第21話 アヤカの防御魔法の訓練開始 オリゲール視点

 飛蜥蜴を送り出してから王宮はルイレーン国の王子ご一行を迎える準備に追われていた。


 ポートキーを使ってもルイレーン国からこの国の王都まで早くて2週間と言ったところか。


 そんな中、魔導師団棟のアヤカの部屋の修繕と増築工事が終了したので早速、アヤカを迎えに行った。


 久しぶりに会うアヤカは相変わらず可愛くこの所の激務による疲れも吹き飛ぶくらいだ。


 迷子になると困るからとアヤカと手をつないで棟の中を案内すると、魔導師達が一様に驚いた顔をして振り返る。


 中には口を開けて間抜け面でアヤカを見ていたり、真っ赤な顔をして目を逸らす者がいたり、反応は様々だ。


 アヤカは恥ずかしそうにしていたが、それがまた可愛くてしかたがない。


「あの、オリゲール先生手を・・・」

 と、アヤカが頬を赤くして言うもんだからついからかいたくなる。


「え? 手は嫌なの? そうか、抱っこの方が良いのかな」と笑顔で返してみた。


「いえ、手が良いです」

 と、可愛く返事をしたアヤカに満足して手を繋いだまま二階にあがった。


「二階には第5班まである魔導師部隊のそれぞれの詰め所、会議室、研究魔導師の研究室、実験室、魔導師団長の執務室、その隣がアヤカの部屋だよ。三階は独身者の住居スペースになってる。今住んでるのは15人ほどかな」


「私の部屋?」


「あ、そうだよね。見てみたいよね。じゃあ、早速行ってみよう。こっちだよ」


 アヤカを僕の執務室の隣りの部屋に案内すると、「わあ~可愛い部屋!」と喜んでくれた。


 カーペットからソファにいたるまで厳選した甲斐があったというものだ。


 アヤカは自分の部屋が用意されていたことに恐縮しているようだったので、この部屋の必要性について説明をした。


 こういう謙虚なところもアヤカの美徳だ。

 これが上位貴族の令嬢なら部屋があって当然といった態度だろう。


 アヤカと一緒にいるとドンドンその魅力に引き込まれる自分がいる。

 サムネル様が言っていたように13歳の年の差なんてどうでも良くなってしまうから不思議だ。

 だが、僕はけっして幼女趣味な訳ではないと自信をもって言える。

 こんな年上のおじさんはアヤカに相応しくないと思う自分とこんなにアヤカを幸せにしたいと思っている自分が隣にいても良いのではないかと思う自分がいるのだ。

 まったくもって自分の心さえも掴みそこねている状態だ。

 



 防御魔法の訓練のためにアヤカをつれて訓練館へとやってきた。

 訓練館の廊下を突っ切り、屋外の訓練グランドに向かう。


 アヤカの魔法の才能はリタの報告を聞く限り結構上位レベルだろう。

 それに、マサキの魔法を指導しているルーカスも異世界人のイメージ力を絶賛していた。

 マサキはルーカスの説明だけ聞いて難なく攻撃魔法も防御魔法も使いこなしたらしい。


 僕は事前に自分の魔力を込めた魔石を使ってゴーレムを作成し準備をしていた。


 ゴーレムをアヤカから5メートル程離れた場所に配置をしてアヤカの所に戻ると、これから行う訓練内容を説明した。


「アヤカは器用に生活魔法を使うって聞いているからきっとすぐに防御魔法が使えるようになると思うよ。あのゴーレムが丸い土の塊をなげてくるからそれを防御魔法で防ぐんだ。魔法はイメージが大事だ。イメージを補助するために詠唱するのも一つの手だよ」


 と、説明して少し離れたところで見守る事にする。


 もしアヤカが防御魔法を発動出来ず、危なくなったらすぐに助けられるように僕も準備する。


 まあ、あのゴーレムが投げるのはただの土の塊なので当たったとしても汚れるだけで怪我はしない。


 あの土の塊にはアヤカに触れたとたん砂に変わるように術式を組み込んでいるからだ。


 そして、ゴーレムが土の塊を投げた。


 するといつの間にかアヤカの右手には木製と思われる先が楕円形をした棒のような物を持っていた。


 なんだ、あれは? と言うかいつの間に?

 そしてアヤカに向かって飛んできた土の塊をその棒で打ち返した。


 あまりの事にぼーぜんとなる。

 いったい何が起こった?

 ゴーレムの元に飛んでいった土の塊を今度はゴーレムが手で受け止めた。


 おかしい。

 ゴーレムにはアヤカに土の塊を投げるだけの指令しか組み込んでいないのにあんな動きをするなんて。


 しかもあの土の塊はもう僕が用意したものとは物質的に違っているようだ。

 アヤカが瞬時に変化させたのか?


 土の塊を手で受け止めたゴーレムはまたアヤカに向かってそれを投げた。

 心なしか楽しそうに見えるのは気のせいだろうか?


 またまた、アヤカは飛んできた土の塊を楕円形の棒で打ち返した。


 打ち返されたそれをゴーレムはなんと自分の手を広げて打ち返したのだ。

 まるでアヤカの真似をしているかのようだ。そしてやはり楽しそうだ。

 ただのゴーレムに思考と感情は無いはずだ。

 では、この状況をなんと説明する?


 ぼーぜんとアヤカとゴーレムの打ち合いを見ているとゴーレムが打ち返した土の塊が先ほどより高い位置を保ちアヤカのもとへ飛んでいった。


 それをアヤカは飛び上がりながら打ち返した。


 土の塊はゴーレムの脇に落下して地面に着くと弾んだ。

 弾んだ?!

 これはもはや土の塊ではないな。


 僕は頭をかかえながらアヤカに声をかけた。


「はい、そこまで!」


 アヤカは首を傾げながら僕に声をかけた。


「オリゲール先生これって、防御魔法でしょうか?」


 それは僕も知りたい・・・


「うーん、これを防御魔法と認めて良いものだろうか・・・」と僕はつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る