第27話 悪魔はただのヘタレでした
ライモン様とのダンスのレッスンも順調に進んでいる。
初日に悪魔の片鱗を見せたライモン様は私の前で天使の顔を取り繕うのを止めたようだ。
あの悪夢のファーストキス号泣事件は私の中でノーカンとさせてもらいました。
ファーストキス号泣事件改めて、ダンスすっころび事件として記憶を書き換えます。
相変わらず、ダンスのレッスンで足を踏むと舌打ちされ、わざと踏むと仕返しされたりと悪魔の顔がちらほらと見え隠れするライモン様。
あくまでも私の前限定なので、いまだ悪魔の素顔を知らない侍女さん達の熱い視線を独り占めしている。
まあ、私としても素で接してくれる方が気が楽だしね。
そんなこんなで、3日目にはお互い、『アヤカ』、『ライ』と呼ぶまでに仲良くなっていた。
メアリー様のダンスのレッスンの後に2人でお茶会をすると、ライは自分の家庭事情を話してくれた。
ライは5歳の時にリースマン伯爵家の養子になったらしい。
もともとライはダスティン伯爵家の嫡子だ。
3歳の時に実母が亡くなり、その少しあとに実父が後妻を迎えた。
3歳の幼子には母親が必要ではないかと考えたようだ。
後妻には1歳年上の連れ子がいてライが4歳の時に実父が亡くなるとライに辛く当たるようになったらしい。
それを知った実父の親友のリースマン伯爵が養子として迎えてくれたといういきさつがあった。
もともと実父の存命中にライを次代の領主として国に申請していたこともあり、継母と連れ子は手切れ金を持たせてその時に追い出したそうだ。
今はリースマン伯爵が代理で領地を収めているらしい。
つまり、ライは優良物件だ。
周りのご令嬢達がほっとかないってことだね。
「最初はリースマン伯爵家でも身構えていたんだ。ここでは僕は他人だ。家族の中で血のつながりの無い者がどういう扱いを受けるかを身をもって知っていたからね」
ライは継母とその連れ子にそうとうな虐待を受けていたようだ。
「でも、違ったんだ。リースマン伯爵家の方々は僕を本当の家族として迎えてくれた。だから僕もこの家族が幸せになるために守りたいと思ってる」
「そうなんだ。じゃあ、今のライは最強だね」
「え? 僕が最強?」
「そう、最強。人が虐げられる辛さと、暖かい愛情を知ってるから。大丈夫、みんなを守れる強さがあるよ」
そう私が言うと、目を見開いて驚いた顔をした。
「アヤカは不思議な人だね。僕の生い立ちを話すとほとんどの人は同情するか頑張れと言うかだ。最強なんて言われたのは初めてだよ」と言って笑った。
笑った顔はマジ天使だよ。
そういえば、ライの話には義姉の2歳年上のナターシャ様がよく出てくる。
私はこのナターシャ様がライの想い人だとにらんでいる。
乙女の勘だ。
私は常々疑問に思っていた事を聞いてみた。
「ねえ、ライ、私とのダンスのレッスンの初日になんであんなに簡単に結婚するなんて言ったの?」
「それは…結婚なんて誰としても同じだろ?」
え~なにそれ?!
「同じじゃないよ! そこに愛が無くちゃダメなの!」
「愛なんて無くても結婚は出来るよ」
「そうじゃなくて、だいたいライはナターシャ様が好きなんでしょう? なんで他の人と結婚なんてできるのさ」と、私が言うとライは飲んでいたお茶を喉に詰まらせた。
「むぐっ、な、なに言ってるんだ!誰がそんな事言ったんだ!」
「そんなの言わなくたって丸わかりだよ」
「そ、そうか…」と言ってうなだれた。
ライの話によると、自分は弟としてしか見られていない。
ナターシャ様と結婚出来ないなら、誰と結婚しても同じだと。
まったく、そんな理由でライと結婚することになる相手がひたすら可哀相だ。
「あのね、人は成長するものなの。今は弟でも、ライはこれから、10歳になり、15歳になり、18歳になりと、男として成長するんだよ。その時に振り向いてもらえるように自分を磨きなさいよ。ナターシャ様をどんな困難からも守れるように心も体も鍛えなさい!」
そう言うと、ライはハッとしたように顔を上げた。
「そうだな、本当にそうだ! アヤカはすごいな、僕、これからナターシャ姉さんを守れるように心も体も鍛えるよ」
よしよし、頑張れ少年よ!
お姉さんは応援するよ。
「それにしても、アヤカって僕より年下だよね?」
あははは…
そこら辺はスルーでお願いします。
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