第5話 この世界の事を勉強しましょう

 今日はこの国の王様との謁見があるらしい。


 マー君と一緒に朝食を食べたあと、ミリアさんから言われた。


 あ、ミリアさんっていうのは私が眠っているときからお世話をしてくれている侍女さんで、淡い緑と瞳の美人さんです。


 正式な名前はミリアーナ・アラート、18歳。

 ミリアーナが名前でアラートが家名。

 王族は名前と家名の間に『キリア』が入るらしい。


 ミリアさんは貴族で、アラート子爵家の次女、そして只今花嫁修行中で婚約者なしとのこと。


 若い女性のなかでは王宮で女官や侍女としてお勤めする事はステータスになるらしい。


 自分のことは『ミリア』と呼び捨てにするようにとお願いされたが、なかなかそれができない。


 今日の午前中はこの国の歴史のお勉強をして、お昼を挟んで国王様の謁見というスケジュール。


 国王様との謁見にはマー君も一緒に行くことになっている。

 マー君は今頃、騎士団の皆さんと剣術の特訓中。


 私も頑張ってお勉強しますよ。


 一応、ミリアさんからは基礎的な事は一通り教わった。


 1日が24時間、一週間は6日間、一ヶ月は30日、一年は360日と、元の世界とあまり変わらない事にホットした。


 まあ、曜日や月の呼び方は違うようだけどそれは生活していく中で覚えられるから良いかな。



 さて、自分の部屋からミリアさんと騎士団から派遣された護衛の方と一緒にお勉強の部屋に移動。


 勇者の従妹という理由で付けられているらしいが護衛なんて必要なのだろうか。


 護衛の騎士様は19歳のディラン・マクガレイさん。

 ピンクゴールドの髪、明るい茶色の瞳、可愛らしい髪の色なのに程良い筋肉がミスマッチだ。


 笑顔で挨拶する私に一瞬目を見開いたことは見なかった事にしょう。


 ええ、良いんです。あなた達のよう煌びやかでなくって悪うございます。

 いたって地味な黒髪、黒目ですもんね!


 部屋に着くとすでに先生と思われる人が待っていた。

 なんてこったい、先生を待たせるなんて私ったら生徒失格じゃないですか。


 後ろで一つにまとめた金髪に宝石みたいな青い瞳、神々しいくらいの立ち姿に一瞬で目を奪われる。

 なんて綺麗な男性なんだろう。ドキドキする胸を押さえながらなんとか挨拶をする。


「す、すいません、お待たせいたしました。徳江彩香です。よろしくお願いいたします」と頭を下げた。


「いえ、こちらこそあなたに早くお会いしたくて早々に仕事をおしつけあ、いえ、仕事を片付けて来たのでお気になさらずに」と言って片膝をつくと私の右手の甲にそっとキスをした。


 きゃーそこらの女性よりも美しい顔でなにをする~

 後にも先にもこんなことされたことないからドキドキがマックスです。


 心臓が持ちません。

 しかも触れてる手の周りがキラキラと光っているように見える。

 これはイケメンエフェクトなのか?


「私は魔導師団長のオリゲール・キリア・モリフィスです。彩香様」


「キリア?王族の方ですか?」


「おや、キリアの意味を知っているんですね。僕は王弟の息子です。両親はモリフィス公爵を拝命して外交官として勤めています。僕は16歳の時に王宮魔導師団に入団して5年経った今、団長となりました」


 今、21歳てことか。

 ずいぶん若い魔導師団長様だ。

 いやいや、今そう言う事に感心している時じゃない。


「あの、魔導師団長様、私のことはどうぞ彩香とお呼び下さい。様はいりません。それに敬語も・・・」


 だって私は勇者のおまけ、しがない平民のモブですもの。

 それに王族の方に敬語を使われるのは居心地が悪いです。


「では、私のこともオリゲールとお呼び下さい」と言ってふっと柔らかく笑った。


 おう、眩しい!

 この人ご自分の美貌をわかっていらっしゃる?


「で、ではオリゲール先生とお呼びしますね。お忙しいところ私のためにお時間を取っていただきありがとうございます」


「先生ですか・・・何だか気恥ずかしいね。それでは私もアヤカと呼ばせてもらうよ」


「はい」と私は笑顔で応えた。


 するとオリゲール先生はミリアさんとディランさんに目を向けると

「ミリアーナと護衛の君は席を外して構わないよ」

 と言った。


「いえ、私はアヤカ様の護衛なので何かあったときのためにお側に控えております」


「魔導師団長の僕がいるのに何があるって言うの?君、面白いことを言うね」


 そう言うオリゲール先生の笑顔が怖いです。


 機転のきくミリアさんがディランさんを部屋から引っ張って出て行った。


「さあ、授業を始めよう」

 オリゲール先生、先ほどとは違うとろけるような笑顔です。


 最初は歴史の授業。

 この世界の子供向けの絵本を使って人族、魔族、獣族、エルフ族、ドワーフ族の成り立ちを習った。


 もともとはみんな人間という種族だったが魔力を持つ聖なる存在と交わることによって人族、魔族、獣族、エルフ族、ドワーフ族に別れたという内容だった。


 人族の始祖は女神と人間、魔族は魔神と人間、獣族は聖獣と人間、エルフ族は森の聖霊と人間、ドワーフ族は大地の聖霊と人間、といった感じだ。


 だからこの世界の人達はみんな魔力があるんだって。


 部屋の明かりもトイレの水洗も魔石に自分の魔力を通さないと反応しないから魔力がないと大変だ。

 魔石はおもに獣鬼と言われる怪物の心臓から採取されるが、まれに山などから発掘される場合もあるようだ。


 そういえば、エルフ族やドワーフ族ってそれぞれの国で言葉は通じるのだろうか?


「そうだね。今現在は言葉や文字は共通だ。昔はエルフ族とドワーフ族は閉鎖的で独自の言葉や文化があったが、出生率の低下から他種族との婚姻を推奨し、今に至ってるかな」


「そうなんですね。出生率の低下は国力低下に繋がりますものね」

 

 人口が減ると労働力が減少するからね。

 と、ひとり納得をしていると、オリゲール先生にじっと、見つめられていることに気がついた。


 ん?なに?と首を傾げると、オリゲール先生ははっとして次に微笑した。

 もう~その儚げな表情は反則です。


 魔力の量と質で寿命と美貌にも関係があることも教えてもらった。

 魔族やエルフ族は長寿で美形の人が多いらしい。


 いや~私から言わせてもらえばこの国の人達だって顔面偏差値はかなり高いです。


 オリゲール先生の美貌から推測するに、魔力量も質も最高級に違いない。


 この国は人族の王様が治めているが、魔族の王様の国、獣族の王様の国、エルフ族の王様の国、ドワーフ族の王様の国があるらしい。


 その国の人達と力を合わせてマー君は悪鬼王あっきおうを倒しに行くんだって。

 鬼退治に行く桃太郎みたいだ。


 一時間ほどしたところでミリアさんがお茶を入れに部屋に入ってきた。

 オリゲール先生の授業は面白くて一時間があっという間だった。


 ミリアさんが入れてくれたお茶で一時休憩をして、また授業を開始する。


「アヤカ疲れてない?」


「大丈夫です。オリゲール先生の授業は面白くてとっても楽しいです」


「それは良かった。私も可愛い生徒で教えがいがあるよ」

 と言って私の頭を撫でた。


 ふふふ、頭から伝わるオリゲール先生の優しさに思わず顔がにやけてしまう。

 これが子供の役得だ。


 さて、次の授業は地理。


 この世界には4つの大陸がある。


 元の世界の感覚で言ったらとっても小さい規模だね。


 その1つの大陸、マライトーナ大陸にこの国、ターマス国、魔族のライバン国、獣族のジャイナス国、エルフ族のルイレーン国、ドワーフ族のドリスタン国がある。


 それぞれの国に種族関係なく住んでいるらしい。


 この王宮にも人族以外の人がたくさんいるらしいけど、私はまだ会った事がない。


「あ、そうそう明日はアヤカの魔力量と属性を調べよう」


「え、魔力量と属性?」


「そう、この世界の子供は10歳から魔術の勉強のために学校に通うんだよ。この国に5校、魔族の国に5校、獣族の国に4校、自分の魔力量や属性、校風などで選択するんだ」


「魔術の学校?」


 頭の中にあの有名な魔法学校が出てくる映画のタイトルがリフレインする。

 おー!OOー・ポッターだね。


「アヤカも10歳になったら行くことになるからね。マサキもつい先日調べたんだよ。さすが勇者様、魔力量も属性も素晴らしい結果だったよ」


 な、な、なに~!


 それはあまり気が進まない…


 だって私は勇者様のおまけ、どう考えても魔力量も質も期待出来ないよね?


「大丈夫、アヤカ、測定方法は至って簡単だから。魔力測定板に両手を着けるだけだから」と言ってオリゲール先生はにっこりと笑った。


 あ~オリゲール先生の期待を裏切る事になるのが心苦しい。


 私は内心の不安を押し隠し微笑んだ。


 そうこうしているうちにお昼ご飯の時間になった。

 授業中は閉め出されていたミリアさんと護衛のディランさんが迎えに来てくれた。


 さあ、ご飯の後は今日のメインイベントの国王様との謁見が待っている。


「オリゲール先生、とても楽しい授業をありがとうございました」


「いえ、こちらこそ可愛らしいレディを独り占め出来て至福の一時だったよ。

 午後からは国王との謁見だね。ではまたその時に」


 オリゲール先生はイケメン特有の社交辞令の言葉を残し、颯爽と帰って行った。


 くっうう、自分よりも美しい男性に『可愛らしい』と言われてとっても複雑な心境だ。

 女としての何かがガリガリと削られていく…


「大丈夫ですか?アヤカ様?」

 オリゲール先生の後ろ姿を無言で見つめる私にディランさんが心配そうに声をかけてくれた。


 ハッとしてディランさんの方を見ると、普通のイケメン顔にホッとする。


 地味な私ごときに『普通のイケメン顔』などと言われてディランさんも気の毒だが、ここは許して欲しい。


 そんな思いも込めて私はにっこりと笑顔を返した。


「大丈夫です。ディランさん、迎えに来てくれありがとうございます。いっぱいお勉強したからお腹がペコペコです」


「それは良かった、美味しくお昼ご飯が食べられますよ」

 ディランさんの屈託のない笑顔に癒されながら、私たちは部屋に向かった。



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