第9話 怪しい神殿①

 ライバン国に入国後、私達は村や街で神殿から神殿に転移したあとは次の街まで馬で移動するという方法で王都を目指している。

 なので一旦馬車は私のインベントリに収納、もちろんシアンと私はネージュに同乗です。


 流石に神殿の門をくぐってすぐに消えるのは失礼なので、少しばかりの献金とお祈りをしてから転移している。





「おい、アヤーネ。お前、何か感じないか? ライバン国に入国してから空気が重い気がするんだが」


 馬の休憩のために立ち寄った町外れの草原地帯でリベルトが言った。


「やっぱりリベルトも気がついた?」


「あら、空気が重いってどういうことですの?」


「あたしは特に感じないわね。ジェフリーは何か感じる?」


「いや、僕も感じないな。天候はいたって快晴だし。あ、あれかな、魔族の国だから空気中の魔素が濃いのかな? 魔力の多い者は魔素濃度も感じるって聞いたことがあるよ」


 魔素濃度か……。

 でも、リベルトは魔力量は少ないはず。

 それでも感じるということは……。


「もしかして……」


 そうつぶやきながらリベルトに目を向けると、頷き返された。


「え? なんなの? アヤーネとリベルトは何か思い当たることがあるの?」


 マークスさんのその言葉に、シアンが口を開いた。


「瘴気が漂っていますね」


「「「瘴気?!」」」


 シモンヌとマークスさん、ジェフリーから一斉に声が上がる。


「ごく薄い濃度なので人体に影響はないようです。神殿のある場所では神聖力で浄化されてますしね。光属性持ちのリベルトさんとアヤーネ姉様はなんとなく重く感じるのでしょう」


「なるほどな。そういえば、ジャイナス国では瘴気の吹き溜まりが多方面で発生してるって言ってたな。ライバン国も同じってことか」


「え? でも、ターマス国はジャナイス国とライバン国に挟まれてるのにそんなことなかったじゃない?」


 素朴な疑問疑問を口にしてみた。


「だって、ターマス国には、アヤーネ姉様がいたから」


 な、なるほど。

 そういえば、女神様と聖霊様の愛子は存在するだけで国を浄化するって言ってたっけ。

 あれ? じゃあ、ターマス国を出ちゃったら不味くない?


「うん。だから、早く帰ろうねアヤーネ姉様」


「わかったわ。じゃあ、一刻も早く討伐隊と合流したほうが良いわね」


「ああ、そうだな。ポーション配達の任務が終わったらそのまま討伐隊に紛れるぞ。そこらへんはシャーリーとカミラがうまくやってくれるはずだ。あ、ジェフリーもそのまま俺たちと同行してくれるのか?」


「もちろんだ。最後まで君たちに付き合うよ。マシュー団長には、そのまま隊に加わるようにデンナー隊長から厳命されていると進言するつもりだ」


 あ、す、すみません。

 ご迷惑をおかけします。


「じゃあ、そろそろ行きましょう。さっきの神父様の話だと、この草原地帯を抜けた街に神殿があるはずよ。その神殿から王都の神殿に転移するのが一番の近道よ」


 はい、では、マークスさんの指示通りに出発しましょう。




 ***************




「ここか。随分と大きな神殿だな。しかも新しい。それに……ここらの空気の重さが増してる気がする」


 馬から降りた私達は、真新しい巨大な建物を見上げる。

 確かに空気の重さが増してる……神殿なのに?


 今まで訪れた神殿は誰でも礼拝ができるように門が開いていたが、ここは閉まったまま。

 二人いる門番は、神殿には不釣り合いに武装している。

 この神殿にお宝でもあるのだろうか?


「あら、門が閉まってるなんて不思議な感じね。あの門番に取り次いでもらうしかないわね」


 マークスさんの言葉に頷き門番に声をかけようとしたとき、突然背後から声をかけられた。


「ようこそ、旅のお方」


 そこには、大きな荷馬車を背に見目麗しい青年が立っていた。

 白い法服を着ているのを見ると神父様かしら?


「私はこの神殿の神父です。旅の途中でこの神殿にお立ち寄りいただきましてありがたいことでございます。さあ、中へどうぞ。お前たちは荷物を頼む」


 さすが、神父様ね。

 柔らかい微笑みは安心感が漂っているわ。

 私達を中に促しながら神父様は、荷馬車を門番に託した。


 裏庭のスペースに馬達を繋がせてもらい、礼拝堂へ案内してもらった。


「立派な神殿ですね。最近建てられたのですか? 警備も厳重なところを見ると、とても貴重な神器でもあるのでしょうか?」


 先程の疑問を口にする私に神父様は明るい声で笑った。


「あははは、そのような貴重なものはございませんよ。ただ、新しく建った神殿なのでまだ内装が整っていなのですよ。建築士の仕事中は危険が伴うので門を開放したままにはできないのです。門番が人数を確認してからお通ししているんです」


 なるほど……。


 神父さんの後について進むと、一つの扉の前で止まった。

 扉の前には武装した屈強な男性が一人。

 神父様の顔を認めるとサッと頭を下げたが、目だけはこちらに向けながら品のない笑みを浮かべた。


 うっわ、感じ悪。

 しかし、神殿の中だと言うのにここにも武装した兵士がいるなんて違和感しかない。


「では、ここから男性陣と女性陣に分かれて礼拝堂へご案内します。女性陣は私が、男性陣はこの者がご案内します」


 え? 男女に分かれて参拝するの?

 神父さんの説明によると、この神殿には男性の魔力と女性の魔力に反応する礼拝堂があるそうな。


「いや、俺たちはお嬢さん方の護衛なんで離れるわけには行かない。一緒のところに案内してほしい」


 リベルトのこの言葉に神父様は困ったように眉を下げる。


「それは困りましたね。でもまあ、そちらの事情もわかりすのでご一緒に参拝できるように部屋を整えましょう。では準備ができるまでこちらの待合室でお待ち下さい。」


 そう言って部屋を後にする神父様を見送りながらちょっと申し訳ない気になった。


「男性用と女性用の礼拝堂があるなんて変わってる神殿ね」


「この神殿はあたしに優しくないわ。だってこの場合あたしはどっちの礼拝堂に案内されるのよ?」


「「「男用だ!!」」です!!」」


 みんなの意見が一致したところで、神父さんがワゴンにお茶を乗せて入室してきた。


「さあ、お茶をどうぞ。旅の疲れが取れますよ。まずはレディからどうぞ」


「まあ、神父様。お気を使って頂いて恐縮ですわ」


 お茶を受け取りながらお礼を言うシモンヌ。


 でも私は神父の後ろで、シモンヌを舐めるように下から上に視線を這わせる兵士が気持ち悪くてしょうがない。


 まあ、シモンヌは誰が見ても美少女だからね。

 そんなことを考えながら神父様から茶器を受け取ると、途端に万能タブレットが目の前に出現し頭の中で警告音が鳴り響いた。






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勇者のおまけも大変だ! 見崎天音 @misakenyujin

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