第40話 いざ、冒険者ギルドへ

 翌日。 

 朝から学院の寮を出発して冒険者ギルドへ向かった。

 強化週間とは別件で毎朝の稽古は続いており、リオンにも会ったが特に何も言っていなかった。けど、少し不服そうな顔をしていたからカナリアさんは頭を下げて止めたのだろう。

 そこにどんな激闘が繰り広げられていたのは知らなくてもいいか。ただカナリアさんが苦労した事実だけはわかる。


 そういえば、思い返してみると一人で行動するのはオルガン家を追い出された時以来か。

 久し振りに一人で行動するもの悪くない。前まであった不安感も今となっては何処に消えたのやら。

 それもこれも全て【ユグドラシルの枝】さんのお陰です。今一度感謝を申し上げます。


《感謝されたところで何も出ませんよ》


 いいじゃん、お世話になっているんだから感謝はしても足りないくらいだよ。

 それにこれからも力を貸して貰うことになるんだからね。俺はもう相棒無しでは生きられない体になってしまったから。


 なんてことを思いつつ冒険者ギルドがある観光区画を歩いていくと一際大きいレンガ造りの建物が視界に入った。

 事前に教えてもらった外観とも一致しているようだしあれが冒険者ギルドなのだろう。なにより建物を出入りする人全てが武装している。

 カナリアさんに声を掛けられなかったら俺とリオンもあの中の一員だったんだよな。まあ、学院を卒業したら多分冒険者になって仕事をするんだろうけど。


 さて、こうやって遠くから眺めても仕方ないので早速建物内に入ることにした。

 中は思っていた以上に綺麗だった。俺の勝手なイメージではそこそこ荒れている空間だと思っていたからな。

 どうやら冒険者ギルドは酒場や宿屋も経営しているらしい。

 酒場は入って左手側にある通路を辿る。宿屋は二階と三階が全てがそうみたいだ。

 ただ今回はどちらにも用事がないので場所だけ把握することにした。


 と、そんな感じで少しだけ建物内をうろついてから受付らしき場所に向かったわけだが、どこの受付が今回受けた件の担当をしてくれるのだろうか。

 王都故か冒険者も多いしそれに比例するように受付も数がある。今は混んでいないが、必ず混む時間帯があると思うため円滑に進めるために数を多くしているのだろう。

 とりあえず適当に受付の人に話し掛けるか。場所が違えば教えてもらえばいいだけだし。


「ちょっといいですか?」

「はい。いかがなさいましたか?」


 受付のお姉さんの丁寧な返しに俺は学生証を出して事情を説明した。


「ゼムルディア王立学院から来た者なんですが、カナリア理事長から連絡が入っていると思うので確認をと」

「ああ、毎月来てくださるお手伝いの学生さんですね。今確認して参りますのであちらの椅子に腰を掛けてお待ちください」


 そう言われたので大人しく待つことにする。

 待っている間暇なので何かしようかと思っていたが前方に大きな掲示板らしき物があり、そこに先程とは別の受付の人が数枚の文字が書かれた紙を貼っていた。

 遠くて内容までは読めないがここはスキルの出番。

 スキル〝五感強化〟にて視力を強化して書かれている文字を読む。決して動くのが面倒だからじゃない。ここを離れてあのお姉さんに迷惑をかけたくないからだ。


 それで内容は依頼についてだった。

 おそらく自分の実力に合う依頼を見つけて受付に持っていくのだろう。

 実際に貼り終えた途端に冒険者がやってきて吟味している。そして依頼書を手に取り受付の方へ持っていった。

 あれが依頼の受け方か。覚えておいて損はない。

 それからしばらくして先程のお姉さんが戻ってきた。


「確認が終わりましたのでこちらへどうぞ」


 俺は受付に案内された。


「それではまず、アルク・アルスフィーナ様ご本人で間違いございませんね?」


 本当は違うけどオルガン家を名乗るわけにもいかないし、学生証にもそれで登録している。カナリアさんも容認しているから問題ないだろう。

 俺は「はい」と答えて念のために学生証を再度提示する。


「確かに……ご本人様で間違いないみたいですね」


 受付のお姉さんはチラッと俺の腰に携えている【ユグドラシルの枝】を見た。

 まあ、これが一番わかりやすいよな。カナリアさんのことだから冒険者ギルド側に俺の特徴を挙げたと思うが【木の枝】を持っている男と言えば簡単に済む。


 にしても受付のお姉さんはあまり疑ってないみたいだ。

 仕事だからと相手を不快にさせないように心掛けているだろうが、派遣された生徒がこんな武器を使うのであれば誰だってその実力を疑う。

 しかし、受付のお姉さんにはそれがない。まるで最初からわかっているみたいだ。


「あの、「なんでこんな生徒が」とか思ったりしないんですか?」


 別に聞く必要なんて無いのだがどうしても気になったので聞くことにした。


「うちのギルドマスターとカナリア様は友人でして。ギルドマスターは「カナリアが寄越してきた生徒だからどんな奴でも心配しなくていいだろ」と笑って言ってました。後ですね……」

「他に何か?」

「実は二週間ほど前に一人の女性が冒険者ギルドを訪れてギルドに登録したのですが、その方の御名前が〝リオン・アルスフィーナ様〟という方で。家名が同じですのでもしかしたらと思い……」


 そうですね、それは多分俺が知っているリオン・アルスフィーナです。

 いったいいつ冒険者ギルドになんて行ったのだろう。もしやこれを見越して事前に登録しておいたとか。

 というか何故受付のお姉さんは歯切れの悪い言い方をしているのだろうか。

 

「えっとぉ……うちのリオンが何かやらかしましたか?」

「いえ、そういうわけではないのですが……」


 そこからリオンがやった一部始終を聞かされた。

 まず冒険者としてギルドに登録する際に冒険者のランクを決める試験を行うようで、ランクはS~Eまであり、試験では最高でもCランクスタートだそうだ。

 でもCランクスタートなんて滅多にないらしい。しかし、この時点で俺は大体察してしまった。

 当然リオンも試験を受けた。

 結果はもちろん合格。

 ただし相手をした試験官はわずか三秒で戦闘不能。本人の同意もあり試験官を八人に増やして再試験を行ったようだが倒すのに一分もかからなかった。

 リオンの飛び抜けた能力から特例でAランクから冒険者活動を始めただとか。リオンらしいと言えばそうなのだが……。


「迷惑をかけたようでしたら俺が代わりに謝ります」

「そんなとんでもない! ギルド側からしてもリオン様のような方が登録していただけるのは有り難いことです。試験官の方たちもいっそう気合いが入ってます」

「なら良いんですが……。リオンは容赦ないので試験官の方が無事でなによりです」


 どうやら俺がリオンと身内の関係にあることを知って受付のお姉さんも俺に任せても大丈夫と安心ようだ。

 そして、今回の一件についての説明が始まったわけだが、最初に出されたのは二十枚近くある依頼書だった。


「こちらが今回お願いしたい依頼書になります。難易度はそれぞれで異なりますが大半はBランクを超えるものです。全て御一人で引き受けるようですが大丈夫ですか?」


 大丈夫も何も俺しか派遣されていないから必然的に俺が受けるしかない。

 こうやって依頼が残っているということはそれだけ面倒なものだったりするのだろう。

 期間は一週間と言っていたがその間に終われるかどうか。まったく、何処が楽な頼みなんだか。カナリアさんも人使いが荒いなぁ。

 まあ引き受けた以上やるしかない。文句はその後でも十分間に合う。何だったら文句は俺の代わりにリオンに任せてもいい。


「問題ないと思います」

「ありがとうございます。本当に助かります」

「困った時はお互い様ですから。ところで俺もギルドに冒険者登録した方がいいですかね?」

「そうですね、中には隣街までの護衛の依頼も入っていますからその街のギルドを活用したい場合はギルドカードが必要ですので登録して発行した方がよろしいですね」


 昨日カナリアさんもギルドカードはあると便利だって言ってたし作っておくか。

 登録にあたって試験はやらなければいけないがリオンが受かるならその下で指導を受けている俺でも合格できるだろう。

 早速登録したいところだが、登録はここから二つ右隣の窓口で受付をするらしい。その後、準備が整い次第試験開始というわけだ。

 冒険者ギルドについて色々と教えてくれたお姉さんに御礼を言って俺は別の窓口に向かった。

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