第8話 勇者様と少女 オリゲール視点

 魔導師団長として勇者召還の儀式を取り仕切った際にトラブルがあった。

 召喚されたのは2人。


 1人は勇者様だがもう1人は小さな女の子。

 見たこともない形の服だが一目見ただけでとても手の込んだ作りをしているのがわかる。


 気を失っているらしく勇者様の腕の中で微動だにしない。

 多分女神様のギフトが大きすぎて小さな身体では受け取れ切れなかったのだろう。


 部下達が思い思いの言葉を発しているのを諫めながら勇者様に近づいて声を掛けた。



「皆さんお静かに。勇者様が驚かれているではないですか」


 何が起こっているのかわからない顔をしているな。


「勇者様、この度は突然の召喚、さぞ驚かれたことと思います」


 ボーゼンとしている勇者様を置き去りに一気に説明を始めた。


「私は魔導師団長をしております、オリゲール・キリア・モリフィスと申します。あなた様はこの世界を救うべく、勇者として召喚させていただきました。勇者様に置かれましては理不尽な事かもしれませんが、私たちは誠心誠意仕えさせて頂きますので、どうか私たちにお力をおかしください」

 と言って片膝をつき頭を下げた。


 それに習って部下達も一斉に同じ体制になった。


 歴代の勇者様と同じように黒髪、黒目の凛々しい若者だ。


「勇者様、まずお名前と年齢を教えていただけますか?あなた様の腕に大事そうに抱えられている女の子についてもお聞かせください」


 あの女の子の瞳も黒いのだろうか?もしそうなら聖女様の可能性もあるな。

 子供の聖女様など長い歴史をみても無い事だが、全く否定する事はできない。


 勇者様は18歳で名前はトクエ マサキ。

 女の子は彼の従妹でトクエ アヤカ 7歳とのことだった。

 おそらく、召喚の魔法陣が発動した時に一緒にいて巻き込まれたのだろう。

 気を失ってぐったりしている少女を休ませるべく、部屋へ案内した。


 それから宰相と勇者を引き合わせ、途中国王が乱入して来るなどハプニングもあったが概ねお互い好意的な対面だったと言えるだろう。


 マサキが部屋に向かったあと、そのまま宰相の執務室に残り今後のことを話し合った。


「女の子は7歳だと? 何故そんな事になったんだ?術式を間違えたのか?」


 勇者召喚の報告をしたあと、国王からそう返された。

 もっともな反応だ。


「いえ、伯父上、術式は間違えてません。魔力量も充分でしたし、我々もどうしてこのような状況になったのかわかりません」


 僕は王弟の息子なので国王は僕の伯父にあたる。


「では、その女の子は聖女様の可能性はあるのか?」


「可能性はありますが、歴史上子供の聖女様は今まで召喚されたことはありません。そもそも聖女様召喚の場合は魔法陣の術式が違います」


「陛下、オリゲール殿、いずれにしてもマサキ殿の従妹様だ、不自由ないように我々がフォローしなければなりませんね」


「そうだな、7歳の子供が知らない世界に突然飛ばされてさぞ心細いだろう。その子の親も今頃探しているに違いない。マサキという血縁者が一緒なのが幸いだな」


 愛妻家で子煩悩な国王ならではの言葉に我々は深く頷いた。


「そういえば、その女の子は黒髪だそうだな」


「はい。瞳の色は確認出来ませんでしたが黒髪なのは間違いないです。召喚の際のギフトが大きすぎて受け取りきれない事により眠った状態です」


「そうか、その子が目覚め次第会わせてくれ」


「わかりました。そのように手配致します」


「では、僕はその子が目覚めたらこの世界のことを教える役目をしましょう」

 と僕が言えば、国王は疑うような目を向けた。


「オリゲール、お前の心眼は大丈夫なのか?」


 そう、僕には心眼という能力がある。それは人の魔力の質や魂のオーラを感じることができるのだ。


 その能力の結果、自分と合わない魔力の人や邪な魂の人の近くにいると気分が悪くなってしまう。


 子供の頃は原因不明の病気かと騒がれたが、魔術の師匠のおかげで原因がわかった。


 今では、心眼の能力を自分でコントロール出きるようになったが、それでも魔力の相性はその人に触れたりすると過剰に反応してしまう事がある。


 特に女性に対しては本当に相性の合う相手じゃない限り触れる事ができない。

 そのため、社交界シーズンの夜会では魔力遮断の手袋がないとダンスの相手もままならない。


 今まで何度となく夜会やお茶会でご令嬢に引き合わせられたが誰も相性が合わなかった。


 まあそんな事で21歳の今でも婚約者もいないのだ。

 魔力の相性の合わない者を避けているといつの間にか「氷の貴公子」と呼ばれるようになった。


マサキの従妹の女の子はまだ魔力が安定していなかったのでどんな感じかわからないが、子供だし、召喚してしまった責任もある。


「大丈夫です。相手は子供ですし、召喚してしまった責任もありますから。僕にも面倒を見させて下さい」


「そうか、わかった。ではよろしく頼むぞ。私は公務に戻るとする」

 伯父上はそう言って執務室を出て行った。


「サムネル様、女の子が目覚めたら一番に教えて下さい」

 と言って僕も部屋を後にした。



 それから二日後、女の子が目覚めたと連絡が入った。


 マサキに付けていた護衛兼従者のダグラスが興奮した様子で魔導師団のある王宮の西棟に駆け込んできた。


 そして僕を見るなり、開口一番こう言った。

「オリゲール様、女の子が目覚めました。あの子は聖女様ではありません!」


「それはどうしてだい?瞳の色が黒ではないのか?」


「い、いえ、瞳も髪も黒です。でもあのお姿は聖女様ではなく、女神様です!」


 その言葉にその場にいた魔導師達が目を見開いて驚いた。


「女神様?」


「はい!神殿の礼拝堂に描かれている女神様のお姿にソックリです。まだお子様ですがあと、何年か後にはあのお姿になるはずです」


 女神様か…これは、会うのが楽しみだ。






 

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