第7話 アヤーネの重大発表
「ええっと、皆さん、お集り頂ましてありがとうございます」
「アヤーネ、何言ってるんだ? これから食事をするために食堂に入っただけだぞ」
リベルトのこの言葉に、シモンヌとジェフリーが頷く。
マークスさんには、事前に夕食の時に皆に事の真相を話すことを言ってあるので苦笑している。
旅をして早一か月、今夜宿泊するこの宿がターマス国の最後の街になる。
この街を出ると、宿屋がないような小さな村が点在していて、その先にある山を越えて魔族のライバン国へ入国となる。
そんな状況もあり、シモンヌがこの街のギルドで手紙を出すと言うのを必死で止めたのだ。
そこで、私も腹をくくりました。
皆に嘘をついていたことを誠心誠意謝り倒しましょう。
旅の道中で私が何かを悩んでいる事を察したシモンヌ達は、ことあるごとに『どんなアヤーネも好きですわ』と、言ってくれ、リベルトは『何があってもお前はお前だ』と言ってくれたのだ。
そんな、シモンヌとリベルトに報いるのは、真実を語る事。
宿に併設された食堂の隅のテーブルに着いた私達六人。
とりあえず、食事を終え、食後のお茶を飲んでいる時に私は周りに防音の結界を張った。
これで周りには私達の話は聞こえない。
「では、皆さん、私から大事なお話があります」
「なんだ、アヤーネ。まだ食べ足りないのか?」
「アヤーネ。食べすぎは良くありませんわよ」
「そうだよ。僕のお肉もあげたでしょ。もうやめときな」
「アヤーネ姉様。僕のをもっとあげれば良かったですね」
ちがーう!
食べ足りないわけじゃないんだってば!
「私はそんなに食いしん坊ではありません。あのですね、実は、皆さんに隠していたことがあるんです。あ、マークスさんは知っているんですが。私は、本当は愛し子のアヤカなんです。髪と瞳の色を変えて変身してます。皆さん、今まで騙していてごめんなさい」
がばっという勢いで、テーブルに頭をつける。
シーンとなったテーブル席で、私はシモンヌ達の反応が怖くて頭を上げられない。
「ふっ、ふふふ」
「ぶっ!」
シモンヌとリベルトの笑いを押さえたような声に恐る恐る顔をあげる。
「「やっと、言ったな」わね」
え?
二人の重なった言葉の意味が分からず首をかしげると、リベルトが話始めた。
「知ってたよ。あ、でも今ので確実に知ったってところかな」
「し、知ってた?」
「ああ、疑いを持ったのは愛し子様誘拐事件の時だな。アヤカ様がネージュを飛ばして王城にたどり着いた時に、俺とシャーリーを見て俺達の名前を呼んだんだ。一度も会ったことがないはずなのにおかしいだろ? もしかしたらアヤカ様の警護に当たっていたアヤーネが俺達の話をしていたのかもと思ったんだが……あの時の表情は俺達を見てホッとした顔だった。それに、倒れ込んだアヤカ様を抱き留めた時の匂いが、同じだったんだお前とな」
匂い!
リベルトの話によると、その時は気のせいかと思ったが、その後に愛し子の部屋のアヤカと、寮で会ったアヤーネの匂いがまったく一緒だったことから、同一人物と認定したという。
恐るべし獣人。
「私達、いつアヤーネがそのことを話してくれるか待っていましたのよ。様子を窺っていたら、なんだか討伐隊に参加するような準備をしていますしね。アヤカ様として討伐隊に参加するなら私達もうまく潜り込むつもりでしたの。でもアヤーネとして追いかける計画のようでしたので、シャーリーとカミラを討伐隊につけ、私とリベルトはアヤーネと行動を共にすることにしたんですの」
「へ? そ、そこまで私の行動って丸わかりだった? もしかして、シャーリーとカミラが聖女様とビビアナ様の護衛に抜擢されたのって……」
「ええ、シャーリーのお兄様達のお力をちょこっとお借りしました。あちらの情報も掴まなきゃいけませんもの」
「ごほっ!」
あ、マークスさんがお茶を詰まらせた。
「ちょっと、あんた達すごいこと画策してたのね。ジェフリー、今年の新人騎士はすごいのが揃ってるわね」
なぜかジェフリーに話をふるマークスさん。
「ふーう。なんだか、気が抜けちゃった。ずっと、シモンヌとリベルトに嫌われたらどうしようって思ってたから。はあ……でも、許してくれてありがとう。これでシアンの事も説明しやすい」
「あら、シアンの事ってなんですの?」
「ああ、あのね。シアンは元はゴーレムのガンちゃんなの。女神様と聖霊様が私を心配して少年の姿に変えてくれたの」
「「「は?! ゴーレムのガンちゃん?!」」」
マークスさんとシアン以外の声が一斉に響いた。
「どういうことですの?!」
「シアンは、ゴーレムなのか?」
「ってことは、シアンは人間じゃないってことだよね?」
あ、あれ?
私が本当はアヤカだということより、シアンの方が重要案件なのか?
「えっと、人間になりたて? 体の構造的には、本当の人間と変わらないのよ。ただ、常識が伴ってないから、今勉強中って感じ。そんでもって、私の弟」
私のこの言葉に、シアンは嬉しそうににっこりと笑う。
可愛いすぎ。
「ちょっと待ってちょうだい。そうなると、リースマン伯爵家とはなんの関係もないということですの?!」
「あ、うん。まったく無関係。私の記憶の中の少年の姿を模写した結果、ライモン様と容姿が重なったみたい。だから、別人。あははは………」
「笑い事じゃないですわ、アヤーネ。危うく、リースマン伯爵に喧嘩を売るところでしたわ」
「そうだぞ、アヤーネ。俺の中でリースマン伯爵は最低の貴族として記憶しちゃったじゃないか」
「ああ、僕もだよ。そういう事はもっと早く言ってくれなきゃ。会ったこともない伯爵を心の中で何度もボコっちゃったじゃないか」
ええ?!
私は一言もリースマン伯爵家の令息だなんて言ってないよ?
いや、だから、もとはと言えば、マークスさんの勘違いなんだってば。
思わず、マークスさんに目を向けると、サッと視線をそらされた。
こらー!
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