第53話 オル様の初恋の相手?

 あれからアデライト様とは毎日夕食をご一緒している。


 最初の頃はアデライト様の見た目と性格のギャップにかなり驚いたが、長年女子校で育った私はすんなりと受け入れることができた。


 女子校という狭い世界は男子の目がないこともあり、かなり開けっぴろげな行動をする女子も多い。


 さらにそういう女子は男子がいる前では手のひらを返したようにおとなしくなる。


 そういう女子を多く見てきた私はオル様達の前でも態度を変えないアデライト様に好感を持っている。


 そして各国を旅していたアデライト様のお話はとても面白くこの王宮しか知らない私の好奇心を刺激した。


 ただ、オル様とアデライト様が並んでいるところを見ると相変わらず胸の奥がモヤモヤする。


 今日もいつものように剣術の訓練に魔導師団棟に行く途中で、オル様とアデライト様を見かけた。


 私はとっさに護衛として付き添ってくれているライナスさんとターニャさんの後ろに隠れて様子を伺った。


 この行動にライナスさんとターニャさんは怪訝な表情をしたが特に何も言わずに私の盾となってくれていた。


 ライナスさんの陰からそっと覗き込んで見ると2人は魔導師団棟から王宮の中央棟に向かっているようだった。


 オル様がアデライト様に笑顔で何かを言っている。それに対してアデライト様が何かを言い返し、とびきりの笑顔でオル様の腕をたたいた。


 2人は魔導師団の黒のローブを纏っている。

 所謂、ペアルックってやつだ。

 まあ、魔導師団の皆さんは全員もっているローブなんだけどね。

 それすらもうらやましい。


 アデライト様は魔導師団棟の住居フロアの一室に滞在中というから朝起きてからずっとオル様と一緒ということだ。


 その仲の良さげな様子に私はため息をついた。

 ダメだ。

 私にはアデライト様に勝てる要素が見つからない。


 あの誰もが魅了される美貌、オル様が幼少の頃から培った絆、広い見聞から得た知識、何もかも私には無いものだ。


 落ち込んでいる私にライナスさんが口を開いた。


「オリゲール様とアデライト様ですね。さすが師匠と弟子、仲が良いですね」

 そう言ったライナスさんの足をターニャさんは思い切り踏んだ。


「い、痛いよ。ターニャ。暴力反対!」とライナスさん。


「これは暴力ではありません。ラス、後でお話がありますから」とターニャさん。

 どうやら、ライナスさんが奥様のターニャさんを怒らせたようだ。


 いったい何に怒ったのかわからないがここは素知らぬ顔をしたほうがよさそうだ。


 ライナスさんが私に助けを求めるように視線を向けたがそっと視線をそらした。

 夫婦喧嘩は犬も食わないと言うからね。


 さあ、剣術の訓練をするためにマークスさんの元へ急ぎましょう。


 剣術の訓練は概ね順調。

 マークスさんにも誉めてもらえることが多くなった。


 一通りの訓練が終わって岩ちゃんが用意してくれたお茶を飲んでいるときにマークスさんがメアリー様のところで入手した情報を教えてくれた。


「勇者のマサキ様と愛し子のアヤカのお披露目の日が決定したみたいよ。来月、5の月の3週目の光の日ですって。毎年5の月の1週目の光の日に行われるデビュタントもずらしてこの日にやることになったそうよ。」


「デビュタント? 成人式みたいなやつですか?」


「成人式がなにかわからないけど、学園を卒業して成人した貴族の子達の社交界デビューの舞踏会のことよ。今年はアヤカ達のお披露目と合同だから例年にない盛り上がりだと思うわ。なんたって他国の王族も出席する予定ですものね」


「社交界デビューの舞踏会って、そんな大事な行事に私なんかが参加して良いんですか?」


「うんもう~ 何言ってるのよ。どっちかって言うとお披露目会の方がメインなのよ。他国の王族はマサキ様とアヤカを見に来るのよ」


「それってルイレーン国のオーウェン王子とイーサン様だけじゃなく他の国からも来るってことですか?」


「もちろんよ。勇者様のお披露目会は一緒に悪鬼王討伐をする他国の王子や騎士団の顔合わせの意味合いがあるの。それに加えて今回は名付けの愛し子というアヤカの存在でしょう。お披露目会が終わった後もこの国に滞在したいという申し出がでているって噂よ」


「なんで私の存在で滞在希望が出ているんですか?」


「そりゃあ、アヤカを口説き落として自国に連れ帰ろうと目論んでいるんでしょ。今頃、離宮を各国の王子と騎士団のために整えているはずよ」


 ひえ~! なにそれ?! 恐ろしい。

 他国の王子様には近づかないでおこう。


「そう言えば、魔術の天才と謳われているアデライト様も王宮にいるらしいわね。」


「あ、はい。オル様の魔術の師匠だそうです。マークスさんも見たことありますよ。剣術の帰りにオル様と一緒に歩いていた女性です」


「あーそう言えば前に遠目に見たわね。そんな場面。でもどんな人か覚えてないわよ。ものすごい美女なんでしょ? 噂だとまだ独身って聞いたわよ。きっとその女性がオリゲール様の初恋の相手ね。年上の女性に憧れる美少年。萌えるわ~」


 え? オル様の初恋の相手? ま、まさか、オル様は年上が好きなの?

 あれ? オル様のロリコン疑惑はどこ行った?


「こんなとき鑑定のスキルで人の気持ちがわかればいいのにね」


「いえ、わからなくて良かったです」


 気持ちが鑑定なんて出来たらもう鑑定持ちのジュール様には会えないところだったよ。


「でも今はオリゲール様も大人だから何の問題もないわよね。子供の頃からの想いを実らせちゃうのかしら。ロマンチックだわ」


 もはや私の精神的ダメージはピークを超え、息も絶え絶えだ。


 誰かマークスさんの口を塞いで下さい!

 ええい!こうなったら私が自分で塞いでしまいましょう。

 私はマークスさんの開いた口にお茶請けに用意されたマドレーヌを突っ込んでやった。


「マークスさん、このマドレーヌとっても美味しいですよ」


 口を塞がれたマークスさんは目を白黒させてむせた。


「ちょっと、なにするのよ。一瞬息が止まるかと思ったじゃない」


 ええ、止めようと思ってましたから。


「息が止まらなくて良かったですね。マークスさん」と私はにっこり笑った。


 私の精神的ダメージに比べればそんなのどってことないですよマークスさん。


 こうしてつつがなく休憩は終了したのだった。

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