第15話 王宮は戦場だった①

 さて、やって参りました。騎士団の訓練場。


 私に付いて来てくれたのはミリアさんとリタさん、あとは護衛のナリス・クレマンさん。


 ナリスさんは水色の短髪に紺色のたれ目がチャームポイントの子煩悩なパパさんで昨年生まれた長男にデレデレです。


 屋外の訓練場は円形のグラウンドで観覧できるように高い位置に30段ほどの階段席が設けられている。

 観覧席の下はグランドに沿ってフェンスが張り巡らされていて騎士達の控えの場所や関係者が観戦出来るようになっているようだ。


 まるでこじんまりとした野球場のような感じだ。


 訓練場の観覧席に着くと、なんと色とりどりのドレスを着たご令嬢達で賑わっていた。

 皆さん、十代前半から二十代前半くらいだろうか。

 ひとりのご令嬢に侍女や護衛が付いているもんだから結構な人数である。


「すごい人!初めて訓練場に来たけど、見学者が結構いるんですね」


 そう言う私にミリアさんが答える。


「あ、今日は騎士団と近衛師団の合同訓練の日なんです。この日は一般開放しているので多いのでしょう。普段は関係者しか見学出来ませんので」

 と教えてくれた。


 なる程、それでこんなに賑わっているんだ。


 騎士団と近衛師団の合同訓練で一般開放となればご令嬢にとっては絶好の婚活会場だもんね。


 ってことは、このご令嬢達は私とミリアさんのライバルってことだね。

 これはまずい、早くよく見える場所を確保しなければ。


 私達一行がぞろぞろと移動するとなぜか皆さん道を開けてくれたので一番グランドが見やすい位置に陣取った。


 さて、マー君はどこかな?


 ざっと見たところ、騎士団の皆さんは黒いライトアーマーで近衛師団の皆さんは白いライトアーマーを着用しているようだ。


 グランドを見るとちょうど入口から黒いアーマー姿のマー君が入ってきたのが見えた。


 私は思わず手摺り越しに手を振りながら声をかけた。


「マサキお兄様!」


 私の声に反応したマー君が一瞬目を丸くしその後にっこりと笑って手をふりかえしてくれた。


 そのとたん、ご令嬢達から凄まじい歓声が上がった。


 そして私の近くにいたご令嬢達からはガン見された。

 えっ、な、なに?めっちゃ見られてる?


 声とかかけちゃいけなかったのかな?でもみんなキャーキャー言いながらお目当ての騎士様に手を振ってたよね?


 内心の焦りとは裏腹に私はこちらを凝視しているご令嬢達に涼しげな笑顔を向けた。

 ここで怯んだら負けなのだ。


「こんにちは。今日は良いお天気ですね」と、ニッコリ。


 会話の取っ掛かりは今日の天気というのは全国共通なのだ。

 きっと、異世界でも一緒だよね? たぶん…

 一番近くにいた水色のドレスのご令嬢は驚いたように目を見開き、その隣のピンク色のドレスを着たご令嬢は片手で口を覆った。


 そんな中ひとりのご令嬢が私の前にスッと近寄って来た。

 年齢は10代前半位だろうか?


「こんにちは。あなたは勇者様の従妹様ですね。私はリーマン公爵家三女、パトリシアと申します。以後お見知りおきを」

 と、言って軽く膝を折った。


 パープルの巻き髪に青い瞳の笑顔が眩しいゴージャス美少女だ。髪色と合わせたパープルのアフタヌーンドレスがとても似合っている。


「私は徳江彩香と申します。こちらこそよろしくお願いします」と、私も笑顔で軽く水色のワンピースを摘まみ膝を折って挨拶した。


 それを皮きりに次々とご令嬢達が自己紹介をしてくれたけど、はっきり言って覚えられない。


 手摺りから一段目の観覧席までの幅三メートルほどの通路に私を中心とした人だかりが出来てしまった。


 子供の身長の私は完璧に埋もれている状態だ。

 その人だかりの中をかき分けて新たなご令嬢の一団が現れた。


「ちょっとあなた達、邪魔よ。一体何をしているの?!」

 その声に反応してサッと道がひらけた。


 そこには水色の髪をハーフアップにしたご令嬢が淡い緑色の目を不機嫌そうに歪めて立っていた。


 後ろに従えているのは取り巻きのご令嬢達かしら?


「あら、メリンダ様。ごきげんよう。今、マサキ様の従妹であられるアヤカ様にご挨拶をしていたところですわ」

 とパトリシア様がそう言うと、メリンダ様と呼ばれた美少女が私を睨みつけた。


 こ、怖いんですけど…


「そう、あなたがマサキ様の従妹なのね。女神様に似ていると噂になっているようだけどまだ子供じゃないの。結局は勇者様のおまけでしょう?ちょっと可愛いからっていい気にならない事ね」


 はいきた~悪役令嬢の登場です!


 私の肩書きは今のところ、祝福の儀がまだなので勇者の従妹。

 でも本当の従妹じゃないので私としてはそう言われることに罪悪感を感じる。

 申し訳なさに俯いているとそれを傷ついていると勘違いをした周りの皆さん方がザワザワとしだした。


 私の横にいた護衛のナリスさんがメリンダ様から私を守るように立ちはだかり、ミリアさんとリタさんも両脇を固めた。


「失礼ながらランディル公爵家のメリンダ様とお見受けいたしますが。」

 とナリスさんが言うと、メリンダ様はキッと、目を釣り上げて


「ただの護衛風情が私に話しかけて良いと思っているの?!」

 と声を荒げた。


「私は国王様より、アヤカ様の護衛の命を承りましたので、アヤカ様への暴言を見逃すわけにはまいりません。」


「何を言っているの?!私はランディル公爵家の娘よ。勇者様のおまけのその子とどちらが格が上かわからないの?」


「格が上なのはあきらかに国王様が後見なさっているアヤカ様の方です」


 ナリスさんのその言葉にメリンダ様の取り巻きのご令嬢達やその侍女、護衛のかたがたは顔面蒼白状態。


 当のメリンダ様はそんな周りの様子に気づかないようで、さらに目を釣り上げて声を上げた。

「護衛風情が私にそんな口聞いて良いと思っているわけ?!」


 これはヤバイ。

 貴族社会での公爵家と言うと一番上の爵位だよね。

 このままだとナリスさんが危ない。


 この喧嘩は私に売られたものだ。

 買ってやりましょう。そちらの倍のお値段で。


 私はナリスさんの背中からそっと抜け出しメリンダ様の前に出た。

 とたんにナリスさんが止めようと動いたが鋭く目配せをする。


「ごきげんよう。私は徳江彩香と申します。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 不意打ちの私の登場にメリンダ様は一瞬固まった。


「あなた、今までの会話を聞いていなかったの?私はランディル公爵家のメリンダよ!これだから子供はいやなのよ。」


 いやいや~あなたも立派な子供でしょう。


「会話は聞いていましたがお互い自己紹介をしていませんのでお聞きしました。他のご令嬢の方々は皆さんご丁寧にご挨拶していただいたので自己紹介のご挨拶をするのが淑女としての嗜みなのかと思いましたの間違っていまして?」

 どこまでも子供らしくあどけない感じで首をコテンと傾げる。


「な、生意気な!」


 あ~あ、せっかくの美貌が台無しです。


「私、これからマナーの先生に付いてお勉強をする予定なんです。ここでたくさんの淑女の方々とお会いできて光栄ですわ。こんな淑女に成りたいと思わせてくれる方とそうでない方がいてとても勉強になります」

 と無邪気な笑顔で言った。


 私の言葉にパトリシア様とその周りのご令嬢達はクスクス笑い出した。


 パトリシア様も公爵家のご令嬢だけど、全然高飛車な所がない。


 日本でいうと中学生くらいのようだけど、ご令嬢達はパトリシア様派とメリンダ様派に分かれているのだろうか?


 一方、メリンダ様は私の言葉の意味を理解して顔を真っ赤にしてワナワナ震えだした。

「あ、あなた、わたくしを侮辱する気?!」


「侮辱なんてとんでもございません。公爵家のご令嬢でいらっしゃいますメリンダ様は最高峰のマナー教育をお受けになっていることでしょう。マナー教育もまだの私はランディル公爵家の教育方針がどの様なものかわかりませんので」


 言外にメリンダ様の言動がランディル公爵家の品位に繋がると、それが公爵家の教育方針なら仕方がないけどねと言ってやったがわかっただろうか?


 すると、怒りが頂点に達したらしいメリンダ様はなんと私に向かって野球ボール大の水の塊を投げ付けてきた。


 とっさの事でもちろん私は避けきれずそのままバシャリと頭から水をかぶった。

 ナリスさんも私を守ろうと前に出てきてくれたので少し被害にあったようだ。


 なる程、これが攻撃魔法か。

 防御魔法を習ったらこういうのもとっさに防げるってわけね。


 それにしてもピンポイントで私だけを狙うことが出きるなんてメリンダ様は魔法の才能があるのかな?


 私の両隣にいたミリアさんとリタさんは少しも濡れていないものね。

 そのことに少しホットした。


 私のせいで大切な人達が被害に合ったら胸が痛いもの。


 のんきにそんな事を考えているとミリアさんとリタさんから悲鳴が上がり、周りのご令嬢達もパニック状態。


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