を殺す気があると思いきやあんな表情をするとは相変わらず読めない少女である。

「言っても通じてないようだからいいや。それより『暴風の塔』について教えてくれる？」

「ええ、どうしよっかなぁ。さっきアルクお兄さんが言ってたけど『暴風の塔』について聞きたいならこっちの質問にも答えてもらわなきゃいけないよ。それでもいいの？」

「じゃあいいや」

「そっかぁ、そんなにお願いするならフロアボスを倒してくれたお礼に特別に教えて──ってえっ、今なんて言ったの？」

「だから教えなくていいよって」

　別にウィンディに聞かなくとも良かった。

　そろそろフロアボスや石碑から得た情報で『暴風の塔』の解析も終わる頃だろう。

《はい、既に『暴風の塔』について解析が終了しています》

　ほら。流石は超絶優秀の【ユグドラシルの枝】さんである。

　早速だが説明をしてもらおう。

　俺は【ユグドラシルの枝】から『暴風の塔』についての説明を受ける。

　どうやら『暴風の塔』にはノーマルフロアとボスフロアの二つで構成されているらしい。

　ノーマルフロアは迷路の構造になっているとか。その何処かに存在する石碑に触れると次のフロアへと転移できる。

　ボスフロアは先程のように足を踏み入れると階層を守護する魔物が出現する。そのボスを倒さない限り次のフロアへは転移できないようだ。

　しかもボスは一定時間が経過すると再度出現するので悠長にしている場合ではない。

　まあ、ここでもう一度テンペスト・デススパイダーが出現してもカーティス姉妹もいるから一瞬で終わるだろう。

《いえ、そうとは限りません。フロアボスはランダムで出現するようで、必ずしも同じフロアボスが出現するわけではないのです》

　だとしても大した問題ではない。カーティス姉妹がいれば大抵の魔物は簡単に倒せるはずだ。今度は絶対に協力してもらう。特にウィンディには！！

　それで更に説明を受けたわけだが──

　フロアボスの部屋はわざわざ一階から登って向かわなくてもいいらしい。その部屋だけは塔の側面から侵入できる穴が空いているからだ。

　つまり、外から見て穴がある場所は絶対にボスフロアとなる。何故そういう風に作られたのかは【ユグドラシルの枝】の解析でも不明のようだ。

　あくまでも俺の憶測だが、おそらくボスとの戦いで追い詰められ誤ってそこから落ちるように作られたのではないか。

　対策もなかったらあの高さからの落下は即死だ。ボスに加え高所の恐怖感を抱かせるためのトラップとも考えれる。

「ところでさ、ウィンディはフロアボスがいるとわかってた上で俺を投げ飛ばしたんだよね」

「……………………………てへっ」

　冷や汗を掻きながら舌を出すウィンディ。

　可愛いけど可愛くないぞ。

　あれか、また伝えるの忘れてたっていうやつか。

　いい加減伝えるべきことは事が起きる前に伝えてほしい。

　まあいい。他に伝え忘れた事がないか聞いてもないと答えたから信じよう。

　って、俺は何故敵の言葉を信じようとしているのか。

　カーティス姉妹もいつ裏切るかわからないから注意深くしておかないと。

『暴風の塔』については大体こんなところか。

　確かこの後『雷鳴の塔』とやらにも向かわないといけないが、出来れば同じような造りであってほしい。何度も【ユグドラシルの枝】に解析させるのは申し訳ないからな。

「よし、何となく理解できた。まずはフロアボスが再出現されても困るからここから転移して上の階層に行こう」

「えっ、嘘！？　さっきまで全然知らなかったのにどうして再出現のこととか知ってるの？」

　ふっ、うちの【ユグドラシルの枝】さんを舐めるでないぞ！　

　この方にかかれば例え俺が知らずとも全て【ユグドラシルの枝】が解析して詳しく説明してもらえるのだ。

《誇らしげに言っているようですが契約者は実際何もしていませんよね》

　仰る通り！　俺は【ユグドラシルの枝】さんがいなければ何もわからないちっぽけな人間です！　

　……言ってて虚しくなってきたので早く上の階層に行こう。

　石碑に俺とカーティス姉妹が触れると瞬く間に体は光に包まれ、気が付くと先程のフロアとはまったく別の場所に到着していた。

　転移は成功したようだな。

　ちなみに今使った石碑をもう一度起動させれば下のフロアに戻れる。その時はボスと戦うことになるようだが。

「ここがノーマルフロアってやつか」

　迷路は洞窟のような自然に出来たものではなくレンガを積んだ人工的な造りになっている。

　窓もなく密室にも関わらず部屋が明るく見えるのは迷宮区画の時と同じ原理か。大気中の魔素の性質が外のものと違っているんだよな。

「この石碑とは別の場所にもう一つ石碑があるからまずはそれを見つけよう。アルクお兄さんもお姉ちゃんも早く行くよ」

　ウィンディは張り切って進んでいった。

　トラップの類いがあるなど考えずに進んでいるけど大丈夫なのか。と思っていたのも束の間、ウィンディの方から何かスイッチが押された音が聞こえた。

　すると左壁からウィンディに向かって矢が勢いよく発射された。

　典型的なトラップだけどあんな勢い且つ至近距離で放たれたら回避することなど出来るはずもない。

　しかし、ウィンディは避ける素振りも見せずそのまま【魔風爪テンペスタ】で数多の矢を一気に掴んだ。

　人間の反射神経ではないな。確実に人間離れしている。

《身体機能の権限を一時的に私に譲渡すれば契約者もあれぐらい動きは可能です》

　変なところで張り合わなくてよろしい。

　ウィンディは握り潰した矢を捨てて安堵している。

「ひぇー、危なかった。危うく串刺しになるところだったよ。しかもこれ矢尻に毒が塗ってあるから刺さったら大変だ」

「………気を付けないと駄目…だよ、ウィンディ……」

「そうだぞ、ここで戦力を失ったら最上階のボスを倒すのが厳しくなる。だから気を付けて──」

　そう言ってエクレールが通った道を俺も進もうとしたら急に足元が凹んだ。

　これってまさか……。

　なんて思っている間にも両壁からウィンディの時と同じ矢が発射された。

　このままだと確実に刺さってしまう。

　すると俺の意思に関係なく腰から上が後ろに反れた。

《急を要する事態でしたので私の独断で身体機能の権限をこちらへ移行させました》

　ナイスです。けど急に動いたせいで背中が微かに痛みます。

「……お兄さんも……気を付けて…ください……」

　そうなんだけど、まさか重量の違いでトラップが発動するなんて思わないじゃないか。

　一度通ったから安全だという先入観を突いた悪質なトラップ。完全に油断してた。

　体重の軽いカーティス姉妹が通った安全な道も俺には危険な道かもしれないと考えると容易に動くことはできない。

　ここは悪いがいつも通り【ユグドラシルの枝】に頼むことにしよう。トラップの位置とかわかるよね？

《もちろん可能です》

　はい、頼もしいっ。けど位置はわかるのであれば今のトラップも前もって教えてほしかったです……。

　◆　◆　◆

　それから俺たちは『暴風の塔』内部を進み、迷路を攻略してボスを倒してを繰り返しかなり上の階層まで登ってきた。

　最上階はすぐそばだろう。

　ボスフロアは十階層毎に一つ存在した。

　直近で倒したボスのフロアから地上を見下ろすように眺めたがもう引き返すことは不可能なぐらいの高さまで来ていた。

　いや、思えば最初に投げ飛ばされた場所ですら引き返すのは不可能だったな。

　まあとりあえずその事は置いておいて、登ってきた階層と高さを考えればそろそろ最上階についてもおかしくないと思う。

「前のボスから数えていつものルールが適応されるなら次がボスだと思うけど私の予想だと次が最上階だと思うんだよね」

「………私もそう思う」

　カーティス姉妹も同じ考えのようだ。

　そして俺たちは最上階へ続くであろう石碑を見つける。

「あったあった！　それじゃあ長かったけど多分最後の階層にレッツ──」

「ちょっと待った」

　ウィンディが何も考えず石碑を起動させて転移しようとしているところを止めた。

　さすがに最上階かもしれない場所に無策で特効するのは論外にも程がある。せめて立ち回りとかは考えた方がいい。

「もうっ、せっかく気分良く行こうと思ってたのに……。アルクお兄さん最上階かもしれないからって怖気づいちゃった？」

「違うよ。最上階かもしれないからってこそ慎重に行くべきだって言ってるんだよ」

「ここまでアルクお兄さんとの連携もしっかり出来てたし問題ないよ」

　確かにカーティス姉妹とは自分でも驚くほどうまく連携が取れていた。それはもう熟練のパーティーと思えるぐらいに。

「だから早く行くよ。それでも作戦があった方が良いって言うなら──とにかくガンガン攻めて行こうぜッ！！　で！！」

　そう宣言してウィンディは石碑を起動する。

　不安だ。本当に不安でしかない。

　エクレールも姉として何か言ってくれればいいのだが、言う前にウィンディが暴走している感じだな。

　まあ、石碑を起動してしまったものは仕方ない。一度起動すると途中で止めることが出来ないようになっているからである。

　こうなったらやるしかないな。覚悟を決めてカーティス姉妹と共に最後の階層に挑む。

　ただ一つ、別の不安要素もあった。

　最上階にいる『天帝鳳凰ゼスト』という魔物。

　ウィンディの武器を進化させるのに必要な魔物。

　おそらく名前から察するに鳥系統の魔物なんだが、俺たちはここに来るまで空中を領分とする魔物と遭遇していない。

　しかも、これが最上階と称した屋上だったら？

　俺の不安は杞憂かそれとも──。

　次に瞳に映る景色によってどうかが決まる。