第16話 王宮は戦場だった②
メリンダ様の攻撃魔法をまともに受けてずぶ濡れになった私。
あまりの事態にその場が静まり返ったその時、第二王子のレイモンド様の声が響きわたった。
「何をしている?!」
サッと開けた通路を近衛騎士を引き連れてこちらに向かって走ってくる。
「アヤカ! びしょ濡れじゃないか、何があった?!」
びしょ濡れの私とそれに対峙するように立ちすくんでいるメリンダ様を交互に見てどうやら状況を察したらしいレイモンド様。
「ランディル公爵家のメリンダ嬢だね。君、アヤカに攻撃魔法を使ったのか?」
キラキラの王子様が低い声で問いかける様は静かな怒りが感じられて怖かった。
「わ、わたくしは何も悪くありませんわ!この子が自分の身分をわきまえずに生意気なことを言ったので躾をしただけです。勇者様のおまけの分際で公爵令嬢のわたくしの言うことを聞かないからよ!」
躾って身内や先生がするもんでしょうが・・・
なぜ私が初対面のあなたに躾られなきゃいけないのですかね?
「君、それ本気で言ってるの?何故アヤカが格下の君の言うことを聞かないといけないのさ。それに、生死に関わる緊急事態以外に王宮内で攻撃魔法を使用することは禁止されている。しかもこんな小さな女の子に何て事するんだ!」
見た目は子供ですが、中身18歳です。
メリンダ様よりも年上です。
とりあえず、濡れた髪とワンピースを乾かすことにしますか。
あ、少し濡れてしまったナリスさんもね。
さあ、自主トレの成果を実践です。
私の全身とナリスさんの全身に標準を合わせて生活魔法と創造魔法を練り合わせる。
乾燥と状態復元、それとグランドは少し埃っぽいので清浄をイメージして指をパチンと鳴らす。
すると、私とナリスさんの全身が光で包まれた。
ほんの数秒でそれは収まりすっかり元通りの状態になった。
いやそれよりも清浄も加えたので気分的にもスッキリとした。
その状況を見ていた周からどこからともなく「ほ~」と声が上がった。
濡れ鼠がすっかり元通りの状態になってみんなホッとしたのだろう。
ミリアさんとリタさんも目をキラキラさせて私を見ていた。
ナリスさんは目をパチクリとさせて自分の手と私を見ていた。
一児の父とは思えない可愛らしい様子にふっと笑みがこぼれた。
「レイモンド様、私はこの通り大丈夫です」
「アヤカ、怖かっただろう?こっちにおいで」
と腕を取られてそのまま抱きしめられた。
周りのご令嬢達からはキャーという黄色い声が上がったがレイモンド様の腕が緩む事はなかった。
地味に恥ずかしい… これ、子供の姿じゃなかったら悶絶してるところだよ。
いや、子供の姿でも悶絶だ。
少し涙目になりながらレイモンド様を見上げて「レイモンド様、あの~」と声をかけると「うっ」と変な声を上げてさらにきつく抱き込まれた。何故だ?
「メリンダ嬢、この度の君の所行は目に余る。国王に報告さてもらうよ。追って沙汰を待つように」と言ってレイモンド様は私を腕に抱きながら、メリンダ様に背を向けた。
それが合図となり、レイモンド様の近衛騎士の数人がメリンダ様を追い立てるように出口へと向かわせた。
売られた喧嘩を買った状態とは言え少し可哀想な気もするな…
相手は子供だもんね。きっと両親に甘やかされて育ったのに違いない。
ここが彼女のターニングポイントになると良いな。
まだまだ、矯正がきく年齢だもの。
その後、私は訓練場からレイモンド様に拉致られ何故か王宮の庭園の東屋でお茶を頂いている。
レイモンド様の侍女さんたちはお茶を入れるとそそくさと東屋の外に出てしまった。
ナリスさん、ミリアさん、リタさんも同じく東屋の外で待機している状態だ。
つまり、東屋の中には私とレイモンド様の二人きり。
しかも、広々とした東屋の中には座る場所も広々しているのにレイモンド様は私の隣にピッタリと座っている。
そして先ほどから私の長い髪を指に巻き付けて遊んでいる。
やっぱり、長い黒髪は亡くなった妹王女を思い出すのだろうか?
私が子供じゃなければ恋人同士の甘い時間なんだろうけどね。
「アヤカ、さっきの魔法はまるで女神様が舞い降りたのかと思ったよ。いつの間にあんな魔法ができるようになったんだい?」
「え? 女神様? 大袈裟ですよ。あれは自主トレーニングの成果です。図書室で魔術の本を読みあさって簡単な生活魔法は出きるようになったんです」
ちょっと得意げに胸を張ってそう言えば、
「そうなんだ。偉いなアヤカは。でもあれは簡単な生活魔法の範囲を超えてるよ」
へ?そうなの?
「魔法の波動が同時に3種類発動してたけど、それって魔導師クラスの技なんだよ」
そうなんだ~って言うか、魔法の波動って見えるの?
そんな事を考えて首を傾げていると、レイモンド様は「アヤカは可愛いね」と言って私の頭を撫でた。
「アヤカ、ほらこの焼き菓子は王宮料理人のヤコフの自慢のお菓子だよ。食べてみて」と言ってレイモンド様は自ら手にとって私の口に運ぶ。
逃げようのない空間なので私も腹を括る。
他に人がいない分ましだよね。
パクリとフィナシェを食べると濃厚なバターの香りが鼻に抜ける。甘さも絶妙だ。
「! 美味しい~」とニッコリ笑うとレイモンド様もキラキラの王子様スマイルで応えてくれる。
あ~スイーツを食べると心も幸せになるよね。
この幸せをレイモンド様にもお裾分け。
「レイモンド様、これとっても美味しいです。はい、あ~ん」
今度は私からレイモンド様の口に運んであげる。
私の手からパクリと食べるレイモンド様がとっても可愛くて思わず笑顔になる。
あ、ほら周りの侍女さんたちも微笑ましそうにみている。
近衛騎士様達は何故か赤い顔をしているが大丈夫だろうか?
騎士様といえば、結局私とミリアさんの恋活計画はこれっぽっちも進んでいない。
進むどころか後退しているような気がするのは気のせいだろうか?
今回のことで分かった事と言えば、王宮はある意味戦場だったということだ。
ライバルが多い。
勝つための必勝法を考えなければ。
こんなところでレイモンド様とまったりしていて良いのだろうか?
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