第20話 ルイレーン国の動向 オリゲール視点

 エルフ族のルイレーン国から親書が届いたのはアヤカの魔力測定の3日後だった。


 エルフ族が伝達係として寄越した飛蜥蜴は返事をもらって帰ってくるように言い使っているようで先ほどから「お返事下さい。お返事下さい。」とわめいている。


 ルイレーン国の聖なる森に生息する飛蜥蜴は知能が高く簡単な言葉は理解し覚えられると言われている。


 体長1メートル、蜥蜴の体にコウモリの羽を持つ飛蜥蜴はくりっとした大きな目で意外にも愛嬌のある顔をしていた。


 各国の親書や貴族達の書簡はこの魔導師団棟に届くように誘導魔法がかけられている。

 安全かどうかの判定をするためだ。


 とりあえず、飛蜥蜴に餌と水をやり後は団員に任せ、ルイレーン国からの親書を持って宰相のサムネル様のところへ急いだ。



 会議の間に国王、宰相、神官長、魔導師団長の僕が集まり緊急会議が始まった。


 親書を読んでいる国王の眉間に深い皺が寄っていることから内容はあまり歓迎できるものではないらしい。


「陛下、ルイレーン国はなんと言ってきているのですか?」

 とサムネル様が国王にたずねると、眉毛を寄せながら国王が答えた。


「簡単に言うと聖霊姫をルイレーン国に招待したい、聖霊姫はルイレーン国にいたほうが幸せになれると言ってきてる」


「なんと! アヤカ様はマリアベート・ティナ様の名付けの愛し子ですぞ。この国で幸せになってもらわねば!」と、神官長のカラマス様が言った。


カラマス様の言葉にみんな頷く。


「それがな、エルフの国王の他に聖霊眼を持つと言われる神官長からの親書もあった。それには祝福の儀をルイレーン国の神殿で執り行いたい旨が書かれている」


 これにまた神官長のカラマス様は怒り心頭となった。


 そこへ宰相の声が割って入った。


「アヤカ嬢はまだお子様ですのでルイレーン国への旅は危険と思われること、勇者のマサキ殿の親族なので離れて暮らすことは考えられない事を理由にお断りしましょう」とサムネル様が言った。


 さすが、宰相だ。納得の理由付けに一同賛成となった。


 早速、親書の返事を書くため、国王は自分の執務室へ向かった。


 とりあえず、祝福の儀の日程はルイレーン国の事が落ち着いてからと言うことでこの場は解散となった。



 魔導師団棟に戻るとアヤカの部屋の修繕と増築工事の進捗状況を確認しに向かった。


 この工事は魔導師団棟にアヤカを迎えるための準備だ。


 アヤカがいつでも休めるように僕の執務室の隣りに部屋を確保する必要があった。


 ただ問題は、僕の執務室の隣りは魔導師副団長のルーカスの部屋だということ。


 渋るルーカスを今より広く、快適な部屋を用意することを約束し、彼の執務室を明け渡してもらった。


 アヤカの魔力測定の翌日から王都中の魔法建築士を僕の名前と王族の権力を使いかき集め、僕も付きっきりで指揮をとり時には自らの魔力で手助けをして工事を促した。


 そして、順調に工事が進んでいる中、アヤカの侍女として送り込んだリタからアヤカがメリンダ嬢から襲撃されたと報告があった。


 何て事だ! アヤカを髪の毛一本でも傷つけるヤツは許さない。


 メリンダ嬢のランディル公爵家といえば、かねがね国王に後宮の復活と自分の娘をレイモンド王子の婚約者にしろとごり押ししてきたりと王家に取って歓迎できない家だった。


 ただこれまで目立った問題を起こしていないがために野放し状態だった。


 国王はこれ幸いと王宮の出入りを禁止したようだが、それで反省する奴らだろうか?


 そう思っていると、市井の民の間でランディル侯爵家の令嬢が国王陛下が後見している勇者の従妹に無体を働いたと噂が上がった。

 きっとあの場に居合わせた貴族家の侍女や護衛から市井の民にまで広まったに違いない。

 恐れ多いその所業のとばっちりを避けるためランディル侯爵家の領民が近隣の領地に流れているという。


 僕は近隣の貴族達にランディル公爵家の領民が流れてきたら快く迎え入れるようにとお触れを出した。


 まあ、概ね予想通りの結果になった。


 ただ、領民の流出は想定内だったが、領地の土地が枯れだし作物が全滅したことには驚いた。


 女神様は自分の愛し子を何時も見守っているようだ。


 遠からず公爵家は衰退するだろう。




 ルイレーン国に親書の返事をだしてから3日後の午後にまた飛蜥蜴が飛来してきた。


 今度は親書の内容を承諾してもらうようにと言われたのだろか「お願い聞いて。お願い聞いて」とうるさい。


 しかし、ぺこりと頭を下げられ大きな目で見上げてくる仕草はなんとも言えず可愛らしい。

 エルフ族はここまで計算ずくなのだろうか。


 例により、先日の顔ぶれで会議の間に集まった。


 ひとしきり午前中に神殿を見学しに来たアヤカの様子をカラマス様から聞いたあと、本題に入った。


「陛下、ルイレーン国王の親書の内容はどんなものでしょうか?」親書を読みながら目を見開いている国王にサムネル様が問いかけた。


「それが、この前のこちらの主張は受け入れてもらえたが、その代償として、祝福の儀をわが国で合同で執り行いたいと。愛し子様のお披露目にも参加したいと言ってきた」


 最初のルイレーン国王の懇請を断ったあとなのでさすがにこれは断りずらい。


「ついては、ポートキーの使用許可をお願いすると。この懇請は断られることがないと思われるので、すでに第三王子と神官長はルイレーン国を出国している。と綴られている」


「なんですと! もうこちらに王子一行が向かっていると?!」いつも冷静なサムネル様が慌てた様子で声を上げた。


 僕はあまりの驚きに声が出なかった。


「ずいぶん強引な行為ですな」とカラマス様。


「向こうも必死なのだろう。聖霊様の名付けの申し子といえば、500年ぶりの出現だ」


 確かに立場が反対ならわが国も同じ事をしたかも知れない。

 妙に納得している自分と、やはり強引過ぎる行為に反発する自分がいた。


「どうされますか?陛下」


「出国してしまっているものを引き返せとは言えまい。ルイレーン国からの道中のポートキー管理所に許可の布令を出すことにする」


 ポートキー管理所とは転移魔法陣が施され転移ができるようになっている場所だ。


 わが国には各主要都市、10カ所に配置している。


 ポートキー管理所が設置されていないところは馬車での移動になるが、それでもこのポートキー管理所を使用すると格段に目的地に早く着く。


「陛下、王子ご一行は総勢何人でしょうか?場合によっては瑠璃の宮を解放しなくてはなりません」


 瑠璃の宮とはかつて後宮として使用していた宮だ。


 本宮より規模はだいぶ縮小されているが一国の王子と神官長に滞在してもらうのに適している。


「人数は特に記されていないが瑠璃の宮を解放した方が良いな。その方が貴賓室にいるアヤカを煩わせないですむだろう」


 魔導師団棟に戻り、飛蜥蜴のところに行った。


 僕の顔を見ると飛蜥蜴は近づいてきて「お願い聞いて。お願い聞いて」と例のごとく頭をぺこりと下げた。


「お願いはちゃんと聞いたよ」と、答えると


「ありがとう。ありがとう」と頭を上下に動かし喜んでいた。

 可愛いヤツめ。


 ポートキー許可証と歓迎する旨の手紙を飛蜥蜴の背中の鞄に入れた。


 すでに出国している王子ご一行の元にこの飛蜥蜴はちゃんとたどり着けるのだろうか?


「鞄の中身を王子ご一行に渡して欲しい。お前、ちゃんと王子ご一行の元に行けるのかい?」


 と声をかけると、


「大丈夫、大丈夫。王子、お守りくれた」と言った。

 どうやら追跡の魔石を持たされているようだ。


 かくしてわが国とルイレーン国との『合同祝福の儀』開催が決定したのだった。

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