第12話 戻りたいけど戻れない
只今、王宮の図書室で読書中。
午後に暇を持て余している私をミリアさんが連れてきてくれました。
もちろん、護衛はディランさん。
読んでいるのは魔法関係の本。
この世界の文字が読めることはオリゲール先生との勉強会で確認済み。
自分で帰る方法をみつけるためにひとまず、召喚について調べてみようと思ったのだ。
高い所にある本はディランさんに取ってもらった。
本の題名を見てディランさんは少し顔をしかめたけど何も言われなかった。
少しホッとした。
だってこんなに皆さんに良くしてもらっているのに帰りたいと思っているなんて何だか罪悪感があるんだもの……
気を使ってくれているのか、ミリアさんとディランさんは少し離れた席についた。
図書室の片隅の席について分厚い本をめくると古い本の匂いがした。
読み進めるうちにお目当ての召喚に関する記述が出てきた。
「えっと、召喚に関する条件ね」
これによると、召喚するには条件を満たした者が対象になると・・・
勇者は正義感、勇気、騎士道精神、健康な肉体、魔力を受け取る器がある者。
聖女は正義感、勇気、慈愛の心、健康な肉体、魔力を受ける取る器がある者。
なるほど、マー君はこの条件にピッタリだったんだね。
えっと、注意事項が書いてある。
なになに、『召喚される者の精神的負担を考慮し、元の世界へ決別の意志のある者、あるいは逃避願望のある者を条件に追記のこと』
この条件で召喚されたと言うことは、マー君は元の世界に未練はないってことかな?
あれ?ちょっと待てよ。
私、あの時確か黒ずくめの男達から逃げてたよね?
「あー!!」
思わず上げた私の声にミリアさんとディランさんが素早く反応した。
「「どうした?!」されました?!」
「あ、あの、すいません、何でもありません・・・」
私は消え入りそうな声でそう言った。
な、なんてこったい!あの時あの男達から逃げてる時、まさしく、『逃避願望』ってやつではないか。
あ~それで条件が合致しちゃったんだ・・・
それに、この条件のもと召喚されたなら元の世界に帰りたいと思う人はいないかもね……
でも帰る方法はあるようだとマー君が言っていたよね?
どこにその方法が書いてあるんだろう。
ページをめくるとそれらしい記述が出てきた。
それによると、元の世界に戻るには大量に魔力が必要なことと、戻る場所、時間は召喚された時と同じとなると、書いてあった。
う~ん、それってまたあの場所のあの時間に戻されるってことだよね。
ダメじゃん、それ。奴らに捕まりに行くようなものじゃん。
貞操の危機と生命の危機のダブルアウトだ。
戻りたくても戻れない。
はぁ……と深いため息が出た。
くそ~あんな奴らのせいでなんで私がこんな目に……
こうなりゃ絶対にこの世界で幸せになってやる!
まずは自立のための勉強、魔法も覚えなきゃね。
勇者のマー君ならともかく、私はいつまでもこの王宮にお世話になってられないもんね。
「ミリアさん、私、決めました。この世界で生きて行きます。そのために色々教えて下さい。王宮にいつまでもご迷惑をかける訳にはいきません。自立しなきゃ」
「え?アヤカお嬢様、何を言っているのか意味がわかりません」
拳を握りしめ鼻息も荒く決心を固めた私にミリアさんからは何とも拍子抜けするような返事が帰ってきた。
「自分で立つと書いて自立です。勇者のマー君と違って私は役立たずのモブなので、手に職をつけて生活費を稼ぐんです」
「モブ?」
唖然としながらミリアさんがつぶやくと、ディランさんが慌てて声を上げた。
「いやいや、ミリアーナさん、突っ込むとこそこじゃないから」
「そうですよ、ミリアさん。モブの私にモブの説明をさせるのは残酷と言うものです」
「だから、アヤカ様もそこ違うから。一旦、話を整理してみましょう。アヤカ様はどうして自立が必要と思ったのですか?」
「え?だって魔力測定の時に聖女じゃないことが判明しましたよね?いくらマー君の従妹とはいえ役に立たない者をいつまでも王宮に置いておくとは思えません」
「あーなるほど、盛大なる勘違いからの発言ですね」
ん? 勘違い? しかも盛大ですと?
首を傾げて考えているとミリアさんが慌てた様子で言った。
「いいですか、アヤカお嬢様は聖女様ではなくて、女神様の愛し子なんです。それと、聖霊姫なんですよ。どちらがすごいかわかりますか?」
「えっと、聖女様?」
だって瘴気を浄化できるんだよ?女神の愛し子と聖霊姫はなにができるの?
「どうしてそうなるんですか~聖女様は人間ですが、女神様と聖霊様は神聖なる存在なんですよ」
「まあまあ、ミリアーナさん、落ち着いて。アヤカ様は異世界からいらしたのでこちらのことは分からないのも当然です」
そうです。さっぱりわかりません。私は思い切り頷いた。
そんな私を見てディランさんは苦笑しながら説明をしてくれた。
「聖女様は確かに瘴気を浄化する力があります。光魔法の力が優れてますからね。そして、女神の愛し子と聖霊姫ですが、こちらは『神聖人』と言われ、存在自体に清浄力があると言われてます。自国に『神聖人』がいることはとても栄誉なことなんです」
えっと、つまりどう言うこと?首を傾げる私。
「つまり、女神の愛し子と聖霊姫の方が格が上なんです。しかも、アヤカ様は名付の愛し子、今後、人族の国では『レミア・ティナ』エルフ族の国では『ライリン・ドール』が通称名となります」
「通称名?」
「はい。近日中に神殿から祝福の儀を執り行う旨の通達がくると思いますよ」
ディランさんの話だと、その『祝福の儀』を行った後私の呼び名が変わるらしい。
もともと『徳江彩香』という名前も他人の名前だ。
この先、この世界では『氷室絢音』という本名で呼ばれることは無いってことだね。
お父さんとお母さんから貰った大切な名前なのに……
寂しいな……
こうなったら、せめて遺伝子だけでも増やしてやる!
そして私の思考は婚活への決意となった。
良く考えたら王宮暮らしは私の婚活に絶好の舞台ではないだろか?
だって、王宮に出入りできる人って身元が確かな人だもんね。
うお~俄然やる気が出て来たぞ!
「ディランさん、ミリアさん、私の立場はわかりました。そしてやるべき事も。ミリアさん、一緒に頑張りましょう」
先に婚活中のミリアさんを差し置いて嫁に行くわけにはいかない。
見た目は子供だしね。中身は大人だけど……
ミリアさんが幸せになるのを見届けてからにしますよ。
そうだ!なんなら私がミリアさんにピッタリの紳士を見つけてあげよう。
「アヤカお嬢様の思考が斜め上に向かっていると思うのは私だけでしょうか?」
ミリアさんがつぶやくような声でそう言うと、ディランさんが
「いえ、ミリアーナさんだけではないです。私もそう思います」
と言った。
失礼な。私の思考はまっすぐど真ん中です。
そう思って軽くディランさんを睨むとにっこりと笑顔が返ってきた。
むむむ・・・癒し系イケメンめ~笑顔で何でも許されると思ってるな。
あれ?そう言えば、ディランさんって19歳と言ってたよね?
そう考えてディランさんとミリアさんが並んでいる姿をマジマジと見る。
これは、いける!
絵に描いたような美男美女ではないか。
「ディランさんは結婚してないですよね?婚約者はいますか?」
突然の私の質問に少し引き気味のディランさん。
「い、いえ、結婚もしてないですし、婚約者もいません」
そうか、そうか、なら安心だ。
つい、顔がにやけてしまう。
「アヤカ様、何かよからぬ事をたくらんでますね?」
何の事でしょうか?
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