第52話 オル様の師匠

 只今、いつものようにマー君の部屋のフリースペースでみんなと夕食中です。


 唯一いつもと違うことはメンバーが1人増えていること。


 それは誰かというと昨日オル様の隣を歩いていた女の人。

 なんと、オル様の魔術の師匠だった。


 名前をアデライト・カルノー様という。

 オル様が紹介したい人がいると言うことで、夕食をご一緒する事になったのだ。


 オル様の魔術の師匠というのを私は勝手に男の人だと思っていたのでかなり驚いた。


 アデライト様はパープルがかった銀色の髪にパープルの瞳の超絶美女。


 背中を覆うサラサラの銀髪は先端が瞳と同じパープルで上に行くにしたがって色が淡くなるグラデーション、大きな瞳は少しつり上がっているがキツい印象より子猫のような可愛らしさがある。


 そしてAラインの濃紺のドレスがほっそりとしたスタイルの良さを際立たせている。


 確かルーカスさんが36歳だと言っていた気がするけど、どう見ても20代にしか見えない。


 そうだ、この世界のことを勉強しているときにオル様が言っていたっけ、魔力の量と質は寿命と美貌に関係すると。


 納得だ。

 魔術の師匠ともなると魔力量も質も申し分ないってことか。


 ちょうど私の正面の席にオル様と並んで座っている。


 並んでいる様子は美男美女でとても眼福だが、何だか胸の奥がモヤモヤする。

 オル様が優しい顔でアデライト様を見ているのもモヤモヤに拍車をかける。


 そして先程から私はアデライト様からの不躾な視線に晒されてとても居心地が悪い。


 そんな中アデライト様が私を凝視しながら口を開いた。


「アヤカの噂は獣人族のジャイナス国にも届いていたぞ」


 もうすでに私の名前は呼び捨てだ。先ほど初対面の挨拶をしたばかりですが。


 アデライト様の言葉を受けて口を開いたのはオル様だった。

「へぇ、ジャイナス国でアヤカの噂ですか? それはどんな噂ですか?」


「勇者の召喚におまけが付いてきたとな。しかもそのおまけがガキだと。オル、その肉食わないのか? 私にくれ」


 アデライト様はそう言うとオル様の返事を待たずにフォークをオル様のお皿に伸ばしお肉を口いっぱい頬張った。


 これには私の隣に座っているマー君も目を丸くして驚いていた。


 うんうん、わかるよ。マー君の驚き。

 アデライト様ってば見た目とのギャップがすごいものね。

 言葉使いは乱暴だし、それによく食べる。

 その体のどこに入るのか?


 オル様とレイ様は慣れているのかそんなアデライト様を完全にスルー状態だ。


「こうして実際に会ってみると噂はあてにならんな。アヤカはガキには見えん。あ! もしかしてガキというのは処女という意味か?」


 ガッシャン!

 アデライト様のその言葉でその場にいた男性陣がナイフとフォークをお皿の上に落とした。


 私は逆にナイフとフォークを力いっぱい握りしめた。


「アヤカのその容姿で処女のわけないか。そんな恵まれた容姿で未だ処女なら性格に問題があるってことだな」


「な! 未だ処女ですがそれがなにか?! 私は小中高と女子校でようやく共学の大学を受験しようと思った矢先にこちらの世界に来てしまったんです。自慢じゃないですが異性とお付き合いしたこともありません! デートすらしたこと無いんです! 環境に問題があっただけで性格は関係ないと思います!」


 気づくとそう叫んでいた。


 ハッとしてみんなを見る。

 オル様もマー君もレイ様もなぜか笑顔で私を見ていた。


 げっ、思わず自分のモテない過去を暴露してしまった。


「ぶっ、はははっ! そうか、そうか、アヤカは未だ処女か! 良かったなオル」


 ううう、とっても馬鹿にされている。

 処女のどこがいけないんだ。

 アデライト様がオル様に何か言っていたが私はあまりの恥ずかしさに耳に入ってこなかった。


「アヤ、このプディング美味しいよ。ソースが三種類あるからかけるソースで味が変わるぞ。ほら食べて見ろ」とマー君がソースをすすめてくれる。


「アヤカ、このチョコソースはちょっと苦味があるよ。僕のオススメはバニラソースかな」とレイ様。


 何だろう2人ともとても優しい。

 モテない私に同情してくれているのか。


「そういえば、アディ師匠、獣人族のジャイナス国にどんな用事で行ってたんですか?」とオル様がアデライト様に聞いた。


 アディ…オル様はアデライト様を愛称で呼んでるんだ。

 オル様と魔術の師匠との絆は誰よりも強いと言っていたルーカスさんの言葉を思い出す。


「あー、獣人族の国王が聖女の召喚の魔法陣を魔導師達に教えて欲しいと言ってきたからちょっくら教えてきた」


「え? 聖女の召喚ですか? ジャイナス国での召喚は未だ成功したこと無いですよね?」


「だからだよ。今まで召喚に成功出来なかったのは魔法陣が一部壊れていたからだ。あとは魔導師達の魔力量不足だな。それを補うための魔石を売りつけてきた。これだけ手を貸したんだこれで成功しなかったら奴らはアホだ」


「でもなぜジャイナス国は聖女を召喚する事に? わが国が勇者を召喚することで悪鬼王討伐の件は落ち着いたはずでは?」


「さあな。大方、国王の自己満足だろう。それか国民からの人気を集めたいがためのパフォーマンスかだ。あの国は国王よりも第一王子の方が人望があるからな」


 そう言うアデライト様にレイ様が眉をひそめて言った。


「何だかとっても嫌な予感がする」


「奇遇だな、レイ、僕も何かが起こるような気がしてならない」

 とオル様が言った。


 そんな中、私とマー君は意味がわからずポカンとし、アデライト様は高笑いをしながらワインをガバガバと飲んでいた。


 レイ様とオル様の予感が的中したことを知るのは数週間後の事だった。

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