第21話 お披露目会の予行練習と初対面①
今日はアヤカとして王妃様主催の昼食会に出席予定。
昨日、オル様のご両親がこのターマス国の王宮に到着したのだ。
その顔合わせのための昼食会らしい。
魔族の王族の方々と一緒とのこと。
そうそう、その昼食会にメアリー様の息子さんも出席するとか。
メアリー様には3人の息子さんがいて今、三男のクリストファー様が王宮に滞在しているらしい。
メアリー様も久々に息子さんに会えて嬉しいだろうな。
でもオル様のご両親は残念。
オル様は例の瘴気の魔石の出どころを調査しに第五部隊の方々と獣人族の国、ジャイナス国に行ってしまったから。
私はオル様のご両親にお会いするのに昨日の夜から緊張マックスです。
なので今日の朝食は控え目に食べる。
騎士団の食堂で顔馴染みになったおばちゃんにいつもよりも少なく盛りつけてもらう。
この後、ドレスを着るのを考えてのことだ。
あのコルセットと言う殺人的な凶器と戦うための準備なのだ。
そうだ! この際、シモンヌにコルセットを改良してもらおう。
自分で着られるように前ファスナーをつけてもらって、後はスリムに見えるドレスのデザインと、内臓を締め付けるのは身体に良くない事を宣伝してもらおう。
アヤーネはドレスを着ないからアヤカとしてシモンヌにお願いしなきゃね。
いつも大飯食らいの私がチョビチョビとパンをちぎりながら口に運ぶのを見てリベルトがニヤリと笑った。
「どうした、アヤーネ。やっぱりお前でも緊張するのか? メアリー様の補習授業」
今まで午前中は乗馬のレッスンだったので私だけマナーの講習を受けていない。
今日は1日メアリー様のマナーの授業を補習という形で受けることになっているのだ。
まあ、それも今日の昼食会の口実なんだけどね。
「そりゃあ、緊張もするよ。どんな方なのかな~とかいろいろ気になるし……」
「あら、メアリー様はお優しい方よ」とシモンヌ。
うん、知ってる。この緊張の原因はオル様のご両親だから。
「マナーの達人だから立ち振る舞いには厳しいけどね」とシャーリーが言えば、カミラが頷きながら口を開いた。
「ダンスのレッスンも厳しかったわね。何度も指摘されて足がつりそうになったもの」
「あー俺なんてテーブルマナーからダンス、歩き方まで直されたぜ。つくづく貴族じゃなくて良かったと思った」としみじみとリベルトが言った。
リ、リベルトがダンス?!……ぶっ、笑える……
「おっ、やっと笑顔になったな」
「うん、ダンスしてるリベルトを想像したら緊張もどこかに飛んでった」
「お、おまえ! 一生、緊張してろ! 飛んでった緊張を拾ってこい!」
え~どこに飛んでったかわらないよ?
*****************
さぁ、やってきました昼食会の会場。
久々にマー君にエスコートされてます。
ちょと会わないうちにマー君はまた身長が伸びたようだ。
全体的にガッチリとしてきてますます精悍なイケメンに成長している。
眼福、眼福。自慢のマサキ兄様だ。
黒のスーツ姿がとても良く似合っている。
首もとに結んでいる淡いピンクのアスコットタイがキリッとした中に優しげな雰囲気を演出している。
私はと言えば、王妃様が用意して下さった白いドレスを着用。
上品なAラインのチュールドレス。
オフショルダーのため胸元から肩がスースーするが、髪はアップにしないでそのままおろすようにとの指示だったのでまだ良いか。
髪にはティアラのようなパールとプラチナのカチューシャ、首にはカチューシャとおそろいのデザインのネックレス。
メイクは純白のドレスに合うように派手すぎず地味すぎず、パールの粉をファンデーションに混ぜて光の加減で肌が煌めくように演出。
アシストレンジャー開発のマスカラも取り入れ目元に気合いを入れました。
唇はお決まりのグロスルージュで艶々にアイシャドーは薄いピンク色。
頬にパール入りのベビーピンクのチークを乗せて出来上がり。
「アヤ、今日のドレスも似合ってるよ」
「ありがとう。マー君も素敵よ。黒いスーツと白いドレスなんて何だか新郎と新婦みたいだよね?」
「えっ?」と言ったまま顔を真っ赤にして固まるマー君。
あ、ごめん。私が相手じゃマー君に失礼だよね。
それにしてもここが昼食会の会場? 舞踏会の会場だよね?
その舞踏会の会場に繋がっている小部屋で待機中。
「今日はお披露目会の予行練習もかねてるらしい。会場は夜会の縮小版だという話しだ。名前を呼ばれるまでここで待機だよ。他の皆さんはもう会場入りしてるから」
「そうなんだ。じゃあ、サーヤ様もここから入場?」
「ああ、ジャイナス国のヘンドリック王子がエスコートするらしい」
そんな会話をしていると後ろから声をかけられた。
「アヤカ! 久しぶりだね」
その声に反射的に振り返った。
えっと、どなた?
そこにはブルーグレーのスーツに身を包んだ超絶イケメンが立っていた。
金髪に紺色の瞳、もしかして……。
「レイモンド王子?」
「アヤカ、2人の時はレイと呼ぶ約束だよ」
いやいや、ここにマー君もいるので2人じゃないですよ。
それにしてもちょっと会わないうちに印象がだいぶ違ってビックリだ。
マー君同様、身長が随分と伸びてるし、肩まであったサラサラの金髪もばっさりと切っている。
少し長めの前髪に形の良い耳を出している髪型は鍛え上げられた体と相まって男らしい魅力にあふれていた。
十代の男の子の成長ってスゴイ!
「とっても綺麗だよ、アヤカ。今日は僕が入場のエスコートをするからね。名付けの愛し子のエスコート役は王族がやることになっているんだ」
そうなんだ。
じゃあ、マー君とはここまでってことか。
「最初に勇者のマサキ、次がジャイナス国の聖女様、最後が愛し子のアヤカの順で入場だよ。この役を勝ち取るために兄上の無理難題を早々に片付けたんだ」
無理難題? そう言えば、レイ様はアランフィード様のお手伝いで忙しいって言ってたもんね。
良く見ると目の下にうっすらとクマを発見、顔色も少し疲れているようだ。
私は思わず両手を伸ばし、レイ様の頬に触れ『癒やしの手』を発動する。
みるみるうちにクマが消えて顔色も良くなった。
「レイ様、どうですか? 疲れは取れました?」
下から見上げるようにして笑顔で問いかけるとレイ様は真っ赤な顔をして私を見下ろしていた。
あ、いけない、突然頬に触れたら驚くよね?
謝ろうと思って口を開きかけたところにジャイナス国のヘンドリック王子とサーヤ様がドヤドヤと会話をしながら小部屋に入ってきた。
相変わらずの賑やかさだ。
「サーヤ、わかっていると思うがくれぐれも言葉使いには気をつけてくれよ。魔族のライバン国の王族もいるんだからな」
「魔族? それって悪者じゃない。なんで悪者に対して言葉に気をつけるのよ」
ありゃりゃ、確かにラノベとかじゃ「魔族」や「魔王」って勇者や聖女の敵だものね。
「サーヤ様、魔族の方々は我々と一緒にサタン討伐に出陣する仲間です。もう少し勉強が必要ですね」とルドルフ様が言うとサーヤ様は途端にムッとした顔をした。
ジャイナス国の一行は先に小部屋で待機している私達に気づくとハッとした。
今日はヘンドリック王子の側近はルドルフ様だけのようだ。
エミリオ様がいないことに少しホットする。
まあ、気まずいのはアヤーネなんだけどね。
「騒がしくしてすまない。今日はよろしく頼む。アヤカ、今日は一段と綺麗だな。白いドレスがよく似合っている。ますます女神様にそっくりだ」
「ありがとうございます。ヘンドリック様」とにっこり笑ってお礼を言うと、サーヤ様が私を見ながら口をひらいた。
「白いドレスなんて地味ね。女神に似てると言ってもどうせ黒髪に黒目ってだけでしょう? みんな大げさなのよ、女神、女神って」その言葉に敏感に反応したのはマー君とレイ様だった。
ヘンドリック様はあまりのサーヤ様の失言に言葉も出ない様子。
ルドルフ様に至っては血の気が引いた青い顔をしているのに額から汗が吹き出ている。
確かに白いドレスは一見すると地味かもね。
でも生地は一級品でドレス全体に施されたレースにパールの装飾は他で見ることが出来ないような繊細な作りだ。
多分、貴族のご婦人、ご令嬢ならこのドレスの価値がわかるだろう。
一方、サーヤ様はオレンジ色のシフォンドレス。
元気いっぱいな彼女によく似合っている。
マー君とレイ様が口を開く前に一歩前に出てサーヤ様に向かって声をかけた。
喧嘩を売られたのは私なので受けて立ちますよ。
「サーヤ様はオレンジのドレスが良くお似合いですね。私のドレスは王妃様が私のために用意して下さったものなんです。サーヤ様のご意見を王妃様に伝えておきますね。女神様に似ているかは私ではなくて周りの皆さんがおっしゃっていることですのでどうぞ、皆さんにそうおっしゃって下さい。私の事を女神様に似ていると最初におっしゃったのは確か、国王様でしたね」
私のドレスにけち付けるのは王妃様に喧嘩を売っているのと同じ、私のことを女神に似ていると言う人達にあなたの意見を言って回ってはいかかが?
最初にそう言ったのは国王様ですよ。と、言ってみたが伝わっただろうか?
サーヤ様が心なしか青ざめているようなので伝わったようだ。
「アヤカ、申し訳ない。サーヤ、君は失礼にもほどがある。ちゃんと謝りなさい」
ヘンドリック様のその言葉に、サーヤ様はそっぽを向きながら小さい声でボソボソと「ごめんなさい」と言った。
「サーヤ、それじゃあ、聞こえないし、謝るのに相手の目を見なさい」
あーヘンドリック様がおかんに見える。反抗期の少女の教育は大変そうだ。
「ヘンドリック様、大丈夫です。サーヤ様のお言葉はちゃんと聞こえましたから。それより、今日はエミリオ様はいらっしゃらないのですね」
話題を変えたほうが良いかと思ってそう問いかけてみた。
「ああ、エミリオはちょっと城下まで行っているんだ。馬の買い付けにね」
へぇーそうなんだ。だから今日はルドルフ様1人なんだ。
マー君とレイ様の怒りも収まり、落ち着いた空気が流れた頃、会場係の人がそろそろ入場の時間だと声がかかった。
それを合図に、ルドルフ様は「では、会場でお待ちしています」と言い残し小部屋から出て行った。
さぁ、お披露目会の予行練習の始まりです。
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