第3話 入団テスト② 4人の女剣士

 第一関門突破した私は訓練場の観覧席から他の人の手合わせの様子を見ていた。

 明日の公開試合ではこの観覧席はたくさんの人達で賑わうのかな?

 今日は非公開なのでテストの終わった受験生がちらほらといるだけだ。

 そんな事を考えているとピンクゴールドの髪を後ろで三つ編みにしている淡いグリーンの瞳の女の子が話しかけてきた。


「さっきのあなたの剣術を見たわ。相手の一振りを最後は見事かわしたわね」


 大きな目はややたれ目で剣士の格好よりもふわふわのドレスの方が似合いそうな美少女だ。


「ふふふ、ありがとうございます。私は、アヤーネ・ヒムーロ。あなたは?」


「私は、カミラ・キルシュ。私も一足お先に合格したわ」


 そんな話をしていると横から元気な声が割って入ってきた。


「ごきげんよう。わたくしも合格いたしましたわ。ざっと見たところ女性は4人しかいないみたいですね。あ、わたくし、シモンヌ・ドーファンです。以後お見知り置きを」


 言葉使いからしてこの少女は貴族かな。


 肩までの明るい水色のくせ毛に同じ様に明るい水色の瞳。

 着ているのは剣士服ではなく、これってガウチョパンツ? 紺色のガウチョパンツに淡いピンクのブラウス。

 一見すると街にお出かけのような格好だ。


 長い睫に縁取られたぱっちりとした目のお人形のように可愛らしい少女。


「それってガウチョパンツよね?」


 私は思わずそこに食いついた。


「ええ、そうですわ。発案者は愛し子様であるアヤカ様なんですよ。今日、受付でお会いできたんですけど、なんか申し込みに不備があったみたいで不参加になったようですね」


「あ、私もその場にいたわ。黒髪、黒眼のとっても可愛い少女だったわね。勇者様と並んだ姿はため息が出るほどお似合いだったわ。それにしてもあの緑の髪の男、対戦したらボコボコにしてやる! アヤカ様はあんなやつにもにっこりと微笑んでいたけど私は許さないわよ」


 おー勇ましいカミラ嬢。

 私が感心していると、後ろからちょっとハスキーな声が聞こえた。


「にっこりと微笑んでいたけどその裏で殺気立ってたよ。」


 そう声をあげたのはサラサラの金髪を肩で切りそろえたエメラルドグリーンの瞳の美少女だ。

 スラリと長身で宝塚の男役のような凛々しさだ。

 明るい表情から、どうやらこちらも合格したようだ。


「どうして殺気立ってたってわかるの?」と聞いてみた。


「緑の髪の男の言葉を聞いたとたんに愛し子様は剣に手をかけたからね」


 なる程、私の無意識の行動を見て心情を分析したのか。これは侮れないな。


「すごい洞察力ですね。私はアヤーネ・ヒムーロ。よろしく」


 私がそう挨拶すると、金髪美少女は屈託のない笑顔を見せた。


「シャーリー・ギムソンだ。こちらこそよろしく」


 女子はここに集まった4人だけか。

 見た目からからして皆私より年下かな?


 女子が4人しかいないこともあり、私達は初日にして名前を呼び捨てにするほど意気投合した。

 この空気感が学生に戻ったみたいでなんだか懐かしい。


 すると、手元のネームプレートが軽快な音と共に光り出した。


「あら、今日の選定試験は終了したようね。食事にする? それとも荷物を先に取りに行く?」と、カミラがみんなの顔を見渡しながら言った。


 荷物? 何の? 私が首を傾げているとシャーリーとシモンヌが相次いで口を開いた。


「お腹がすいたから食事がしたいな」


「そうですわね。騎士団の食堂が混む前に席を確保いたしましょう。わたくし達の宿泊場所は女子寮の一室が確保されていますから荷物は後でもよろしいかと思いますわ」


 宿泊場所? えっ、もしかしてこの入団テストって泊まり込みなの?

 ヤバイ! そんな準備なんにもしてないぞ。

 っていうか、3日間もアヤカの姿が見えないと騒ぎになるんじゃない?


 あー新聞の見出しが見えるようだ。

『愛し子様失踪?! はたまた誘拐か?! 捜索隊出動!』


 これはまずい。


 今更ながら自分のつめの甘さに愕然。

 後でこっそり別行動してミリアさん達にコンタクトを取らなければ。


 難しい顔をして考え込んでいるとよっぽどお腹がすいていると思われたらしい。


「アヤーネもお腹がすいているようだ。さあ、早く行こう」とシャーリーに促され私達は騎士団の食堂に向かった。


 私達4人が食堂に一歩足を踏み入れたとたん、一斉に視線が集まる。

 そりゃあ、目立つよね。男性がひしめく中、若い女の子4人だものね。


 料理を選んで4人掛けのテーブルにつくと、食堂で働いているエプロン姿のおばちゃんが私に向けて声をかけてきた。


「あんた、アヤーネちゃんかい? 荷物の引き換え札落としただろ? ここに届いてるよ。ほら」と言って私に白い封筒を差し出した。


 中を開けると番号が書かれている木の札と手紙が入っていた。ミリアさんからだ!


(着替えなど必要なもの一式、マジックバックに入れて預けてあります。こちらのことはアシストレンジャーのみんなでうまく立ち回りますので心配ご無用です。健闘を祈っております)と、書かれていた。


 わお!ナイスアシストです。

『アシストレンジャー』に秘密結社の称号も追加しておきましょう。


「アヤーネ、あなた、荷物の引き換え札を落としたのを気がつかなかったの? しょうがない子ね」


「まあ、良かったじゃないか。親切な人が拾ってくれたみたいだ。でも世の中には悪い人もいるからね。これからは気をつけなよ」


 カミラとシャーリーに言われうなだれる私。何も言い返せません。

 すると、シモンヌが驚く一言を言い放った。


「まあまあ、お二人とも、仕方ないですわ。アヤーネはまだお子様ですもの。」


 はい? いやいや、私はあなた達より年上だと思います。確かに一番身長は低くボディラインの凹凸は貧弱ですが。


「私はお子様じゃないです! 18歳ですもん」


「「「18歳?!」」」声を揃えて絶叫する3人。


 なぜか、周りの騎士様達まで驚いた顔をして私を見ているではないか。


 解せぬ。


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