第43話 王都地下にある区画

「お待たせ、アルクちゃんのギルドカードよ。それとこれも」


 マルコスさんから直々に渡されたのは手のひらサイズのカードと一枚の紙だった。

 カードの方は言うまでもなくギルドカード。名前や年齢など個人情報が書かれている。無くさないようにしっかり保管しておこう。

 紙の方は何だろう? 最上部に「地下迷宮特別通行書」と書かれており、そのあとも長々と文章が続いている。


「ギルドカードは他国でも身分証明の代わりになるわ。あと依頼を受ける時と、依頼達成の報告時には討伐証拠品と一緒に受付へ提示してちょうだいね」

「何か理由があるんですか?」

「やり方は詳しく教えられないけど今まで受けた依頼とか実績とかをギルドカードに記憶させるの。そうしたら職員も相手がどんな人物でどんな依頼をやってきたのかわかりやすいし、実績があれば表に出すには難易度の高い依頼も頼むことができる。でも誤解しないでほしいのは無理矢理って訳じゃなく要相談ってとこよ。人間、生きてなんぼだから」


 なるほど、それは便利なシステムだ。

 目で疑われるより最初から事実を確認してもらった方が早い。特に他国の冒険者ギルドを利用することも考えると俺にとっては都合がいい。

 それにそんな人間がいるかはわからないが、実力が伴っていないのに見栄を張って虚偽の申告で無謀な依頼を受ける、なんてのもあるかもしれないからか。

 このシステムを導入したとなると実際過去に起こってしまったこととも捉えられる。つまり再発防止というわけだ。


「わかりました。それで、こっちの紙は何ですか?」

「それは王都の地下にある迷宮区画に入るための通行証よ。といってもギルドカードがあれば問題なく入れるんだけど、深ければ深いほど魔物の強さが上がっていく迷宮区画は冒険者のランクによって侵入できる階層が決まっているの。下手に足突っ込んで死なれちゃ困るしね」


 王都の地下にそんなものが存在していたのか。

 知らなかったがこれはこれで良かったかもしれない。リオンが知ってたら真っ先に訓練用として連れていかれる。いや、それももう時間の問題か……。

 

 どうやらマルコスさんの話を聞く限りでは、ここの地下には王都の敷地と同等の巨大な穴が空いているらしい。

 発見した当時は小さい穴だったようだが、時を経るごとに次第に大きく深く広がっていき、いつしか階層が出来て迷宮区画と呼ばれるようになったみたいだ。

 そんな巨大な穴が開いているのなら地盤が沈下して王都は奈落の底に落ちてもおかしくないと思った。

 しかし、理由は不明だが発見した当時から一度も地盤沈下の予兆などは起こっていないとのこと。


 その後国をあげて王都地下を調査したわけだが、最初に到達した開けた階層は自然豊かな土地だったという。

 更に調査を続けても現れるのは魔物と呼ぶにはか弱い小動物や鹿などの野生生物だった。

 階層に住む動物が人類に無害であるのならと、当時の国王は万が一に備え国民の避難所を作った。

 環境を壊さない程度に今も街作りは進んでおり、自然溢れる第二の王都を建設中とも言っていた。


 それ以降の階層からは魔物が出現するそうだ。

 しかし、最初の階層と次の階層は相当分厚い地盤がありそう簡単には魔物はやってこないため心配は不要である。

 他にも迷宮区画は学院の授業や行事でも使用されることもある。内容は教えてもらえなかったけど今のうちに偵察しておくのもありだな。


 とまあこんな感じで王都に存在する六つ目の区画──迷宮区画の説明を受けた。

 

「ちなみにギルドカードがあれば入れると言ってましたけど〝特別通行証〟があるのと無いのとではどう違うんですか?」

「それについてはまだだったわね。さっきも言った通り迷宮区画はランクによって挑める階層が決まってる。でも〝特別通行証〟があればランクに関係なく迷宮区画何処へでも行けるわ」


 それはまた凄い。けど特別と称しているだけあって滅多にお目にかかれないい代物なのだろう。聞き耳を立てて話を聞いている冒険者たちも驚いているのだから。

 希少故に管理はギルドカード以上に怠らないようにしよう。下手に悪用されては大変だからな。  


「アルクちゃんに任せた依頼のほとんどは迷宮区画の魔物の素材調達だけどAランク以上の魔物の素材も入ってるから気をつけてね。そうそう、余分に調達した素材とかは高値で買い取るからそこのところ、ね」


 遠回しに持って帰ってきてとマルコスさんは言っているな。

 ギルド側は希少価値のある素材を手にいれて買取額以上で他に売り捌き、俺は俺でお金が懐に入る。

 相互利益の関係か。まあ、小遣い稼ぎにもなるので前向きに考えておこう。いつなんどきロザリオに奢ることになるかわからないし。


 それにしても、詳しくは見ていなかったが改めて依頼書を読んでいくと本当にBランク以上の依頼ばかりだ。

 ちなみに依頼の難易度は最高でS、最低でEだ。魔物討伐なんかはDランクより上の難易度になる。

 束になった依頼書の中には一つだけDランクのものがあったが、これは隣街まで荷馬車を護衛するという簡単な依頼だ。他と比べたら霞んで見える。

 ただ、これだけ日時が決まっているのでこの日までに迷宮区画の依頼は終わらせなければならない。

 その日まで残りあと──3日!!

 正直言って時間が足りないかもしれない。何度も移動したくないので王都の依頼は一気に終わらせたいが、念のため終わらなかったことも考えておこう。


「わかりました。ご期待に添えられるかは状況次第ですが珍しいものがあれば持って帰ってくることにします」

「ホント!? 助かるわぁ~」

「それじゃあ時間も限られていることですし早速行ってきますね。ギルドカードの早急な手配や〝特別通行証〟の発行など色々ありがとうございました」

 

 お世話になったマルコスさんやレイナさんに礼を言って俺は冒険者ギルドを後にした。



 ◆ ◆ ◆



 迷宮区画への入り口は各区画の中央に存在する。

 話によると冒険者ギルド並みに大きな建物が目印だと聞いたのだが……。

 とりあえず中央に向かって歩いていたらすぐにその場所を見つけた。

 確かに冒険者ギルド並みに大きいし外観の色が違うだけで瓜二つの建物だ。

 中に入ってみると迷宮区画に挑むために作戦を立てる冒険者や、探索には欠かせない必需品を売ったり戦利品を持って帰ってくる冒険者を待つ商人など活気に溢れていた。

 そして俺の視界に入ったのは巨大な鉄扉とその前に大行列を作る冒険者の姿だった。

 

「あの、あれって何なんですか?」

「ん? 坊主はここに来るのは初めてか? あれは挑む階層に早く行けるために作られた〝昇降機〟だよ。あれに乗ればあっという間に目的地に到着するんだ。坊主も迷宮区画に行くなら早めに並んでおいた方がいいぞ」


 そう言って親切に説明してくれたおじさんは別のところへ行ってしまった。 

 確かに徒歩で行くには時間があり得ないぐらいかかりそうだもんな。というか徒歩で行く階段がないから最初から昇降機とやらを利用しろということか。

 俺はおじさんの忠告通りに列の最後尾に並んで自分の番が来るのを待った。


 そこから二十分。

 昇降機は大体10~15人を乗せて移動するらしく意外に時間がかかった。

 空いてる時間を狙っていてはどんどん冒険者が並んでいく。更に昇降機の往復時間もある。おじさんが言ってたことはこの事なのだろう。

 

「ご利用ありがとうございます。次のグループをご案内しますのでパーティー人数と向かう階層を教えてください」


 扉が開き、中から女性の従業員が出てきた。

 巷ではこの人のことを〝昇降機ガール〟と呼ぶらしい。誰が命名したのかは不明でいつの間にかそう呼ばれていたとか。

 まあそんなことはいい。

 昇降機ガールさんは俺の前に並んでいた四人パーティー三組を昇降機に乗せる。


「お次の冒険者様は何名様のパーティーですか?」

「一名です。場所はBランクの魔物が出現するところまで」

「……………えっ?」


 昇降機ガールさんは言葉を失っていた。

 そんなに驚かせること言ったかな? 

 あっ、思い返してみればこれまで迷宮区画に行くのはパーティー単位だったな。昇降機ガールさんもパーティー人数で答えてくると思いきや一人なんて言われたから困惑しているんだ。


「えっと、ソロで向かうには危険ですよ。特にBランク以上の魔物が出現する場所はパーティーを組んで挑むのが常識です。悪いことは言いませんのでパーティーを組むか別の場所に変更することを推奨しますよ」


 そう言われてもなぁ。目的地がそこなんだから変えるつもりはない。

 どうしよう──ってこういう時こそマルコスさんから貰った〝特別通行証〟の出番ではないか。

 いや、数十分前のことなんだから覚えていたよ。これだけ人数がいれば多少騒ぎになるかもと思ったんだ。

 俺は驚かれるの覚悟で懐から〝特別通行証〟を取り出して昇降機ガールさんに渡した。

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