第2話 まさかの異世界?
喉の渇きで目が覚めた。
見慣れない天井をみて部屋中を見渡す。
部屋のカーテンが閉じているからか薄暗いが真っ暗では無いことから夜では無いらしい。
「あれ? ここどこ?」
確か、黒ずくめの男から逃げてる途中で誰かにぶつかって・・・
穴に落ちた?
そこから先の記憶がない・・・
あの光の穴、何だったんだろう?マンホール?うーん・・・
それにしても豪華な部屋。
いずれにしても親切な人に助けてもらった感じだよね。
20畳程の部屋の片隅のダブルベッドにどうやら私は寝ていたようだ。
ざっと見たところ家具はすべて統一されているようで部屋のドア側にある布張りの猫足ソファはピンクの薔薇の花模様。その前には同じく猫足の木目調ローテーブル。
えーと、こうゆうのなんて言うんだっけ?
アンティーク?ロココ調?まあ、そんな感じ・・・
上半身を起こして自分の姿をチェックしてみる。白いフリフリレースのネグリジェが目に入った。
振り袖の時に綺麗に結い上げていた髪は解かれ、癖のないストレートの黒髪が背中に広がっている。
そして振り袖は左手の壁にハンガーで吊されていた。
あれ?あの振り袖、あんなに小さかったっけ?
桜の花びらがハラハラと舞うダイナミックなデザインがなんだか迫力に欠けている。
ハッとして自分の両手をじっくりと見る。
小さい。
まさか!と思い両胸をさわって見る。
ない!胸がない!
17歳なりにささやかながらあったBカップのバストがツルッペタン。
こ、こどもになってる?!ウッソー!
ここで叫ばなかったことをほめてほしい。
ぼーぜんとしているところにドアをノックする音がした。
「は、はい・・・」戸惑いながら小さい声で返事をするとガチャリとドアが開き
紺色の詰め襟ロングワンピースに白い胸あてエプロンをした20歳位の女性が水差しを持って入ってきた。
私はその女性の髪と瞳が淡い緑色をしていることに一瞬自分の身に起きた事態も忘れて呆けた顔をしてしまった。
緑色の髪をきちんと一つにお団子にして白いリボンで括っている。
綺麗な二重の眼に鼻筋の通った西洋風の整った顔をしているが肌の色は日本人と変わらない感じだ。
どっちかというと私の方が色白かな。
でも、外人さんだよね? コスプレ? 仮装パーティーとか?
「まあ、お嬢様お目覚めなられて安心しました。まずは水分補給です。こちらをどうぞ」と言ってコップに水をついで渡してくれた。
うん、コスプレ好きな女性だとしても良い人に違いない。
「お嬢様がお目覚めになられた事を勇者様にお伝えして参りますので、このままお待ちください」
と言って部屋を出て行った。
あれ、外人さんだけど日本語ペラペラだね。
良かったよ~知らない所で言葉も通じないんじゃ心ぼそいもんね。
でもさ、今、勇者様って言った?言ったよね?聞き間違いじゃないよね?
勇者様ごっこの仮装パーティーとか?
いやいや、もしそうだとしても私の身体が子供になってることの理由にはならないよね?
この状況を説明してくれるなら勇者様でも魔王様でもドンとこい!
ほどなくすると、ドアの外が何やら騒がしくなった。
ノックのあと、返事をする間もなくドアが開けられた。
「目が覚めたって?!」と言いながら高校生ぐらいの男の子が入ってきた。
おー!黒髪、黒目だ!お馴染みの色彩で安心感がハンパない。
思わず嬉しくて笑いかけた。
男の子の後ろには先ほどの緑の髪の女性(面倒くさいから緑さんでいいか)と中世の騎士様のような恰好をした水色の髪で瞳が緑色の男の人がいた。
騎士様は私の顔を見ると一瞬目を見開いた。
な、なに?。
なんで驚いた顔したんだろう?。
先ほど、緑さんに会ったせいか目に眩しい色彩ながらも水色の髪とくりっとした大きな深い緑の瞳は彼に似合っていた。
黒髪の男の子より少し年下かな?
なるほど、勇者様ごっこの仮装パーティーが濃厚のようである。
これは私も強制参加させられる感じ?
だが、断る!
家に帰らなと家族が心配するもんね。特にシスコン気味の兄貴とかね。
あれ?でも子供の身体じゃ帰れないよね。
むむむ・・・
私が一人考えに没頭している間に黒髪の男の子が緑さんと騎士様を部屋から追い出していたらしい。
部屋には男の子と2人っきりとなった。
私はベットに座ったまま男の子を見上げた。
あれ?この男の子って私が背中に衝突して一緒に穴に落ちた子かな?。
「大丈夫かい?君は丸二日起きなかったんだよ。具合はどう?どこか痛いところとかある?お腹も空いてるだろ?何か持ってきてもらう?」
矢継ぎ早の彼の質問に私は首を振った。
「大丈夫です。どこも痛くないです。それよりここはどこですか?」
「わかった。じゃあ、まず俺の自己紹介からね。俺の名前は徳江雅樹18歳だ。これから重要な話をするから落ち着いて聞いてくれ」
18歳か…高校3年生だ。
私と同い年。
綺麗なアーモンド型の瞳に意志の強そうな眉毛。高すぎず、低すぎず筋の通った鼻。
両サイドの髪は短めだが長めの前髪が端正な顔を柔らかく見せている。
どこぞのアイドルかと言うくらいのイケメンだ。
雅樹君の真剣な表情に私も気を引き締めながら頷いた。
「まず、ここは日本じゃない。今まで俺たちがいた世界とは異なる世界、所謂異世界だ」
「ほぇ?」
あまりな話に変な声が出てしまったが誰も私を責められないだろう。
「異世界?」
「そうだ。初めは俺も信じられなかったが、俺達の世界にはないものやあって当たり前のものが無いことから信じざるをえない」
なんてこったい! 仮装パーティーどころか、異世界?!
はっ! 騙されてはいかん。これは新手の霊感商法とか?
この後、手のひらサイズの水晶でも売りつける気か?
「いやいや、霊感商法でもないし、水晶も売りつけないから」
ヤバイ、どうやら声に出ていたらしい・・・
「話を続けるよ。俺達の世界とあきらかに違うのはこの世界には魔法がある。この世界の人達は魔術や魔力と呼んでいるみたいだが。そして俺はその魔術で勇者として召喚されたらしい。悪鬼王と戦うために」
「魔法? 勇者? 悪鬼王?」
何このラノベのような展開は・・・
ありえない髪色をしていた二人をみた後では全否定は難しいよね。
そして雅樹君が勇者様。ふむふむ。
で、この場合私は?何?
「で、君は勇者召喚の際に巻き込まれてしまったようだ」
えー! 巻き込まれた一般人?!
あれ? このパターンって「君はいらないから出ていけ」ってなるんじゃない?
無理無理~異世界で独りで生活できる訳ない。しかも子供の身体だし。
あ、もしかして子供の身体の方が都合が良いかも。
だってこんないたいけな子供を外に放り出すなんて人としてできないよね?
なんとしてもここは子供の非力さを売りにしなければ。
17歳の思考は禁止、今から私は子供になりきらねば!
そして元の世界に返してもらわなきゃ!
私は子供、私は子供・・・頭の中で呪文のように唱えてみる。
「俺の召喚の巻き添えなんてごめんな」
雅樹君も勝手にこの世界の人に召喚されたにも関わらず私に頭を下げた。
イケメンなのに良い人だ。ん?イケメンだから良い人なのか?
「頭を上げて下さい。雅樹さんが悪いわけじゃないですから。私はお家に帰れますか?」
一番重要で聞きたかったことだ。
「ごめん、俺もここにきて一番始めに確認したことだけど、方法は無いことはないが、確実に帰れる保証は無いらしい。というか今までこの世界に召喚されて帰りたいって言った人はいないって話だよ」
「え、それはなんでですか?」
「う~ん、これは多分だけど、魔法が使えるって俺達の世界からいったら夢だもんな。特に異世界人はこの世界の人より魔力が多くて質が良いらしい。今までの異世界人は全属性の魔術が使えたらしいよ」
なるほど・・・
確かに魔法があったらなって子供の頃一度は誰しも考えるもんね。
でも、私は帰りたい。このまま帰れなかったらどうしよう・・・
あ、何だか涙が出てきた。身体が子供だから精神がそれに引っ張られてるのか、一度出た涙はとめどなく溢れて頬を伝う。
「お家に帰りたい」
泣きじゃくる私にびっくりしたのか雅樹君は私を抱きしめた。
「ごめん、俺がちゃんと君を守から。それで君が寝ている間に確固たる立場を固めるために君は俺の従姉妹って説明したんだ。妹でも良かったんだけど、あまりにも妹のことを知らなすぎるのも不味いと思って」
「従兄妹?」
抱きしめられてる胸の間から顔を上げて問いかければ雅樹君はうっと変な声を出して何故か私の頭を自分の胸に押し込めてさらにきつく抱きしめた。
地味に苦しい。
あ、雅樹君の心臓の音だ。少し早めのリズムを刻む心音になんだかホッとし涙も引っ込んだ。
「俺にも君と同じ位の従姉妹がいるんだ。名前は徳江彩香、7歳だ。あれ、七五三の着物だろ?」
そう言いながら壁の振り袖を指差した。
七五三・・・そうか、今の私って7歳の女の子に見えるんだ。
小学2年生ってところか。
「君の名前と歳を教えてほしい」
雅樹君は抱きしめていた腕をほどいて私の目を見つめながら言った。
「名前は氷室絢音、歳は7歳・・・あ!でももうすぐお誕生日だから8歳です・・・」
これは嘘ではない。あと3日、あれ? 丸二日寝てたってことは明日が18歳の誕生日だ。
はっ、誕生日と言えば同じ塾の葉月君がお祝いしてくれるって言っていたではないか。
思えば、小学校、中学校、高校校と私立のエスカレータ式の女子校という狭い檻の中、彼氏いない歴イコール年齢という悲劇。
その元凶とも言えるシスコン兄の猛反対を押し切り、志望大学を外部受験に切替え手に入れた進学塾通い。
志望大学が同じこともあり仲良くなった葉月君との初めてのデートが!人生初のデートが!
水の泡・・・
「え、誕生日? いつ?」
「明日・・・11月22日です」
がっくりと肩を落として答える私。
「じゃあ。明日は二人でお祝いしよう!」
おー! イケメンの笑顔は破壊力抜群です。
釣られて私も笑顔になる。
「絢音ちゃん、申し訳ないけど召喚されたときに君の名前を徳江彩香と名乗ってしまったんだ。本当の名前はここでは隠してほしい。幸い絢音と彩香って似てる名前だから、俺はアヤって呼ぶことにする。実は本物の従姉妹のこともそう呼んでるんだ」
「わかりました。私はなんて呼べば良いですか?彩香ちゃんと同じように呼んだ方が良いですよね?」
「うーん・・・そうだな~従姉妹のアヤからはマー君って呼ばれているけど、呼びやすいので良いよ。あと、俺に対して敬語は禁止だよ。いところ同士なんだから」
「マー君・・・」
実は私の5歳上の兄の名前が政孝だったりする。
そして何を隠そう小さい頃私は兄をマー君と呼んで後をついて回っていた。
さすがに私もお年頃になってまさ兄と呼ぶようになったが。
懐かしい呼び名に私もついつい頬がゆるむ。
「私もマー君って呼びます」
マー君はホッとした様子で、私の頭を撫でた。
その後、お互いの家族構成などを話し、簡単な情報交換をした。
「じゃあ、これからよろしくアヤ。」と言ってマー君はにっこり笑った。
「はい!よろしくお願いします」
「あ、ほら、敬語禁止だよ」
「う、うん。マー君よろしく!」
元気よく返事をしたと同時に私のお腹が派手な音を立てて自己主張した。
「あはは、大きな虫が鳴いてるね。ちょうどお昼だ。ミリアーナに消化のよい食事を持ってきてもらおう。食べたらまた少し寝ると良いよ」
「うん。マー君ありがとう」
恥ずかしさのあまり俯きながらそういった私の頭を笑いながら撫ででマー君は部屋を後にした。
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