第48話 瘴気浄化ポーション作成プロジェクトと剣術訓練

 瘴気浄化のポーションが作れることがわかり、王宮は騒然としていた。


 これで闇落ちする人を救えると、『瘴気浄化ポーション作成プロジェクト』が発足。

 各領主、各神殿支部に緊急召集がかけられ各地で量産してもらうことに。

 神殿の巫女様達と聖職者の皆さんも難なく聖霊魔法を取得、浄化の力も回復薬に付加できるようになった。

 

そして今日も私は医師団棟へ向かっている。

もちろん、リリアン様とマリーさん、私の侍女さんチームの三人もプロジェクトに参加。


医師団の調合室に入ると挨拶する間もなく薬師の皆様に囲まれた。


「「アヤカ様! このたびの瘴気浄化のポーションの発想はすごいです!」」


なんだか、皆さん興奮しているみたい。

そんな熱気のこもる調合室にジュール様の声が響いた。

 

「さあ、皆さん、手を動かしてください。いいですか、回復薬を作るときには上質な回復薬になるように、美味しくなるようにと唱えながら作ってください」


 あ、それ私がこの前言ったやつだ。

 それで上質で美味しい回復薬が出来上がらなかったら申し訳ないではないか。

 私の不安げな視線を感じたらしいジュール様が私に笑顔を向けて言った。


「大丈夫です。自分で試しましたから。あの後、自分が薬を初めて作った時のことを思い出したんです。一つ一つに思いを込めて調合していたことを。これもアヤカ様が気づかせてくれたおかげです」


 そうなんだ。もしかして薬師のスキルを持っている人は調合の際に『良く効くように』という思いを薬に込めることができるのかもしれない。


 スキル持ちの人が調合する薬と普通の人が調合する薬では効き目にちがいがあるのはそう言うことなんだ。



 今頃は、『緑の手』のスキル持ちが薬草を急ピッチで育てていることだろう。


 ちなみに、オル様やレイ様は王族として『瘴気浄化ポーション普及会議』に出ている。


 これから、ポーションの販売価格や流通経路、国内外の普及の仕方、討伐時の必要量などを話し合っているらしい。


 またまた宰相のサムネル様のお仕事が増えてしまったようだがしょうがないよね。

 このさい、禿防止ポーションはもう少し待ってもらおう。


 もし心労で本当に禿げてしまったら、禿防止ポーションじゃなくて毛生えポーションに変更すれば良いしね。


 今の私ならすごい毛生えポーションが作れそうだ。

 一口飲むだけでボーボーに毛が生えてくるようなやつが。

 

 なぜか全身毛むくじゃらのサムネル様の姿が頭をよぎる。

 うっ……

 やっぱり、威力は抑え目で作ろう。

 




 こうして『瘴気浄化ポーション作成プロジェクト』は着々と進んでせっせとポーションを作るが瓶詰め作業まではとても手が回らないのが現状だ。


 まあ、地道に皆で瓶詰めしているけどね。


 リリアン様とマリーさんはすっかり薬師の皆さんに馴染み、今では調合室のアイドルだ。


 私がいなくても薬師の皆さんのサポートをやってくれている。

 そのうちに薬師のスキルが増えるのではないだろうか。


 そして瓶詰め作業だが、どこかの商会に仕事を発注しようという意見も出ているようだけど、いろいろな大人の事情で選別するのが難しいらしい。


 そこらへんの事を、いつものように夕飯を食べている時にオル様とレイ様が頭を悩ませているようなので瓶に詰める作業に学生の起用と孤児院の子供達の起用を提案してみた。


 私がこの提案をしたときにオル様とレイ様は子供達を働かせることは発想になかったようだが、平民の子供は小さい頃からお家のお手伝いをしていること、孤児院の子供達は将来的に自分で働いて生きていかなければいけないことを話してみた。


 それにちょうど来月は3の月で日本で言うところの春休みだから学生も時間がある。

 今月中に募集をかければ間に合うだろう。


 そう言えば、今年の4の月からいよいよライも学園に入学だ。

 ここのところ忙しくて会っていないけど元気かな?


 この世界は、1週間は6日、1ヶ月は30日、12ヶ月で1年と元の世界と大幅に変わるところはない。


 ついでに曜日は白の日、赤の日、青の日、緑の日、黄の日、光の日、という呼び方で、光の日が日本で言うところの日曜日だ。


 私の提案にオル様とレイ様が興味を示したのでさらに具体的な話をしてみる。

 孤児院の子供達に関しては7歳から9歳までの就学前の子供を募集し、春休み中の学生と組んでもらう。


「学生は無用な混乱を避けるため、平民の子対象が良いだろう」とマー君が提案する。


「あ、それ私も賛成。あと、学生と子供達にはバイト代とお昼ご飯の提供をするのはどうかな?」と私が言うと、「バイト代とはなんだい?」とレイ様が質問してきた。


 そうか、この世界はバイトってないものね。


「えっと、労働に対する賃金のことです」と私は答えた。


 お小遣いも稼げてお昼ご飯も食べれるのなら学生と孤児院の子供達にとっても悪い話ではないと思う。


「王宮に乗り合い馬車で通える範囲で募集して、馬車はもちろん無料で乗れるようにパスを発行して。あ、パスというのは乗車券のことね」とさらに交通手段についても提案。


「それなら、子供達の安全を考えてパスは個人限定使用と守護の魔法陣を施したほうがいいな」とオル様。


 さすが魔導師団長。


 それなら盗まれても本人しか使えないし、子供達が危険な目にあったときに守護の魔法陣が発動して危険を回避してくれるだろう。


 そんなこんなで、夕飯の時に皆で出し合った意見を明日の朝、会議にかけてみることにするらしい。


 あとは、価格設定、流通経路の選定、などなどやらなきゃいけないことは山積み。

 まあそれはこの国の専門家にお任せしましょう。


 次の日の午後、国王様からの呼び出しがあった。

 朝の会議で瓶詰め作業に学生起用と孤児院の子供達の起用が決定したようだ。


 そしてこの度の『瘴気浄化ポーション』考案のご褒美を国王様がくれるというので、剣術を習いたいと言ってみた。


 例に漏れず、驚いた顔をしていたが、「そうかわかった。皆が納得いく剣術の先生を用意しよう」と約束をしてくれた。


 みんなって誰やねん?

 私が納得いく先生の間違いじゃないのかな?


 疑問に思ったがミリアさんが「いえ、国王様の言うことは間違っていませんよ」と言っていたのでそんなものかととりあえず、頷いておいた。


 国王様に剣術の件をお願いしてからちょうど一週間後に明日から訓練開始のお知らせが来た。


 この一週間、私はただぼーっとしていたわけではない。


 身体作りの準備をしていたのだ。


『瘴気浄化ポーション』のことは医師団の皆さんと神殿の皆さんにお任せをし、リリアン様とマリーさんもそのままお手伝いをしてくれると言うのでお願いをした。


 人任せにしている寛は否めないが、これも致し方ない。


 そして朝と夜に腹筋運動と腕立て伏せ、ヨガで体幹を鍛えることに専念した。


 これで訓練もラクラク突破だ。

 サクッと剣術を習得してみせましょう。


 そしてやってきました。剣術訓練の日です。


 ミリアさんが用意してくれた黒い長袖のブラウスと黒い細身のスラックスに赤のベスト型のビスチェをつけ、足には編み上げのブーツ、髪の毛は後ろの高い位置でポニーテールにした。


 全身を鏡で確認。


 おおーなかなか様になっているではないか。

 着替えを手伝ってくれたミリアさんとターニャさんも似合うと絶賛してくれた。


 これは、ドレスよりも楽だわ。


 早速お隣のマー君を訪ねる。

 朝食の後、マー君に剣士姿を披露する約束をしたのでね。

 マー君は剣士姿の私を見て驚いた顔をした。


「へへ、どう?似合う?」


「い、いや、あまりにも似合っているから。びっくりした。やっぱり、騎士団の訓練場にしなくて正解だな」


「え? 私の剣術の訓練って騎士団でやるんじゃないの?」


「いいか、アヤ、騎士団は狼がうじゃうじゃいるんだ、そこに子羊が迷い込んだら大変な事になるだろ?」


 ん? 何のことだ? 狼? 子羊?


 まさか子羊って私のこと?

 やだなあ、もう子供の姿じゃないよ。マー君。


 そんな会話をしていたら、ダグラス君と私の護衛のディランさんとライナスさんが迎えに来た。


 結局、マー君はダグラス君と騎士団の訓練場へと向かい、私はディランさんとライナスさんの案内でマー君とは反対の廊下へと誘導された。


 あれ?これって魔導師団棟への道のりかな。


 そう言えば、私の剣術の先生って誰なんだろう?


 てっきりマー君と同じ騎士団の訓練場でやるものと思っていたから想像もつかないや。


 まあ、いいか、とにかく頑張ろう!

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