第19話 防御魔法の特訓開始

 今日から防御魔法の特訓開始です。


 朝、突然のオリゲール先生の来訪にびっくりする間もなく、魔導師団棟に連れて来られました。


 久々に会うオリゲール先生はどことなく疲れているように見えるけど、相変わらずの美貌です。


「さあ、ここが魔導師団の棟だよ。一階部分は厨房と食堂、大浴室と仮眠室、あと倉庫がある」


 王宮の西側に建つ魔導師団の棟は、三階建ての日本で言うマンションみたいな造りの棟と渡り廊下で繋がったドーム型の訓練館で構成されていた。


 ミリアさんと護衛のディランさんに付き添われてここまで来たが、この国最強の魔導師団の本拠地で何かが起こるわけがないと、2人とも帰されてしまった。


 なので、オリゲール先生と私の2人で魔導師団棟の見学ツアーです。

 迷子にならないようにと手を繋いで歩いてます。


 これが地味に恥ずかしい。

 すれ違う人が私とオリゲール先生を見て驚いた顔をするからだ。


「あの、オリゲール先生手を……」

 と私が言うと、


「え? 手は嫌なのか? そうか、抱っこの方が良いのかな」と笑顔で返された。


「いえ、手が良いです」と即答する私。

 意気地なしですみません。


 昔、私の祖母が言っていました。『長い物には巻かれろ』と、きっと今がその状況です。


 手を繋いだまま二階部分に到着。


「二階には第5班まである魔導師部隊のそれぞれの詰め所、会議室、研究魔導師の研究室、実験室、魔導師団長の執務室、その隣がアヤカの部屋だよ。三階は独身者の住居スペースになってる。今住んでるのは15人ほどかな」


 えっと、今サラッと流したけど一カ所聞き捨てならないセリフがあったよね?

 聞き間違いじゃなければ、『アヤカの部屋』って言った?


「私の部屋?」


「あ、そうだよね。見てみたいよね。じゃあ、早速行ってみよう。こっちだよ」


 え? 私の今の質問はそう言う意味じゃないんだけど……


 そうして連れて来られたのはオリゲール先生の執務室の隣の部屋だった。


 ドアを開けると20畳ほどの部屋。どうやら、オリゲール先生の執務室とドア一枚隔てて繋がっているようだ。


 白地にピンクの小さな花模様の壁、座り心地の良さそうなカウチソファとローテーブル、床にはふかふかなペパーミントグリーンのカーペットが広がっていた。


「わあ~可愛い部屋!」

 思わず声を上げた私にオリゲール先生はにっこりと笑った。


「気に入ってくれて良かったよ。もともとこの場所はルーカスの執務室だったけど、追い出したんだ」


 なんですと? オリゲール先生いったい何してるんですか!


「そ、それはまずいですよ。そもそも、私の部屋なんて必要ないような気がします」


「いや、必要だよ。これから防御魔法を特訓するからね。疲れるから休憩しながらやらなきゃいけないでしょ」


「だけど、それならオリゲール先生の執務室の片隅で休憩させてもらえば…」


「それも考えたけどね。僕の執務室は結構人の出入りがあるからそれじゃあ落ち着かないでしょう? だからアヤカの部屋を作ったんだ。ルーカスの執務室は増築して別の所に作ったから大丈夫さ」


 増築? オリゲール先生と会わなかった期間ってせいぜい一週間ほどだったと思うけど、そんな短期間で増築やリフォームってできるものなのかな?


「増築ってこんなに短期間でできるものなんですか?」


「今回は王都中の魔法建築士を集めたんだ。もちろん僕も手を貸したし。通常の5倍の速さで完成したよ」


「えっ、王都中から集めたんですか? 5倍の速さ? それってものすごい無理を言ったんじゃないですか?」


「大丈夫さ。そこは王族の権力をフル活用させてもらった」と、オリゲール先生はとびきり素敵な笑顔で言った。


 な、な、なに~!オリゲール先生、あなた権力の使い方間違っていますよ~


 思わず遠い目になった私を責めないで下さい。





 オリゲール先生と訓練館にやって来ました。


 ここは魔法の訓練や魔導具の実施訓練などに使用するため、目的別に部屋が分かれているらしい。


 私が特訓するのは防御魔法なので訓練館の奥に位置する屋外のグランドでやるようだ。


 私が立っているところから5メートルほど先に一体の土の人形? えっと、ゴーレムっていうやつがスタンバイしていた。


「アヤカは器用に生活魔法を使うって聞いているからきっとすぐに防御魔法が使えるようになると思うよ。あのゴーレムが丸い土の塊をなげてくるからそれを防御魔法で防ぐんだ。魔法はイメージが大事だ。イメージを補助するために詠唱するのも一つの手だよ」


 詠唱か~あの中二病ぽいやつだよね。18歳の私にはハードルが高いわ。

 簡単にオリゲール先生が詠唱をして見本を見せてくれたけど、とてつもない美貌の人は例え中二病的発言をしても格好いいと言うことがわかっただけで私にとっさにそれが出来るか疑問である。

 

 そしていよいよ実践。

 ゴーレムが土の塊を手に持ち、投げるフォームにはいった。


 あ、なんかテニスボールみたい。ちょうどこのグランドもテニスコートが二面並んだ広さだし。


 そう思ったとたん、私の右手には何故だかテニスのラケットが握られていた。


 げっ、なんで?!


 深く考える間もなく飛んできた土ボールを手にしたラケットで打ち返していた。


 感触はまさにテニスボール。


 私が打ち返した土ボールをゴーレムはパシッとキャッチし、また投げてきた。

 もちろん、打ち返しましたよ。


 そしてまたボールはゴーレムのもとへ。


 今度もキャッチするかと思いきや、ヤツは私の真似をして大きな手をラケットのように使い打ち返してきた。


 私の左方向に飛んできたボールをバックハンドで打ち返す。

 軽装とはいえロングドレスは動きずらい。


 これで勝負がついたかと思われたが、ヤツもなかなか手ごわい。


 重そうな体に似合わず身軽な動きでボールを打ち返してきた。


 先ほどより少し高めの放物線を描き私の陣地に飛び込んできたボールを思いっきりジャンプをしてスマッシュを決めた。


 これでどうだ!


 ボールはゴーレムの右脇にバウンドした。

 勝った!


「はい、そこまで!」とオリゲール先生の声が響いた。


 何故か頭を抱えている。


「えっと、オリゲール先生これって防御魔法でしょうか?」


「うーん、これを防御魔法と認めて良いものだろうか…」と呟いた。


あ、やっぱり?

これってただのテニスだよね?

楽しかったけどね。

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