第25話 マー君の決心と私の決心

 いつものようにマー君と一緒に夕飯を食べてます。

 でもミリアさん達は席をはずしてもらっている。


 いつもは給仕のために部屋に控えているのだが、今日はマー君が話があるらしいのでね。


 一体何の話しかな?

 この前から悩み事があるようだったからその話しかな。


「アヤ、ずっと考えていたんだけど、俺が勇者としてこの世界に召喚されたのと同じようにアヤも女神様にこの世界に呼ばれたんじゃないだろうか?」


「え? 何で? 違うと思うけど」と言って私は首を傾げた。

 だって、あの時マー君の召喚の魔法陣に向かって走り込んだのは私だもの。


 私の見解では、奇跡的な偶然が重なり合った結果だと思っている。

 怪しい男達から逃げている途中にマー君召喚の魔法陣が発動、そこに飛び込む形となった私。


 たまたま召喚の条件が合致、そしてたまたま私がこの世界の女神様に似ていた事から女神様が助けてくれ、加護を授けてくれた。


 そして、たまたまその状況を観察していた、いたずら好きの聖霊様が加護と共に私の身体を子供にした。


 本当に勇者召喚のおまけでこの世界に来たようなものだ。


「いや、俺はアヤと一緒に神殿で女神様の壁画を見たときに確信したんだ」


 なにを?


「アヤはこの世界になくてはならない存在だと。この世界に来たとき思わず、俺の従妹にしてしまったがそんな必要は無かったんじゃないかと思うんだ」


「私は右も左もわからない異世界にきてマー君の従妹ってことでとても助かったよ」


「うん。それはわかってる。ただ、あの時本当のことを言って、『氷室絢音』として紹介していればアヤに偽名を名乗らせることもなかったと思うんだ。今後、勇者の従妹という立場がどんな影響をもたらすかわからない」


「影響?」


「そうだ、アヤに見合いの話がきてるようだが俺の従妹という事で俺は保護者の立場だ。俺はもっと違う立場でアヤを守りたいと思っている。だから国王と宰相のサムネル様に本当の事を言おう思うんだ。もちろん、アヤは何も悪くない、俺の一存でやったことだと誠心誠意謝るつもりだ」


 見合い? そう言えばルーカスさんが前にそんな事を言っていたような。

 でも私は恋愛結婚を目指しているのだ。お見合いはノーサンキュウなのだ。


 マー君は周りの人に嘘をついている罪悪感があるのだろう。

 それは私も同じだ。


 これを期に私も本当は子供ではないことを告白したほうが良いだろうか?

 後になってバレるより今みんなに告白したほうがキズは浅いに違いない。

 そう決心すると私はマー君に言った。


「うん、わかった。でもその告白の場に私も同席させてね。私も話したい事があるから」


「アヤが話したいこと? 何?」


「それは今は内緒。告白の場で話すね」


 これは私の一存で隠したことだからマー君を巻き込む訳には行かないものね。


「そうか、わかった。それで、国王とサムネル様の都合が明日の午前中なら空いているそうなんだ。明日、朝食を食べたら宰相の執務室に行こう」


「うん。わかった」

 その夜は明日の告白の場でみんながどんな反応をするのか想像すると怖くてなかなか眠れなかった。




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 次の日の朝、私とマー君は国王と宰相のサムネル様に会うべく、宰相の執務室に向かった。


 今日はメアリー様の授業もオリゲール先生の訓練もお休み。


 護衛と侍女さんの付き添いは遠慮してもらった。


 執務室にはすでに国王も来ていて対面の三人掛けのソファに促されたのでマー君と二人で席につく。


 どこからともなく現れた従者がささっとお茶の用意をしてくれた。


「陛下、サムネル様、お忙しいところお時間を作って頂きありがとうございます」とマー君が頭を下げたので私も隣でぺこりと頭を下げた。


「いや、マサキからの申し出だ。無下にはできまい。して、マサキの話とはなんだ?」


 そう国王様に言われたマー君はチラリと端に控えていた従者に目を向けると口を開いた。


「厚かましいかと思いますが、人払いをお願いします」


 サムネル様が人払いをしたあと、部屋に防音魔法を施してくれ内緒話の舞台が整った。


 マー君は召喚された時に気絶している私の安全を考えてとっさに従妹と嘘を付いたこと、その後目覚めた私に自分の従妹の名前を名乗って欲しいと頼んだことを話し、国王とサムネル様に今まで騙していて申し訳ないと謝った。


「マサキ、話はわかった。アヤカの事を思っての行動だろう? 異なる世界で幼子を守るための嘘だ不問に付す」


 そう国王様が言うと、続いてサムネル様も口を開いた。


「そうですね。きっと私がマサキの立場でもそうすると思います。して、アヤカ嬢の本当の名前は何と言うのですか?」


「氷室絢音と言います」


 この世界で本当の名前を名乗ったのはマー君に出会ったとき以来だ。


「アヤネか、アヤカと似ているな」


「はい、だから違和感なく過ごせました。目覚めたら異世界で戸惑っていたところ雅樹兄様の従妹として皆さんに可愛がってもらい本当に感謝しています」


「いや、アヤカはマサキの従妹だから可愛がられているわけではないぞ。それにしてもマサキはどうしてこのタイミングでこの話を我々にしたんだい?」


「アヤへのお見合いの話がきているそうですね?」


「うっ、知っているのか。でもその話はオリゲールのところで握り潰しているみたいだ」


 お見合いの話はオリゲール先生が握り潰してくれているらしい。

 とりあえず、勇者の従妹という偽称の件は一件落着だ。

 あとは私の年齢偽証の件を話す番だ。

 緊張のため心臓がバクバクいっているよ~

 自分の心臓の音でマー君達の会話も頭に入ってこない状況だ。


「俺は保護者ではない違う立場でアヤの事を守ろうと思います」


「マサキ殿も参戦ということですね。アヤカ嬢、これは大変ですね」

 とサムネル様が私の方を見たのでハッとする。


 やばい、まったく話しを聞いていなかった。

 えっと、こういう時は笑ってごまかそう。あははは・・・


「あ、あの、私も皆さんに大事なお話があります!」


 あまりの緊張に声がうわずってしまう。

 目覚めたら異世界で驚いたこと、なぜか子供の姿になっていたこと。

 マー君が自分の従妹と私を紹介したことを良いことに本当の年齢を偽っていたことを話した。

 もちろん、このことはマー君にも話していないことも。


 話している途中で思ったんだけど、純粋に私の事を思って嘘をついたマー君と比べてこれ幸いとそれを利用していた私ってば、スッゴイ悪女じゃないだろうか?


「嘘をついていてすいませんでした」と頭を下げた。

 話し終わった後、しばらく沈黙が続いた。

 いたたまれない…


 最初に口を開いたのは国王様だった。

「子供じゃないのか?!」国王様が叫ぶように言うのと同時に

「アヤカ嬢、本当の年齢は?」とサムネル様。

「アヤ、何歳なの?!」とマー君。


「すいません!本当は18歳です!」と私も叫んだ。


「「「18歳?!」」」と3人同時に絶叫。

 防音魔法が役に立ったね。



「アヤカ、じゃあ、あの誕生日も嘘だったのか?」と国王様。


「いえ、誕生日は本当です。あの日は私の18歳の誕生日でした」

 と私が言うと、なぜか嬉しそうにマー君が

「そうか、アヤは本当は18歳なのか。俺と同い年だ」と私の頬を撫でながら言った。


「はい、そこ離れて下さい。適切な距離を保つように」とサムネル様が言うと、

「あー、マサキでこれだ、アヤカが18歳だと知ったら暴走しそうなやつが約一名いるな」

 と国王様の言葉が終わらないうちに、執務室のドアが開いた。

 そこに立っていたのはオリゲール先生だった。


「な、お前、いきなりドアを開けるなんていくら身内でも無礼だぞ」

 と、国王様が言うと、オリゲール先生が興奮気味に言い返してきた。


「何度もノックはしましたよ。火急の用件でしたのでドアを開けさせてもらいました。そんな事より、今の話は本当ですか?」」


 オリゲール先生は国王様の反応を物ともせず、三人掛けのソファに座っているわたしの隣に陣取り、私の手を握りしめて言った。


「アヤカは本当は18歳なのか?」


 もうこうなったら、本当の事を言うしかないよね。


「オリゲール先生、嘘をついていてすいませんでした。この世界で目覚めたら、なぜか子供になっていたんです。私は本当は18歳なんです」


「そうか、18歳なのか。僕の3歳下だ」と嬉しそうに微笑んだ。

 あれ?マー君もオリゲール先生も騙していた事を怒っていないようだ。

 その事にホッとした。


「オリゲールさん、ついでに言わせてもらうと、俺とアヤは従兄妹同士ではないですから。召喚されたときそれがアヤのために一番いい方法だと思ってとっさに従妹だと言ってしまったんです」と、オリゲール先生の反対側に座っているマー君が言った。


 言い方が挑発的なのは気のせいだろうか。


「へ~そうなんだ。じゃあ、誰にも遠慮はいらないって事だな」


 なぜか不穏な空気が流れるなかサムネル様の冷静な声が響いた。


「オリゲール殿、火急の用件とは何でしょうか?」


「そうだ、オリゲール火急の用件の方が重要だろう」


 そりゃそうだ。


 火急の用件とはルイレーン国の王子と神官長の一行が5日後にこちらに到着するという知らせが入った事だった。

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