第37話 いざ、王宮へ!
メリンダ様の手を引きながらゆっくりと歩きだす。
賑やかな露店を見ながら楽しそうに笑顔になるメリンダ様に癒される。
ああ、お金を持ってたらメリンダ様に何か買ってあげられるんだけどね。
そう言えば、騎士団のお給料日っていつだろう?
初給料が入ったら何買おうかな?
あ! あのお店のクッキー美味しそう! あの瓶に入ってるの飴かな?
あれも美味しそうだな。
そう言えば、お腹がすいたな。
朝から何も食べてないんだ。
そんな事を考えながら歩いていると不意にメリンダ様が私の服を引っ張った。
ん? 何かな?
「アヤーネ、お口からよだれが……あのね、淑女は鼻水とよだれは垂らしてはいけないのよ? 誰かに見られたらお嫁に行けなくなっちゃうわよ。メリンダ、アヤーネがお嫁に行けるか心配だわ」
うっ!
メリンダ様に心配されるとは!
素早くハンカチで口元を拭きながら言った。
「メリンダ様、こ、これは、よだれじゃなくて、汗です、汗!」
メリンダ様の嫁に行けない発言に大人気なくムキになって言い返すと、可哀相な子を見る目を向けられた。
きっと、オル様ならわたしのよだれも鼻水も可愛いと言ってくれるはず。
うん、きっと、言ってくれる……はず?
あれ? なんか自信ない。
そもそもあの太陽神のごとく麗しいオル様に鼻水をさらした時点で軽く死ねる。
わお! 嫁に行けないどころか生きていけないではないか!
突然、オタオタし出した私を見かねてメリンダ様が口を開いた。
「大丈夫よ、アヤーネ安心して。結婚だけが幸せじゃないらしいわ。そうお母様が言っていたもの」
全然安心できんわ!
敵から逃亡している緊張感がだいぶ和らいだ頃、噴水が中央に設置された広場と思われる場所に人だかりが出来ているのに気がついた。
「ねえアヤーネ、あれは何? みんな何を見ているの?」
「何でしょうね? 行ってみましょうか」
近づくと、どうやら何かの広告みたいな紙を3人の若者が配っているようだった。
あ、あれ新聞?
そう思った途端、新聞を配っている若者が声を張り上げた。
「名付けの愛し子様が誘拐された! 王宮から楽器のケースに入れられて連れ出されたようだ! しかし、その音楽団が盗賊に襲われ皆殺し! 今、王宮騎士団が血眼になって愛し子様を捜索中! 情報提供を求む!」
まさかの自分の号外?!
そうか、私ってあのお披露目会の楽団に紛れて王宮から運び出されたんだ。
でも途中で音楽団が盗賊に襲われた? 違う! 盗賊じゃない、ランディル公爵だよ!
でもこの場でそれを言うわけにはいかない。
ランディル公爵令嬢であるメリンダ様には聞かせたくない。
彼女も被害者だもの。
セシリアさん達はもう王宮騎士団にたどり着いだろうか?
私達もこうしちゃいられない。
王宮に急がなきゃ!
そう思っていると、どこからか馬の嘶きが耳に届いた。
ネージュだ!
とっさにメリンダ様を抱き上げ、声の方向に走る。
メリンダ様は一瞬目を見開いたがすぐにギュッと私の首に手を回してくれた。
「ネージュ! 来てくれたのね! ありがとう」
ネージュの鼻筋を撫でるとネージュがニヤリと笑った。
素早くメリンダ様を抱きかかえるように乗る。
「ネージュ、私、道が分からないの。来た道を戻ってちょうだい。行き先は王宮よ」
わたしの言葉にぶるんと頷くとネージュが走り出した。
さぁ、帰りますか。
ネージュが選んだ道は王都の街に平行して広がる林と草原が広がる道だった。
どうやら走る馬車や馬はこの道を通る事になっているみたいだ。
確かに街中をスピード出して馬車や馬が通ると危ないものね。
軽快にネージュを走らせながら前に抱きかかえているメリンダ様を見るとうつらうつらとしていた。
横抱きにして私の首に掴まらせていたが眠そうで手に力が入ってない状態だ。
「メリンダ様、寝ても大丈夫ですよ。落とさないように私の体に空気の紐で固定しますから。手も楽にして下さい」
少しスピードを落としてあげよう。
さすがに疲れただろうからね。
そんな時、後ろから火の玉が私の横を掠めた。
な! 攻撃魔法だ。
とっさにスピードを上げながら後ろを振り向くと二頭立ての馬車の屋根に仁王立ちしている男がいた。
遠目だからハッキリとは分からないが、こちらを攻撃してくるってことはランディル公爵達だろう。
そして馬車の屋根に立っている男は仲間の魔族か。
すばやく防御結界を展開。
ネージュの体に俊敏の術と重力軽減、風の抵抗を抑えるべく全体に空気のベールをかける。
何としても逃げ切らなきゃ!
各段にスピードが上がったネージュの走りに次第にランディル公爵達と距離が開く。
だいぶ距離を離したところでランディル公爵達の気配をサーチすると、どうやらあきらめたようだ。
もう安心かな?
あ! 王宮が見えてきた!
遠目にも物々しい警備が敷かれているのがわかる。
あ、そうだ、アヤーネからアヤカに戻らなきゃ。
少しスピードを落としてアヤカに変身する。
空気のベールがちょうど良い目隠しになって良かった。
門の前で剣を構えた騎士達がこちらに向かって走りながらギャーギャー騒いでいる。
はいはい、今スピードを落としますよ。
空気のベールを完全に取り除き、ネージュの俊敏の術と重力軽減も解除。
「ネージュ、お疲れ様。助かったのはあなたのおかげよ。ありがとう」
私の言葉にネージュまるで返事をするよう「ヒヒン」と鳴いた。
それにしても……つ、疲れた……。
開け放った門から中に入ると、騎士達が口々に声をあげる。
「「「アヤカ様! よくぞご無事で!」」」
「「「愛し子様! お怪我はありませんか?!」」」
あははは、本当にすみません……。
「皆様、ご心配をおかけしました」
そう言いながらネージュから降りると、騎士達の中にリベルトとシャーリーの姿を発見した。
1日しか離れていなかったのにとてつもなく懐かしい感情が押し寄せる。
それを誤魔化すように寝ているメリンダ様を近くにいた騎士に託し医師団に連れて行くように頼んだ。
「セシリアさんとエヴァさんは無事にこちらに?」
私の問いかけに騎士達が我先にと声をあげる。
どうやら、私達がつく少し前に騎士団に保護されたようだ。
ランディル公爵家にも捜査に向かっているらしい。
良かった。
ホッとしたらなんだが頭がクラクラするな。
さすがに二重三重の魔法の重ねがけを維持しながら慣れない乗馬は心身共に堪えるわ。
あ、あれ?
なんか真っ直ぐに立っていられない?
そう思ったと同時にリベルトとシャーリーが近づいてきた。
「あの、アヤカ様。少しよろしいですか?」
懐かしいリベルトのその声にプッツンと緊張の糸が切れぐらりと視界が揺れた。
あ、ダメだ倒れると思ったところでリベルトとシャーリーに抱き留められたようだ。
「あ、ありがとう。リベルト、シャーリー……」
そう呟いた私に戸惑った表情を見せる2人。
それを不思議に思いながら私は意識を手放した。
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