第18話 ようやく女神様の絵姿とご対面
最近、マー君の様子がおかしい。
朝食と夕食は一緒に取っているがその時の様子が何となくおかしいのだ。
なにが?と聞かれたら答えられない所がもどかしいけれど、何か言いたそうな目を向けたかと思うとため息をついていたり。
悩みでもあるのかな?
子供の私じゃ頼りにならないから悩みがあっても打ち明けられないか。
こんな時、子供の姿なのが情けない。
最初はこの姿の方が都合が良かったんだけどね。
いっそマー君に本当の事を打ち明けてしまおうか?
でも信じてくれるかな?
そんな事を思いながらいつものようにマー君と朝食を食べていると不意にマー君が先日のメリンダ嬢事件の顛末を教えてくれた。
「そう言えば、メリンダ嬢は当面は領地に帰って再教育、ランディル公爵家は国王が良いと言うまで王宮の出入りを禁止になったようだよ」
「そうなんだ。なんか、子供のケンカが大事になってる感じがするね」
「それがそうでもないみたいだよ。ランディル公爵家はかねがね国王に後宮を開くように訴えていたらしい。国王はそんな気ないから相手にもしていなかったけど、最近他の貴族を煽って目に余る行動に出て辟易してたからこうなってホッとしてるようだ」
「え? 後宮?」
「あーえーと、王族は正妻以外にも側室って言って他にも奥さんを迎えることがあるんだ」
なぜか顔を赤くしながら後宮の説明をしてくれるマー君。
いやいや、分かるよ。私にも後宮の意味くらい。
どうして赤くなるのさ?
なんだかこっちが恥ずかしくなるよ。
「でも、国王様は王妃様一筋だからそんなの必要ないよね」
「まったくだ。それにメリンダ嬢もレイモンド様の婚約者の立場を手に入れようと色々画策してたみたいだし、国王一家にとっては今回の事は害虫を一掃できて万々歳なんじゃないかな」
メリンダ嬢、色々画策って一体何をしたんだろう?
「メリンダ嬢はレイモンド様に近づくご令嬢達に意地悪をしていたらしいよ」
まんま悪役令嬢じゃないですか~
「あ、そう言えば今日神官長が神殿を案内してくれるらしいぞ。ほら、アヤが女神様の絵姿を見たがってただろ?俺も今日の午前中休みだから一緒行くつもりだから」
「本当に? やった! 嬉しい」
女神様の絵姿を見れるのも嬉しいけど、マー君とのお出かけも嬉しい。
お出かけと言っても王宮の神殿に行くだけなんだけどね。
それでもこの世界のお兄ちゃん、私にとっては第二の兄と過ごせるのは純粋に嬉しいのだ。
さて、神殿にやってきました。
王宮の北側に建っている神殿は白亜の城のよう。
マー君が勇者として召喚されたのもこの神殿らしい。
あいにく私は気絶していたので記憶になし。
メンバーは私、マー君、護衛のライナスさん、ターニャさん、リタさんです。
今日はディランさんが休暇を取っているのでそれに合わせてミリアさんもお休みしてもらった。
もちろんミリアさんはお休みする事に抵抗したけど、私がこの世界に来てから毎日朝から、寝るまで付いてくれていたミリアさん。
思えば、一週間以上働いているのに休みなしなんてどんなブラック企業なんだ。
と、言うことで本人の意見はまるっと無視して今日はお休み。
ディランさんにミリアさんも今日は休暇日ということをさりげなくアピールすることも忘れなかったよ。
最近のディランさんのミリアさんを見つめる視線は恋愛経験のない私でもわかるくらいの熱視線。
今頃2人でデートしているに違いない。
王宮関係者用の通用口から中に入ると壁も床も真っ白な幅の広い長い廊下が続いていた。
その廊下の片側に聖職者の皆さんが整列していた。
男性は紺色の法服、女性は白地にピンクの縁取りがある巫女服を着ている。
肩に掛けられている襷の色が違うのはそれぞれ役職や位で分けられているのかな。
私達を認めると一斉に頭を下げた。
あはは・・・なんか場違いな所に来た感じ?
誰だ!女神様の絵姿を見たいなんて言ったのは。私だよ…
ぼーぜんとしていると奥の方から白い法服を来た年配の男の人が進み出てきた。
年齢は60代くらいだろうか。
長い白髪を後ろで束ねている。元々白い髪色なのか、年齢とともに白髪になったのかこの世界のあるあるに詳しくない私にはわからない。
「ようこそいらっしゃいました勇者様、女神の愛し子様。私は神官長のカラマス・ドナリと申します。カラマスとお呼び下さい。本来ならこちらからご挨拶に伺わなくてはならないところをご足労頂きまして誠に恐縮でございます」
「頭をお上げ下さい神官長様。俺は徳江正樹、こちらは彩香です。今日はよろしくお願いします。」
そうマー君が言った後、視線で私にも挨拶を促したので私もご挨拶。
「アヤカです。お忙しいところお時間を作って頂きありがとうございます」
と、言ってペコリと頭を下げた。
神官長のカラマス様は私を見るとサファイアのように綺麗な瞳を細めて微笑んだ。
笑った時に出来る目尻の皺に人柄の良さがにじみ出ている。
思わず私も笑顔になった。
すると、さっきまで笑顔だったカラマス様が私の手を握りしめてオイオイと泣き出した。
なぜだ??
先ほどの挨拶に泣くような要素があっただろうか?
「あ、あの、カラマス様?」
と声をかけるとカラマス様の後ろで控えていたと思われる白い法服の男性が前に進み出た。
白髪に青い瞳、美しいという表現が似合うほっそりとした男性だった。
あ、この人カラマス様と似ている。
「神官長、アヤカ様が困ってますよ。ほら手をおはなしください」と言ってカラマス様の手を軽くぺしっと叩いた。
ありゃ、仮にも神官長様に向かって扱いが雑すぎるよ。
するとカラマス様は怒るでもなく素直に手を放してくれた。
「おーこれは失礼しました。マリアベート・ティナ様の名付けの愛し子様にお会いできるなんてこの老いぼれが今まで生きてきたなかで三番目に嬉しいことでございます。思わずうれし泣きをしてしまいました」
三番目なんかい!
そこは嘘でも一番と言って欲しかった。
心の中で思いっきり突っ込みを入れながら苦笑いする。
「さあ、わたくしと神官長で礼拝堂にご案内いたしましょう。申し遅れましたがわたくしは神官長補佐のオーサリー・ドナリと申します」
あ、『ドナリ』と言うことは息子さん?
私の無言の問いかけにオーサリーさんはにっこりと頷いた。
そして数分後、私とマー君は礼拝堂の壁に向かって口をあんぐり開けて惚けていた。
「これはすごいな…」
マー君の言葉に右に同じく!
だだっ広い部屋の壁一面に等身大の女神様、勇者様、聖女様の絵が書かれていた。
礼拝堂は日本で結婚式とかに使われるようなものではなく、椅子や祭壇も無いちょっとした体育館なみの広さの部屋だった。
吹き抜けの天井、半球の天井にはめ込まれたステンドグラスから外の光を取り込み計算されたように壁画をライトアップしていた。
無駄な装飾が一切無い空間で壁に描かれた絵の人物が生き生きとしている。
私は女神様の壁画を食い入るように見つめた。
これが女神様…確かに似ている…
白いドレスを着て色とりどりの花畑の中で慈愛に満ちた微笑みをこちらに向けている女性。
これはまさしく18歳の私だ。
マー君も隣で息をのみ私と女神様の壁画を交互に見ている。
「どうですか? 女神様のお姿を見て。ご自分でも似ていると思うでしょう?」と、オーサリーさんが言った。
私は頷きながら気になったことを聞いてみた。
「この絵は誰がいつ書いたのですか?」
「約800年前に女神様のご神託を受けた当時の神官長が5年の歳月を費やして書いたと言われてます」
「800年前?!この鮮やかな色彩の壁画が?」
「はい。この壁画は保存魔法で保護されてます。我々聖職者の毎日の仕事です。女神様もご自分に似ているアヤカ様をこの世界に呼びたかったんでしょう。」
そうなんだろうか?
でももし、自分に似ている女の子が危ない目に合っているとしたら助けたいと思うのはわかる気がする。まあ、似ていなくても助けるけどね。
女神様は男達から逃げている私を助けるつもりでこちらの世界に呼んだのだろうか?
それにしても、何故子供の姿にする必要があったんだろう?
そんな事を考えているとカラマス様から声をかけられた。
「そう言えば、アヤカ様は聖霊様の愛し子でもあるんでしたのう。エルフの聖霊様はイタズラ好きで子供が大好きと聞いてます」
「え? イタズラ好きで子供好き?」
「そうです。よく天界から降りてきて子供に紛れ込んで一緒に遊んだり、大人になった自分の愛し子を子供に変身させてイタズラしたり無邪気な聖霊様らしいですぞ」
な、な、なに~!
はい、聖霊様犯人確定です。
「アヤカ様も可愛らしいお子様なので聖霊様に気に入られたのでしょうな」
いえ、逆です。大人なのにイタズラで子供に変身させられてます。
「っていうか、聖霊様って普通の人にも見えるんですか?」
「もちろんじゃよ。聖霊様も女神様も実体がありますので。まあ、めったに人前には出ないですが」
恐るべし異世界……
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