第29話 オリゲール先生に関するライの見解

 ルイレーン国の王子と神官長がターマス国の王宮に着いたと知らせが来たのは、ちょうど、ライと一緒にオリゲール先生の座学授業の最中だった。


 魔導師団棟の小会議室を借り切り、私とライとオリバー少年と並んで座り、授業を受けていた。


 オリゲール先生への自分の気持ちを意識してからと言うもの、オリゲール先生の名前を聞くだけでもドキドキし、何をするときもオリゲール先生の顔を思い出しドキドキし、実際に会うとさらにドキドキしっぱなしだ。


 心臓に悪い。


 そして気が付いたことはオリゲール先生はとても人気があるということ。


 オリゲール先生が通った時に顔を赤くしている女官さんが何人もいたし、ひそひそと噂をしている場面に出くわしたこともある。


 ミリアさん達にもオリゲール先生のことをそれとなく聞いてみた。


 なんと、社交界では『氷の貴公子』と言われ人気を博しているらしい。

 なぜ、『氷の貴公子』?


 いつも素敵な笑顔がデフォルトのオリゲール先生からはそのネーミングがどうにも結びつかないが、とにかくアイドル並みに知名度があるということだ。


 ライバルが多すぎる…


 しかもこの子供の身体では不利ではないか。

 聖霊様~お願いします、なんとかして下さい。


 そんなこんなで、オリゲール先生との魔法の授業はライも一緒なのでちょっとホッとしている。


 自分ひとりだと挙動不審になってしまう自信があるもの。


 さっきから、オリゲール先生をつい目で追ってしまうのに先生がこっちを見ると恥ずかしくてサッと下を向いてしまう。


 あれ?ひとりじゃないのにかなりキョドってる?


 そして今回はオリバー少年も一緒。

 オリバー少年はライの従者だけあって、魔法も剣術もかなりの実力。

 本人もライと一緒に居たいと言うことで授業に参加してもらっている。


 部屋の後ろには岩ちゃんが控えている。


 今日の授業は魔法と魔術に関するもの。


 魔法とは、属性を駆使して発動させるもので魔術とは術式を組み込んで発動させるもの。魔法陣なんかがそうだ。


 そしてそれに関する小テストをしているところに、ルーカスさんがドアをノックして入って来た。


 オリゲール先生に何事が耳打ちした後、部屋を出て行った。

 何かあったのかな?


「ルイレーン国のご一行様が到着したようだ。僕は出迎えに行かなくては行けないから、授業はここまでにする。護衛の手配をするからそれまでテストをやっていてくれ。アヤカ、もしかすると今日の夜はルイレーン国の王子と神官長、あと、メアリー様の歓迎の晩餐会になるかもしれない」

 と、オリゲール先生は言って部屋をあとにした。


 晩餐会か~そう言えば、オリゲール先生とメアリー様って面識があるのかな?


 はっ、オリゲール先生が巨乳好きだったらどうしよう!


 今の私では絶対に勝てないよ。

 あれ? 大人になっても勝てないんじゃない?。

 机の上で脱力。


「どうした? アヤカ」


「勝ち目のない戦いに落ち込んでるとこ」


「何それ? っていうか、その戦いってどんな戦い?」


「大人の女の戦いよ」


 そう言うとライとオリバー少年はやや引きつった顔をした。


「あのさ、もしかしてアヤカってオリゲール様が好きなの?」


 ライの爆弾発言に今度は私の顔が引きつった。


「な、な、な、何言ってるの?!」


「とってもわかりやすい反応だね。でもアヤカはその戦いに参戦しなくて良いと思うよ。むしろ今のままでひとり勝ちだよ」


 ん? 言ってる意味がわからん。


「でもね、この先、アヤカは10歳になり、15歳になり、18歳になって大人の女性に成長するんだよ」


 あれ? どこかで聞いたようなセリフだ。


「だから、今のうちに諦めた方が良いと思うよ」


 いやいや、ライ、ここは応援するところでしょうが~


「ライ、セリフが違うよ! ここは『魅力ある大人の女性になるように自分を磨きなよ』だよ」


「いや、オリゲール様に限っては僕のセリフで正解だよ」


 なぜか隣のオリバー少年までコクコクと頷いている。


 ライの見解によるとオリゲール先生は小さな女の子が好きなちょっと変な大人だと言うことだ。


 世間ではそれを変態という。

 社交界では年頃のご令嬢には冷淡な態度だが、私に対しては真逆な態度らしい。


 まさかのロリコン疑惑。


 違うよ!だってオリゲール先生は私が18歳だって知ってるよ。それを知った時、むしろ嬉しそうだったもん。


 あれ?

 実年齢が18歳だけど身体は子供ってのはロリコンにとっては好都合なんじゃない?


 オリゲール先生がロリコン?

 なんだろう、心当たりがありすぎて否定出来ない。


 私は言葉もなく天使のようなライの顔を見つめた。

 と、そのときノックと共にドアが開いて誰かが入ってきた。


「はい、そこ離れて。くっつきすぎだよ」と言って私とライの間に割り込んできたのはなんとマー君だった。


 えっ、なんでマー君が?

 私の心を読んだかのようにマー君が言った。


「アヤのお迎えの要請がオリゲールさんから来たのと、サムネル様から晩餐会の招待を受けたから、どうせ同じところに帰るから俺が迎えに来たんだよ」


 そうなんだ。


『同じところに帰るから』をことさら強調したように聞こえたのは気のせいだろうか?


 それにしてもダグラス君が一緒なのはわかるけど、なんでマークスさんまで一緒なのだ。


 私の視線に気が付いたマークスさんがあわてたように言った。


「あたしはアヤカ様の護衛としてマサキ様について来たのよ」


 だから、あなたはメアリー様の護衛ですよね?

 思わず胡乱な視線を向ける。


「決して、美貌の魔導師団長に会いたいから来た訳じゃないわよ」


 そっちが本音か、まったく。

 でも残念でした、オリゲール先生はいませんよ。

 メアリー様だけでも心配なのにマークスさんにまでちょっかいを出されたらたまらない。


 絶対阻止しなければ。


「マークスさん、言っときますけど、オリゲール先生もノーマルですからね」


 あれ? ロリコンはノーマルの仲間で良いのだろうか?


 いやいや、まだオリゲール先生がロリコンと決まった訳じゃないものね。

 そんな会話をマークスさんとしていると、マー君がライに向かって話しかけていた。


「君がアヤのダンスレッスンの相手かい?俺は徳江雅樹だ。噂を聞いてぜひ会ってみたいと思ってたんだ」


「あ、僕はリースマン伯爵家が次男、ライモンです。勇者様ですよね?アヤカの従兄の」


「従兄ね…まあ、今のところね。ライモン君が年相応の子供で安心したよ」


「今のところ?」


 ライはマー君が言ったことが理解出来ないようで首を傾げていた。

 偽物の従兄妹だからね。


「ライモン君はオリゲールさんのところで魔法の訓練をしてるんだね。良かったら剣術も習いに来ると良い。その時は俺が指導してあげよう。みっちりと稽古をつけてあげるよ」

 と、マー君はなぜか怒っているような顔をして言った。


 ライはそんなマー君を驚いた顔をして見ていた。

 マー君ったら何か怒っているのだろうか?


「さあ、アヤ、一緒に部屋に帰ろう。」


 と言ってマー君は優しく笑い私の手を取った。

 あれ?なんだ怒っているわけではないようだ。


「ライモン君達は正門までの道のりは分かるかい?」

 と、マー君が言うとオリバー少年が、

「はい、大丈夫です。」と応えた。


「じゃあね、ライ、オリバー様、またね」と言って手をふると、ライが小さな声で「まさか、勇者様もとは……アヤカ、気をつけろよ」と言った。


 いやだな~いくら方向音痴の私でもここから自分の部屋までは迷いませんよ。

 マー君もいるんだから。


「大丈夫よ。雅樹兄様がいるんだから」と、言うと

「そのお兄様が危険なんだよ」とつぶやいた。


 とても小さなつぶやきだったのでマー君には聞こえなかったようだが、危険?いったい何が危険なんだろう?


 ライったら、変なの。


 そして私達は魔導師団棟をあとにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る