第3話 再会
気がつけばそこは地獄絵図だった。
視界に映る無惨にも倒されている魔物たち。たった一日で倒せる量じゃない。どれも斬り口が一つだけだが確実に息の根を止めている。
これ全部俺がやったのか? 流石にそれは──けど誰かが俺を守ってくれたわけでもなさそうだ。多分これは知らない間に俺がやったこと。
それと
いや、【木の枝】というのは語弊がある。最初見た時は本当に不格好な【木の枝】に見えたが、今は形は整っており〝剣〟よりかは東洋の国で使われている〝刀〟に近い。柄の先には木の芽のようなものが生えている。
あと声、これを持った時に女性の声が聞こえた。もしかしたら幻聴かもしれないけど。
でも実際に大量の魔物を倒している。俺からしたら夢のようなことが本当に起きているんだ、あの声だって幻聴ではない可能性がある。
それにしても身体が酷く重い。全身の筋肉が悲鳴を上げている。まるで三日三晩全力で動き続けていたように。腕を上げるだけでも精一杯かもしれない。
だが疲弊した自分を包み込みように柔らかい雲のようなものの上に頭を乗っけていることに気付いた。
視線を上に向けるとそこには見知ったメイドの顔があった。どうして真っ先に気付かなかったのだろう。
「なんで、リオンがここにいるんだ?」
「アルク様いるところに私あり、だからですよ」
何を言っているのかさっぱりわからない。しかし、肌から伝わる熱は紛れもなく本物だった。もう会えないかもしれないと思っていたから涙が出そうなぐらい嬉しい。
「ところで私が駆けつけた時には既にこの惨事でしたが、これは全てアルク様がやったことなのですか? だとしたら流石の一言です。あんな武器の強さだけに固執する馬鹿貴族──失礼、ルイス様たちとは違い、己を鍛え上げるために魔物と戦っていたとは」
えっ、リオンじゃないの?
とは言わなかった。何故なら少しずつ俺が気絶した後の記憶が思い出されてきたから。
あれは間違いなく俺がやった事だ。しかし自分の動きではない、誰かに操られ、俺が出来る最大限の動きを無理矢理引き出していた感じだ。
「そういえばオルガン家の仕事はどうしたの?」
「もちろん辞めて止めてきましたよ。アルク様を見つけたのは辞めてから三日経ったぐらいでしょうか。行き先もわからなかったので探すのに多少苦労しました」
リオンは俺が家から追い出された日に辞めたわけじゃない。
つまり俺はリオンが見つけてくれるまで少なくとも三日以上はここで気絶していた──意識がないまま戦い続けていたとも言える──わけなのか。
「まあ、何はともあれアルク様が無事であれば構いません。それよりもお疲れのようですのでしっかりと休息できる場所まで参りま──」
「リオンッ!」
咄嗟に叫び手に持つ【木の枝】を強く握った。
後ろからリオンに飛び掛かる魔物にいち早く気付いたからである。何故魔物の気配がわかったのかは不明だが今考えることではない。
俺は限界に近い身体に鞭を打って魔物を即座に枝を振り下ろすと一瞬にして両断された。
両断? 刃のないただの木刀で魔物の肉を切り裂くことが可能なのか? 冷静に考えてみるとあり得ないことだってわかる。
牽制と思って木刀を振ったため、せいぜい突き飛ばす程度だと思っていた。だが実際は魔物が綺麗な切断面を見せて倒れている。木の枝でここまで人間離れした技を出せるはずがない。
《契約者の意識が覚醒したのを確認したため【ユグドラシルの枝】活動を再開します。改めまして宜しくお願い致します、契約者》
なんだコレ、頭の中に直接語り掛けられている。というかあの時聞こえたのはこの声だ。
えっと、【ユグドラシルの枝】とか言ってたな。普通の【木の枝】ではないようだが……
《【ユグドラシルの枝】の武器ランクはSS級に値します。ただの【木の枝】ごときでは天と地ほどの能力差があるのでその辺りを御理解頂けるように》
あっ、はい。なんかスミマセン……。
俺にはなんとなく【ユグドラシルの枝】が不機嫌なのを感じたので一応謝っておくことにした。
それにしても驚くのは【ユグドラシルの枝】がSS級武器ということ。
SS級武器は確認されているだけでも世界に15本しかない。しかし【ユグドラシルの枝】は未確認のSS級武器のためおそらくこれが16本目のSS級武器になる。
ところで【木の枝】ではないことは重々承知の上だが、刃のない【ユグドラシルの枝】がどうして魔物を両断出来たのか。
《それは大気中に存在する粒子──〝魔素〟を刀身に集約、その後スキルにより微細な振動を加え高速で循環させると先程のように対象を容易く斬れる剣が完成します》
なるほど、これは何を言っているのかさっぱりわからないパート2だ。けど解説ありがとうございます。
要するに【ユグドラシルの枝】が魔物を両断出来るように細工をした、という風に解釈すればいいのだろう。
「私などの身を案じ、私のために魔物まで倒して頂けるとは……。このリオン、アルク様の勇姿に感涙致しました」
などと言っているがリオンも魔物の気配を感じ取っていたはず。それを敢えて手を出さずに黙っていたのだろう。
その気になれば殺気が込められた鋭い眼差しで魔物に恐怖を芽生えさせ、撤退させることだって出来るはずなのに……。リオンめ、多分試したな。
「こ、これぐらいリオンの訓練に比べれば全然大したことないからね」
実はこんなことになるなんて思わなかった、とは言わないでおこう。まあ、全部【ユグドラシルの枝】がやってくれたお陰だけど。
「その意気ですよ。それにしてもそちらはなかなかの代物ですね。魔物を両断するほどの切れ味……普通ならあり得ないですが、お屋敷から持ち出したものですか?」
「いやぁ、それが気付いたら持ってたんだ。【ユグドラシルの枝】って言うみたいで何故か会話が出来るんだけど……」
「武器と〝会話〟……ですか。つくづく珍妙な出来事ですね。私にもその会話はできないのですか?」
どうだろう? やってみないことには始まらないけど。リオンにも俺と同じように会話は可能なのでしょうか、教えてください【ユグドラシルの枝】さん。
《リオン=アルスフィーナ氏とは契約を結んでいないため会話は不可能です。また契約には条件があり、リオン=アルスフィーナ氏は条件を満たしていないため契約は不可能です》
俺には出来てリオンが出来ない条件とは何なのか。まあ、これを考えるのは今度にしよう。
「うーん、無理っぽい。何か聞きたいことがあれば聞いてみるけど」
「いえ、大丈夫です。それよりも──」
急にリオンが腰に携えてる二本の剣のうち一本を抜いて構えた。
「一つ手合わせをしましょう。心配しなくとも本気は出しません」
リオンとは数え切れないほど勝負してきた。勿論戦い方を教えるものであり命のやり取りとかではない。
そして、俺は生まれてから一度もリオンに勝ったことがない。毎度本気で向かっているがリオンは赤子の手を捻るように俺に勝つ。
大人げないと言えば大人げないが今の俺ならもしかしたら勝てるのでは……。俺としても非常に気になる。
しかし、これはまた別の機会にしよう。
「悪いけどそれは遠慮させてもらうよ」
そう言って俺は地面に背中を預けるように倒れた。それを見たリオンは急いで剣を収めて駆け付けた。
「アルク様ッ!?」
「大丈夫大丈夫。ただちょっと身体の限界が来ただけだから」
本当はリオンを魔物の襲撃から庇った時点で全身に強い筋肉痛が電流のように走って立つのもやっとだった。よく今の今まで持った。自分でも誉めたいぐらいだ。
「申し訳ございません。冷静に考えればアルク様が酷く疲弊していることはわかっていたはずです。なのに私は……」
「だから大丈夫だって。少し休めば何とかなる。でもずっと森の中にいたみたいだし久し振りにちゃんとしたベッドで休みたいな。リオン、頼めるかな?」
「はい。お任せください。命にかえましてもアルク様のために最高級の宿を用意させていただきます」
いや、別に宿を探すだけなんだから命にかえなくてもよくない? それに最高級じゃなくてもいいんだけどな。
まあお願いする立場だし、やる気になっているのにそれを止める権利はないか。
ここから一番近い街だと〝王都ゼムルディア〟だったよな。
抱き抱えられるのは男として恥ずかしいが王都に着くまで少しだけ眠ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます