第50話 体力作りの秘密兵器
マークスさんの剣術の訓練も順調に進み、私も訓練についていける基礎体力を身につけた。
私の体力作りに役立ったのは縄跳びだ。
本当は毎日走り込みをやりたいところだったけど、私がそこらを走るのは何かと騒動が起こりそうだということで却下となり、悩んだすえに縄跳びを思いついたのだ。
適当な太さの縄を用意してもらい、持ち手には細い竹に似た中が空洞になっている木を利用した。
縄跳びなら部屋でこっそり出来るし、スペースも畳一畳分で事足りる。
せっせと縄跳びで体力作りをしていたら、それに興味をもったのが私の護衛の4人だった。
なぜかそこから騎士団の皆さんに拡散し、今、王宮は縄跳びブームだ。
マー君はさすがに元の世界で馴染みがあるので色々な飛び方を披露して皆さんの尊敬を集めているらしい。
さすがマー君だ。二重跳びも楽々やってのけた。
発案者の私は出来ないがね。
美容と健康にも良いとポロッと口に出したところ侍女さんチームの3人までやり始め、それが他の侍女さんや女官さんにまで広がってしまった。
楽しんでやっている間に自然と痩せてスタイルが良くなったと評判になり、貴族のご婦人方にも広がりつつあるようだ。
どこの世界も女性は美への追求がすごいね。
そして、王宮の調合室で瘴気浄化ポーションの瓶詰め作業をしていた子供達がお昼の休憩中に暇そうにしていたので、長い縄跳びを作って遊び方を伝授した。
体育祭で良くやったなあ。クラス対抗でどのクラスが長く跳べるか。
放課後にみんなで残って特訓したりして。
夕食の時にマー君ともこの話題でひとしきり盛り上がった。
これも子供達の間で大ヒット。
学園でも流行らせると学生達は言っていた。
そして、縄跳びの持ち手に使用している竹に似ている細い木はシナの木と言って貧困村の土地でも育つ木と言うことでこれまた貧困村救済に役に立ったようだ。
今頃、貧困村救済担当のアランフィード王子が忙しくしていることだろう。
さて、私は本日も魔導師団の訓練所でマークスさんの訓練を受けてます。
訓練所まで護衛をしてくれたディランさんは片隅で縄跳びで二重跳びを習得すべく練習をしている。
私は創造魔法で体に敏捷の術をかけマークスさんと剣の撃ち合い。
これはずるじゃないよ。
だって素で勝負したらマークスさんの速さについて行けないからね。
使える物は使わなきゃ。
「アヤカ、脇が甘い! 隙だらけよ!」
マークスさんが私の剣を払いのけて脇に打ち込む。
「はい!」
それをわき腹に打ち込まれる前に足で地面を蹴ってすんでのところで避ける。
うー、一方的に打ち込まれるだけで反撃が出来ないのが悔しい。
マークスさんから振り下ろされる剣を防ぐのに精一杯だ。
剣も重くて腕が疲れてきた。
そうだ、自分の体を強化する事に重点をおいていたけど、剣の重さも軽くしてみてはどうだろ?
私は自分の手にしている剣を見つめ心の中で『重力無効』と唱えてみた。
すると、剣の重さが軽くなるどころか私の体ごと軽くなり二メートルほど浮いてしまった。
しかも無重力状態なのでバランスが取れず、空中に横たわりプカプカ浮いている状態だ。
「あら、すごい。アヤカ、あなた空を飛べるの?」とマークスさん。
「マークスさん、良く見て下さい。飛んでるんじゃなくて浮いているんです。た、助けてください」
こ、こわいんですよ。二メートルの高さで浮いてるのは。
それを見ていた、ディランさんがすぐに駆けつけてきて私めがけて縄跳びを投げた。
縄が私のウエストを通り両方の持ち手が両脇にぷらりとさがっている状態だ。
「アヤカ様、縄を握っていてください。ゆっくり下に引き寄せますから」
そうディランさんが言い私の両脇にさがっている縄跳びの持ち手を両手で持ちゆっくりと私を下におろした。
ディランさんに抱き留められたところで『重力無効解除』と唱えた。
ふう、戻って一安心だ。
やっぱりずるはいけない。
「縄跳びはこんなことにも役に立つんですね」とディランさんが言った。
これはボケなのか? ツッコミが必要だろうか?
ディランさんの顔をのぞき込むと真面目に言っているようだ。
縄跳びにどこまで可能性を求めているのだろうか。
「で? なんでアヤカは浮いていたわけ?」とマークスさんに問いつめられた。
「あ、あのですね。剣がもうちょっと軽かったら良いなと思いまして」
「そう。剣の重さを軽くしようとしたわけね。アヤカのために特注した剣のね」
「い、いや、あの、ちょっと腕が疲れてきたので。だから剣に向かって『重力無効』と唱えたんです。そうしたら自分の体ごと重力が無くなっちゃったみたいです」
「重力?それってなにかしら?」と首を傾げるマークスさん。
あ、そこから説明ですか。
私は元の世界での重力に関するうろ覚えの知識を説明した。
「その発想面白いわね。創造魔法の適性がある人は多いからそれ使えるわよ。特に風属性の人は組合せれば自由に空を飛べるんじゃない? アヤカ、これは世紀の大発見よ!」
そ、そうなんだ。
それよりもずるしたことを責められなくてホッとした。
剣術の訓練が終わり、魔導師団棟から自室に帰る道で遠目にオル様を見かけた。
思わず声をかけようと口を開きかけたが、オル様の横をとても綺麗な女性が歩いているのが見えて口を閉じた。
誰だろう?
見たところオル様と同じ魔導師団の人だろうか?上品なパープルのローブ姿だ。
オル様はその女性に向けてにっこりと笑いかけていた。
あっ。
それを見たとたん、胸に鋭い痛みが走った。
いつも私に向けてくれるあの優しい笑顔が他の誰かに向けられているなんて衝撃だった。
でも、同僚に笑顔を向けるくらい普通だよね。こんなこといちいち気にしてたら身がもたないよ。
そう自分に言い聞かせる。
「あら、あれオリゲール様じゃない? 一緒にいるのは誰かしら?」とマークスさん。
マークスさんの一言でさらに胸の痛みが増した気がする。
「あ、本当ですね。オリゲール様ですね。アヤカ様、声をかけなくて良いんですか?」とディランさん。
えっ、声をかけろと? ディランさん、それはどんな罰ゲームですか。
胸が痛すぎて声なんてかけられません。むしろ早くこの場を立ち去りたいくらいです。
私は首を横に振り、無言で歩く速度を上げた。
もうどうやって自室に戻ったのかわからなかったが、とりあえずミリアさんとターニャさんの顔を見たらホッとした。
そしてその日の夕食にはオル様は先約があると言うことで、姿を見せなかった。
夕食の時にマー君とレイ様が今日の訓練の話を聞いてきたので、私の重力無効の失敗談を面白おかしく話して聞かせた。
そうすることで先程見たオル様と女性の姿を振り払おうとしたが、かえって鮮明に思い出してしまうばかりだった。
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