勇者のおまけも大変だ!

見崎天音

第一章 召喚編

第1話 プロローグ

 つ、疲れた!


 只今、私、氷室絢音は逃走中。

 ベビーピンクの振り袖姿で全力疾走する17歳の乙女に道行く人々は驚きの顔だ。


 事の起こりは一本の叔母からの電話から始まった。

 今売れっこのデザイナー『水木 茜』は父の妹、つまりは私の叔母である。


 その叔母から今度和装業界に進出するので振り袖のモデルになって欲しいと連絡があったのだ。

  要は、叔母がデザインした振り袖の御披露目会で振り袖を着てただ笑っているだけで良い、バイト代は弾むよ~と言う甘い言葉に、ちょうど、高校の創立記念日で暇を持て余していた私は飛びついた。

 夕方からの塾までに帰ってくれば誰からも文句は言われないだろう。



 そして、御披露目会が終わってホッとしているところを黒ずくめの怪しい男二人に車に押し込まれ連れ去られてしまった。


 後ろからハンカチを顔に押し付けられが瞬時に息を止めて寝たふりをした私の機転を誉めてもらいたい。


「なあ、この嬢ちゃん誘拐してあとどうすんだ?」運転席の男が後部座席の男に話しかけた。


「さあ~とりあえず、組の事務所に連れて来いって言われただけだからな。この事業に手を出すなって脅迫状送ったけど今日を迎えちまって親分は頭にきてるみていだから。さすがに娘を誘拐されたときたら母親もおとなしくなるんじゃね」


 なるほど・・・新規事業参入を巡るトラブルに巻き込まれたのか。


 って言うかおいおい、完全に人違いだよ!

 従姉妹の沙也香と間違われてる。


「しっかし水木茜の娘だけあってかなりの美少女だな」と言いながら私の隣の男が頬を一撫でした。

 そのとたん背筋がゾゾッとして危うく声を上げそうになるがグッとこらえた。


 運転席に一人、後部座席の私の隣に一人、薬で眠っていると思っているためか幸いにして手も足も拘束されていなかった。


 このまま連れて行かれたら何をされるか解らない。


 車に乗せられてかれこれ10分は過ぎただろうか。


 隣の男が携帯をいじり始めたのを薄目で確認して、私は信号待ちの一瞬をついて車から飛び出した。


 そして冒頭の状況となったのである。


 車に乗ってる間寝たふりをしていたからここがどこだかわからない。

 会場となっていたホテルからだいぶ離れたところらしく夕暮れの住宅街は人がまばらだ。


 チラリと後ろを見ると後部座席の男が怖い形相で追いかけてきている。

 とにかく捕まったらヤバイ事だけは確か!


 近くの交番かコンビニに逃げ込んで助けてもらおう。


 十字路にさしかかったところで右に曲がった。

 そのとたん目の前に制服姿の男の子の背中が飛び込んできた。


 あ!ぶつかると思ったとたん男の子の足元が光り出し、直径1メートルほどの穴がぽっかりと開いた。

 私は急に止まれず男の子の背中に激突しながらその穴へと一緒に落ちていった。


 眩しい光の中を落下しながら私は意識を手放した。

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