第39話 愛し子誘拐事件 王宮side ②

「ハビー殿下、ベロニカ王女とビビアナ嬢の容態はどう?」


 王宮医師団の診療室に足を踏み入れながらレイモンド王子が声をかける。


「ああ、レイモンド。まだ目覚めないよ。でも単なる眠り薬の様だからじきに目が覚めるだろうってジュール医師に言われたよ」


 並んで診療室のベットに横たわるベロニカとビビアナに交互に視線を移しながら答えるハビエル。


「そうか、まだ目覚めないか。悪いけど、二人が目覚めたら教えてくれないか? 少し聞きたい事がある」


 そう言うレイモンドにハビエルは眉をひそめた。


「やはり、アヤカの事件にこの二人が関わっていると?」


 ハビエルのその問いかけにレイモンドは冷たい視線を向ける。


「まあね。だいたいアヤカの休憩室の前で二人して倒れるなんて偶然じゃあり得ないだろう? 倒れた二人を部屋の前で警護していたビンセントとナリスがそれぞれ診療室に運んでいるときに、部屋の中でリタが殴られて気を失ってるなんてアヤカを誘拐するためにそう仕組んだとしか思えないだろ?」


 レイモンドのもっともな言い分に返す言葉がないハビエルは唇を噛んだ。


「しかも、わが国が警護につけた女性騎士の2人を理不尽な理由で追い払ったと聞けばその疑いも濃くなるのは必然だ。悪いが疑いが晴れるまで君達は監視対象とさせてもらうよ。これは国王命令だ」


 レイモンドの言葉を立証するようにこの部屋にはベロニカ王女とビビアナ嬢に付いていた女性騎士、シモンヌとカミラが控えていた。


 名付けの愛し子の誘拐に同盟国の王女と公爵令嬢が加担しているとなると国際問題だ。


 ましてやベロニカはハビエルの妹だ。

 それに加えてビビアナのアヤカに対する態度は友好的とは言い難かった。


 自分としてもアヤカを探しに行きたいところだが、それは国王が許さないだろう。

 今、この国で魔族の自分達の立場は微妙だ。


 もうすぐ夜が開ける頃だ。

 それを考えるとあと数時間で2人は目覚めるはずだ。


 国賓としてこの国に赴いている立場上、ベロニカとビビアナの取り調べは国王陛下との謁見という形で行われるだろう。


 ハビエルは心の中でアヤカの無事を祈るしか出来ない自分に苛立った。






 *************





「マサキ! 待て! この場所で馬から降りろ。犯人に気づかれて逃げられたら元も子もない。それに状況がわからない今、安易に動くのは得策とは言えない。まずはアヤカ様の安全の確認が先だ」


 王宮騎士団、第一部隊の副隊長であるジークハルトは、がむしゃらに突っ込んで行こうとするマサキの行動に待ったをかけた。


 名付けの愛し子であるアヤカが何者かに連れ去られるという事態に第一部隊は捜索部隊を結成し夜の街を駆け抜けて来たのだ。


 第一部隊、ジークハルト副隊長が率いる捜索に長けた精鋭部隊7名。

 その中にアヤカの従兄であり、勇者として召喚されたマサキの姿もあった。


 ここは王都の外れにある空き家。


 この空き家から不審な煙が上がっているとの情報を受け、もしやここがアヤカの監禁場所ではないかと思いこの場に駆けつけたのだ。


「まずは、中の様子を探ろう」

 ジークハルトのその言葉にマサキはいち早く反応する。


「では、俺が探りに行きます」

 そう声を上げたマサキにジークハルトは目を向けると首を横に振った。


「いや、ここは気配消しの得意な者を行かせる。マサキはこの場で待機だ」

 ジークハルトはそう言うと部下2名に空き家に向かわせた。




「ジーク副隊長、裏手に確かに火を使った形跡があるのと部屋の中も何者かが侵入した形跡がありますが今は誰もいないようです」


 部下のその報告にジークハルトの隣に立つマサキは肩を落とした。


「そうか、わかった。我々はこの近辺を捜索するとしよう」

 ジークハルトはそう言うと馬を部下に預け、マサキを伴って歩き出した。


「これで三軒目です。誘拐犯は空き家を転々としているってことでしょうか?」


 マサキの問いかけにジークハルトは口を開いた。


「うむ……。一軒目は、王都の商業区画の使っていない店舗。二軒目は、王都の外れにある農産物の備蓄庫。そして三軒目が、さらに外れにある空き家……いずれも何者かがいた形跡があるってことが共通点だ」


「そうですね。最初の情報はアヤカが連れ去られたと騒ぎになってから、俺達捜索隊が結成された直後に入ったんですよね? すぐに駆けつけたのにもぬけの殻だった……」


「そうだな。二軒目と三軒目も今と似たような状況だ。場所もだんだんと王都から離れている」


 ジークハルトがそう呟いたとたん、ハッと何かに気がついたように二人の視線がぶつかり合う。


「しまった! マサキ、我々は王都から離れるように誘導されていたんだ!」


 ジークハルトのその言葉にマサキも強く頷いた。


「もうすぐ夜が開ける。王宮周辺の捜索隊が何かつかんでるかもしれない。一旦撤収だ!」


 ジークハルトのその声に、精鋭部隊7名は王宮に向けて駆け出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る