第8話 転移の事は忘れてました

 私の正体を明かし、シアンがゴーレムのガンちゃんだと告白した今、順調に旅を続けている。


 宿屋のない小さな村では野営も体験し、シアンに至っては立派な狩人に成長。

 獲物の下処理もできるまでに……。


 言葉遣いは主にジェフリーが教え、剣術はリベルト、魔法の基礎はマークスさんが、世の中の常識をシモンヌが教えている。

 姉という立場なのに可愛い弟に何も教えてあげることができない私。


 非常に、肩身が狭い。



 今日は、ライバン国手前に位置する国境沿いの森で野営の予定だ。

 リベルトとシモンヌは馬達に水を飲ませに湖に行き、マークスさんとジェフリー、シアンは食料の調達に行っている。


 残った私は火の番とスープ作りを担当。

 せめてこの鍋のスープを焦がさないように混ぜ混ぜしなきゃ。


「アヤーネ姉様。何か悩みごと?」


「シアン! 狩りから戻ったのね」


「うん。アヤーネ姉様が心配だから一足先に戻って来たんだ。それで、何を悩んでるの?」


「えっと、悩みというか……。なんだか、私ってなんの役にもたってないなあと……」


「? 役に立つ? アヤーネ姉様はいるだけで良いんだよ」


 シアン! 天使だ! 天使がここにいる。


「そうだな。アヤーネは何もしない方が安心だ」


「そうですわね。アヤーネが行動を起こすとなんだか心配ですもの」


 あ、リベルトとシモンヌが帰ってきた。


「ちょっと、ふたりとも、シアンの言葉と微妙に意味が違う言い方に聞こえるわよ」


「ん? そうか?」


「ふふふ、アヤーネったら、気のせいですわ。さあ、マークスさんとジェフリーも帰って来たようですし、夕食の支度をしましょう」






 火を囲んで食後のお茶を飲んでいるときにリベルトがみんなの顔を見渡しながら口を開いた。


「みんなに話がある。今日、討伐隊にいるシャーリーから連絡が入った。討伐隊は、ジャイナス国で騎士の補充が済んでライバン国の王城目指して進んでいるそうだ」


「私にもカミラから連絡がありましたわ。ジャイナス国では森や山に瘴気の吹き溜まりが多く発生していて、聖女サーヤ様が浄化をしながらの旅程だったようですわ。聖女サーヤ様の浄化は最初はうまく行かなったようですが、今では慣れてきたみたいね。魔導師団長がサポートしているって言っていたわ」


 ま、魔導師団長? 

 そ、それって、オル様じゃん!


「さ、サポート? サポートってどんな?」


「そりゃ、魔導師団長なんだから、浄化の発現方法とかだろ。シャーリーも言ってたけど、行き詰まっていた聖女様を支えているってよ。そんでもって、我儘聖女様が人が変わったように優しくなったって騎士達が騒いでるようだぜ」


「へぇー。魔導師団長といえば、女嫌いで有名な人だよな。そんな人が聖女様のお世話をしてるってことか。ふぅん……それって……いや、なんでもない」


「ジェフリー、それってなに? なんなの?!」


「アヤーネ、興奮しないのよ。この討伐で聖女様の力は重要だもの。魔導師団長がサポートするのは当たり前よ」


「当たり前……そ、そうよね、マークスさん。女嫌いな魔導師団長でもお仕事だものね。うん」


 自分にそう言い聞かせるけど、ううっ、胸の奥がザワザワする。


「ああ、話がそれたな。俺が言いたいのは、討伐隊はこれからライバン国の王城目指して、各地に設置してあるポートキーを使って転移するらしい。俺たちは転移できない分、急がないと追いつけないぞ。ライバン国の王都で待ち伏せできれば一番良かったが、今となってはそれは難しい。せめて深緑の森に入る前に追いつきたいな」


 転移?

 そういえば、この旅に出る前にマリア様とエバ様が転移の事を言っていたような……。


「あの……神殿を見つければなんとかなるかと……」


「「「神殿?」」」


「うん。神殿から神殿に転移ができると思う」


「はあ?」


 あ、リベルトのケモ耳がピコピコ動いてる。


「どういうことなの? アヤーネ」


 目を丸くしたシモンヌはやっぱり美少女だ。


「神頼みっていう落ちじゃないよね?」


 ジェフリーったら、お祈りだけでそんな事できないって。


「まさか、それって女神様と聖霊様のお力なの? どうしてそういう事を早く言わないのよ!」


 あら、マークスさんったら、半分キレてます?


「ええっと、忘れてたから?」


「なんで、そこ疑問文なのよ! このおバカ! それを早く言ってれば今頃野営なんてしないでライバン国の宿屋でくつろぎながら討伐隊が来るのを待ってたわよ!」


 ひぇ〜!


「だって、今思い出したんだもの! みんなとの旅が楽しくってすっかり忘れたんだもの! ごめんなさい!」


 必殺、ジャパニーズ土下座。


「「「はぁ〜」」」


「皆さん、アヤーネ姉様を責めないで。僕はこの旅で皆さんから色んな事を教わって良かったと思ってます。僕に取ってはこの時間が必要でした。ライバン国に入国次第、一番近い神殿を探して、神殿から神殿に転移しながら王都を目指しましょう」


 シアン! まじ、天使!

 お姉ちゃん、向こう一週間のおやつは全部シアンにあげちゃうよ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る