第67話 部活動見学へ行こう!
そして放課後。
今日の授業は過去最大級にキツイものだった。
何があったかは語る必要はないだろう。
ただ、俺は今日学んだ。
毎朝の稽古は集中して取り組もう! 絶対に! とな。
それで今はロザリオに誘われて部活動区画とやらを訪れている。どうやら学院区画のなかでも更に区画がわかれているようだ。
王都の約二割が学院に関する区画だから当然広大だ。だから全てを回ろうにも時間がなかったから俺もここへ訪れるのは初めてである。
「学院も学院で相当広いと思っていたが部活動区画もまた広いな。一応何処でやってるのか場所は聞いているが、これではたどり着くのも一苦労だ」
「先輩たちからの勧誘も凄いしね。やっぱりどの部活動も人員は欲しいのかね?」
半ば不満を交えながらも俺たちは敷地を歩き回っていた。
実を言うとここまで来るのに数々の先輩から勧誘を受けていた。中にはチラシまで作って渡してきたり。
手元にあるチラシに視線を移すがどのチラシも熱意が込められている。まあ人員は欲しいのかなと言ったけど、普通に考えれば新入生という新たな戦力は欲しがるに決まっているよな。
俺たちは先に見学するところがあると上級生の熱い勧誘を断ったのだが、先輩たちも簡単には諦めていない。また後日という形で一先ずチラシだけ無理矢理渡されていたのだ。
入学式から時間が経って部活への入部もある程度は済んでいると思うのに、先輩たちはいつもチラシを持ち歩いているのだろうか。
「それにしても、なかなかに良い部活は揃っているな。誘われた部活を優先しているが興味がある部活が多くて目移りしてしまう」
道中でもちらほらと活動を始めている部があったな。足を止めて見てたら部の人が走って勧誘しに来たけど……。
「ちなみにどんな部活なの?」
「私は剣一筋だから他の武術を専門とする部活の話には少々ついていけなかったが、それでも熱意は伝わった。でもまあ、やはり剣術が一番だな。剣術といってもそこから派生して色々な流派が存在する。お前もここで学べる剣術の多さはその目で見ただろ? それら全てを習得するには時間が足りないが学ぶ価値はあるな」
確かに、人から学べるものは沢山ある。
剣術だって俺は我流みたいなところがあるけど、古くから伝わる流派だってあるはず。その流派を学べば戦略も広がるかもしれない。
俺も気が向いたら覗いてみようと思った。
それとは別で、ロザリオの表情は何処か満足していない様子だった。横目で見てそれに気づいたので聞いてみた。
「その割には何か物足りない感じだよね。気に入った部活はなかったの?」
「そうわけではないんだが……お前の言うように何か物足りない気がするんだ。こう、直感でここが良いというような部活にはまだ巡り合えてないな。これだけあれば一つは私が納得する部活があるとは思うんだが……とりあえずは今向かってる部活に期待しよう」
そして俺たちは一つの施設にたどり着いた。
時間有限なので早々と挨拶をして見学させて貰おうと上級生に頼もうとしたのだが、何やら揉め事が起こっているみたい。男子生徒と女子生徒が言い合いをしているの目撃した。
「何度言ったらわかるんだ! どんな過酷な状況に陥ってもパワー、即ち筋肉があれば乗り越えられる。貴様も小手先だけの技術ではなく筋肉をもっとつけろ」
「そんなんだからあなたたちの部は脳筋って言われるのよ! そもそも筋肉があれば乗り越えられるって何? 世の中そんな曖昧なもので解決できるほど甘くないの。筋肉があったって勝てない相手もいるのよ。そのために技術を磨くべきなの!」
「修羅場……なのかな?」
「修羅場……みたいだな」
「あの先輩方、かれこれ20分ぐらいはああやって口喧嘩してるんだぜ」
ふと横から声をかけられた。
その声の主を確かめようと振り向く。
そこにいた男子生徒は知っていた。だって同じクラスなのだから知ってて当然だろ?
大柄な体型だが同じ一年生であり、実技演習の時に俺たちよりも先に到着してたパーティー、しかもこの国の王女様とパーティーを組んでいた。
「直接話すのは今回が初めてだよな。俺はレントン・ベルヤード、王都生まれ王都育ちの平民だ」
レントンが自己紹介をすると握手を求めてきたので俺はその手を握り返した。
「アルク・アルスフィーナだ。よろしく」
「ああ、よろしく。それと──」
「ロザリオ・アルベルトだ。以前強化週間の時に一緒になったが話すことはなかったな。これを機に仲良くしてもらえると助かる」
そう言ってロザリオはレントンの手を握る。そして俺たちは言い争いをしている生徒たちの様子を窺った。
「あれってレントンが来た時から続いているんだよね。いったい何が原因であんなに揉めてるの?」
「俺も詳しいことはわからないんだ。ただ、一つ言えることはあの先輩方……というよりは部活同士が対立している感じだな」
熱を帯びている論争は更に続く。
遠巻きに見ている俺たちなど気にも留めていない。完全に蚊帳の外という感じだな。
これ以上大事にならないように仲裁に入るべきかとも考えたが、部外者が介入することで新たな火種を生み出すことになるかもしれないな。
「まあ、そのうち収まるだろ。それよりレントンに聞きたいことがあるんだけど」
「ん? なんだ」
「その……気を悪くさせてしまったら申し訳ないんだけど、実技演習の時にレントンは王女様のパーティにいたよね。さっき平民って言ってたし、どうやって関わりを持てたのかなって」
言いたくなければ言わなくて良い、と言葉を付け足して俺はレントンに問う。その質問に何の躊躇いもなくレントンは答えた。
「単純に数合わせと──後はパーティーの構成を考えた結果だと思うぞ。この国の王女様──メイリーン・ゼムルディア様の戦闘スタイルは近接じゃなく後方支援だからな。逆に俺は魔術もあまり得意じゃないしゴリゴリの近接型だからパーティーのバランスは取れてたんだろうよ。まあ、そのお陰で周りの視線が痛くて痛くて」
「王女と同じクラスになれたことを良いことに媚びへつらう生徒、主に貴族が多いだろうしな。平民なんか同じクラスでも近寄りがたい。加えて同じパーティーになって実技演習で良いところを見せれば王女からの株も格段に上がる。パーティを決める時はかなり大変だったんじゃないか?」
冷静な分析をするロザリオの言葉にレントンは驚いた。
「すげえな、ロザリオの言う通りだ。特別推薦枠のお前たちの方にも生徒は流れたが、早々にパーティーメンバーを決めちまっただろ。だからメイリーン様に寄って集って大騒ぎ。でもそれをメイリーン様の隣にいた世話役の女子生徒──ほら、お前たちも実技演習の時でも見てるはずだぞ」
レントンに言われて当時のことを思い出してみた。
王女様とレントン、後は魔術師のような格好をした生徒に──
「ああ、居たな。鋭い目付きで黒っぽい髪を一つに束ねた気の強そうな女が」
ロザリオの言葉に思わずレントンは吹き出した。
自分だけでなく周りからもそう見えているのだと確信した様子だ。ちなみに俺も思い出した。名前は確か──
「そうそう、気の強そうな女。まさにその通りで名前はテレシア・ゼルガスト。昔からメイリーン様の側近らしく、あいつがいる限りは簡単に近付けないな」
「聞くまでもないだろうが彼女は結構な実力者なのか?」
「そりゃ側近だからな。メイリーン様の支援もなかなかのものだが、王女を守れるほど強くないと側近は務まらないだろ」
「ふむ。そうか………テレシア・ゼルガストか」
ああ……この顔はあれだな。
また一人、直接手合わせしたいと思わせる人物の名がロザリオの脳内に記憶された。彼女たちが剣を交える日はそう遠くない。
「でも、それだとレントンはよく王女様のパーティに入れたね。テレシアの性格だと反対されたんじゃない?」
当然の疑問を投げ掛けた俺にレントンは答えた。
「いくらテレシアといえど王女様の意向には従うんだろうよ。だが、テレシアは平民の俺なんかが王女様の横にいることをよく思わないみたいでな。当然っちゃ当然なんだけどよ。でもよぉ、王女様の誘いを断ったら断ったで面倒ごとになるとは思わないか?」
「確かに、平民のくせにお前は何様だ、ってなるかもな」
「誘いを受けても周りから嫉妬の目で見られ、断っても無礼な人間と見られる。結局誘われた時点で俺に逃げ場はなかったのさ」
「レントンも色々と苦労してるんだね」
「それはお互い様だろ。俺にはわかるぜ、お前の境遇も友人に振り回されているのも」
レントンは俺の腰に携えている武器を指差し、その隣にいるロザリオを一瞥して笑って語りかけた。
同士よ……。レントンの言葉に対し俺も笑って返す。
お互い苦労するよな。俺も何度ロザリオに付き合わされたことか……。まあ、嫌じゃないから断らないんだけど。
そう思っているところにロザリオが割って入ってきた。
「なんだ、アルクは私に振り回されて苦労していると言いたいのか? 私にその気はまったくないのだがお前はそう思っていたのか、そうかそうか。でもあれだな、本人の口から直接と聞いていないし私の勘違いかもしれない。それで、どうなんだ? ん?」
ぐいぐいと来て俺の顔を覗き込むロザリオ。目を合わせてはいけないと直感が告げたので視線を逸らしながら言い訳をした。
「そ、そんなこと微塵も思っておりません。むしろロザリオさんと共に学院生活を送れて物凄く楽しいなと思っております」
思わず敬語になってしまう俺。女性というのは時に異様な圧をかけて迫ってくる。
「そうか、なら良い。私もお前と学院生活を送れて楽しいぞ」
「ははは、テレシアとは違った圧だな、これは。アルクが苦労しているのもわかる」
乾いた笑いをしてロザリオに聞こえないように呟くレントン。だがしっかりと俺には聞こえているぞ。
そんなやり取りをしていると、生徒の一人がやっと俺たちに気づいた。
言い争いをしている張本人に俺たちの存在を伝えたのか一斉に視線を向けられた。
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