第二章 騎士団編
第1話 なぜか騎士団入団宣言
「さあ、アヤカの剣術もそこそこのレベルになったから明日はいよいよ騎士団に殴り込みよ!」
ある日の剣術の訓練後に満面の笑みで放ったマークスさんの言葉に驚愕する私。
騎士団に殴り込み?
いったい何の話をしているのだろう?
驚きに目を見開いている私に痺れを切らしたマークスさんが私の両肩をガシッと鷲掴みにしガクガクと揺らす。
「ちょっと、なに驚いているのよ。アヤカの今の実力なら入団テストは確実に合格よ。念願の騎士団入りよ!」
「へ? あ、あの、マークスさん?」
話が全然見えないぞ。念願って誰の?
「あたしはね、とっても感動してるのよ。最初はアヤカが剣術を習いたいなんてどうせお嬢様の気まぐれだろうと思ってたのよ。それが毎日の厳しい特訓に弱音を吐くことなくここまで頑張るなんて」
そういうマークスさんの目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
本当に感動しているらしい。
「ここ最近のアヤカの頑張りは鬼気迫るものがあったものね。あたしは、アヤカの騎士団入りを応援するわよ。明日はちょうど年1回開催される騎士団の入団テストがあるのよ。」
鬼気迫るもの…
それはそうだろう。私は自分の嫉妬心を自覚してからやるせない気持ちを剣を振ることで発散し、夕食時は無我の境地で乗り切っているのだ。
いやいや、そんなことよりマークスさんの頭の中で展開中らしい私の騎士団入団の妄想を止めなくては、本当に入団することになってしまう。
「マークスさん、感動しているところ申し訳ないのですが、私、騎士団に入りたいなんて言いましたっけ?」
「言葉にしなくてもあたしにはちゃんとわかるのよ。大丈夫、入団テストの申し込みもあたしがしておいたわ。衣装もバッチリよ。テーマは魅せる剣術」
「魅せる剣術? どういう意味ですか?」
「アヤカの剣は流れるような動きが綺麗なのよ。魔法を駆使した剣術だからかしらね。明日はあなたの剣で皆を魅了しちゃいなさい。そう言えば、魔術の天才と謳われるアデライト様も剣を使うって聞いたわよ。一度見てみたいわね」
そうなんだ。
アデライト様も剣術をやるんだ。
そんな事を考えていたら、後ろから誰かに強い力で腕を引っ張られた。
「おい! マークス殿、くっつきすぎだ。アヤカから離れてくれ」
オル様だ。
オル様は私をマークスさんから引き離すとさらに言い募った。
「アヤカが騎士団入団なんて悪い冗談はよしてくれ。アヤカとアディ師匠は違うんだ。同じように戦えるなんて思わないでくれ」
私とアデライト様は違う?
それって、私には無理ってこと?
「アディ師匠は騎士爵の爵位もちだ。その事実だけでも別格だとわかるだろう。とにかく、今はアディ師匠の事で手一杯なんだからアヤカの騎士団入団なんて到底許可出来ないよ」
アディ師匠の事で手一杯? 私のことは面倒だということね。
だいたいそんなにアデライト様が大切ならなんでこんなところに来たんだ。
オル様の言葉にカチンときた私は言い返した。
「じゃあ、なんでここに来たんですか? そんなに私の事が面倒なら様子なんて見に来なければ良いのに」
投げやりな私の物言いにオル様が驚いたように眉を上げたとたん、訓練所の入り口でアデライト様が声を張り上げた。
「おい、オル! 私は先にお前の執務室に行ってるぞ。隣の私の部屋で昼寝をしてるからな」と言って後ろ手を振りながら部屋を後にした。
隣の私の部屋?
へぇぇ、確か『アヤカの部屋』だと言っていたと思いましたが、今はアデライト様の部屋になったんですね? あーそうですか。
思わずオル様に鋭い視線を送る。
「あ! アディ師匠! だからあの部屋は」と言いかけたオル様の言葉に重ねるように私は声を張り上げた。
「私、騎士団に入団します! だから、明日の入団テストを受けます!」
私の言葉にオル様は目を丸くし、マークスさんは満足そうに頷いた。
やってやろうじゃないの、殴り込み!
私が戦える乙女と言うことを証明してやる。
その日の夕食は皆から質問責めになったがいつものように無我の境地だ。
微笑みを絶やさず、質問されたことには丁寧に答える。
脅しても泣き落としても私の意志がかたくななのでそのうち皆もあきらめたようだ。
「では、皆様、私は明日、早いので一足早く休ませて頂きますね」と言ってにっこりと笑って部屋を後にした。
部屋に残ったマー君達は明日の入団テストの事を何やら相談しているようだが、私も抜かりなく準備するつもりだ。
私は自室に戻り入団テストの注意事項を読みながら明日の段取りを頭の中で組みたてる。
まずは、私の侍女さんチームの協力は必須だ。
この3人を押さえておくと必然的にその旦那様&彼氏も手中に出来る事を私は学習している。
もちろん3人とも二つ返事で了承、「アシストレンジャーの名にかけてアヤカ様の1位合格のため、全面協力いたします」とのありがたいお言葉をいただきました。
『アシストレンジャー』とは、瘴気浄化ポーション作成で薬師の助手をしてくれた侍女さんチーム3人とリリアン様、マリーさんの5人を冗談半分で呼んでいたらいつの間にかその呼び名が定着してしまった。
私の化粧品開発にも携わってくれているのがこの『アシストレンジャー』の皆さんだ。
本人達はこのネーミングがいたくお気に入りのようなので今更、冗談だったとは言えない雰囲気である。
ましてや、『レンジャー』が子供番組のヒーローの事だとは言えなかった私は当たり障り無く、5人一組で活躍する正義の味方と説明しておいた。
間違ってはいないはず。
さて、昼間の騎士団入団宣言の後、マークスさんにはもう一度申し込みをしてもらった。
申し込みの期限にギリギリ間に合って良かった。
名前は『アヤーネ・ヒムーロ』これ、本名だけどね。
まあこの名前で気がつくのはマー君くらいかな?
いや、きっとマー君でさえも気がつかないだろう。
明日は聖霊魔法で変身の術を使ってこの特徴ある黒髪と黒眼を隠すつもりだ。
色は何色にしようかな?
いつもと違う自分になれるなら思いっきり変身してみるか。
入団テストでは魔法の使用はOK 、でも対戦相手に攻撃魔法はNG 。
審判に攻撃魔法と判定された時点で失格。
私は攻撃魔法の適性はないので何をしても攻撃魔法と判定されることは無いだろう。
テストは3日間に渡り実施。
シードの選手が3名。
この3月に学園を卒業した騎士科の優等生だ。
この3名は3日目に出場する。
初日で100人以上いる応募者を騎士との手合わせで50人に選定するようだ。
2日目からはその50人を4ブロックに分けてトーナメント形式の試合。
まずはこの50人に残らなきゃお話にならいってことだね。
さあ、明日の入団テストは余裕で合格を目指しましょう。
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